転生先は乙女ゲーム(?)の世界でした

おぼろそぼろ

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「そういうわけで、平民のお友だちをたくさん作るわ」
「どういうことかな、お姫様」


 真剣に意気込む私を、エルがニコニコ頬杖をつきながら見ている。


「殿下はきっと平民と仲良くなろうなんて思わないでしょ?」
「そうだろうね」
「だからね、私が平民と仲良くしていつも一緒にいて食事も一緒にとるくらいになれば、殿下がそこにいないのも違和感がないと思うの」


 エルと二人きりだったら、そこに殿下がいないことを突っ込まれるのは仕方がない。他の貴族と一緒でも突っ込まれる時は突っ込まれる。

 しかし平民に囲まれていれば、殿下が一緒じゃないのもみんな納得がいくはずだ。我ながら名案だと思い、顔には思わず笑みが浮かぶ。


「公爵令嬢、しかも王太子の婚約者とそうホイホイ仲良くなってくれそうな平民を探すのは骨が折れるだろうね」
「……身分なんて、わざわざ公表しなければそう簡単にわからないんじゃない?」
「お姫様に限っては、どう足掻いてもすぐバレると思うな」
「いや、万が一ってこともあるじゃない」
「第一、王太子の婚約者のことも知らないような世間知らずと、お姫様が仲良くなれるとは思わないんだ」
「う……」


 言葉に詰まる私に、エルがクスクス笑う。ああ、顔がいい。


「ま、窮屈なのはわかるよ。でも殿下が大人になるのを待つしかない」


 エルのしなやかな腕が伸びて私の頭を撫でる。ルーカスとはまた違ったその感触に目を細めたと同時に、教室のドアを開けて教師が入ってきた。

 教師の腕には、何か生き物のようなものが抱えられていた。


「皆様ご機嫌よう。本日は治療魔法基礎のついての講義を行う予定でしたが……

ちょうど中庭にこれが落ちていましたので、実際の魔法を見ていただくところから始めようかと思います」


 これ、と言いながら小さな毛玉のような何かを教卓に置き、灰色の髪をキツく縛って淑女然としたその教師は、ふと思い立ったようにこちらを見た。

 メガネの奥の瞳が私を捉える。


「アイラさん、お手本を見せてくださる?」


 質問のようではあるが、有無を言わさないそれは実質命令だった。はい、と返事をして私は教卓の方へ行く。

 教卓に力なく横たわっていたのは、背中に切り傷のある子猫だった。一体何があってこうなったのかわからないが、傷は深く子猫の息は今にも絶えそうだった。



《……流れ、たゆたい、全てを清める、あなたは水。

その源は尽きることのない泉、その水面は善を映す鏡。

光よ、癒しの風よ、命を燃やす炎よ。

小さき者はあなたを恋い慕います。時の流れさえも》


 この世界の魔法は、歌によって精霊を呼び寄せるところから始める。

 基本となる詩があってそれをアレンジして歌うのが主流だけれど、私が学んだ癒しの魔法はどの定型文にも属さない。



《ーーエルグクタ、どうか力を貸して》



 歌に誘われてやってきた精霊の名を呼ぶ。光のモヤのような姿の中に、美しい女性の優しい笑顔が浮かび上がった。


『いいわ、愛しい子。素敵な歌をありがとう』


 エルグクタ、という名のその精霊が、子猫の傷口に息を吹きかける。傷口を光が包み込んで、あっという間に消えていく。

 苦しそうに閉じられていたまぶたが開いて、愛らしい青い瞳が私を映した。


「素晴らしいお手本をありがとう、アイラさん」


 傷がなくなってきょとんとしている子猫の首元を摘み上げて窓から外に出しながら、教師が表情を変えずに言う。


「さすが、実際に現場を見ていただけあるわ。

……さあ、このようにして精霊を呼び出す歌のことを、詠唱詩と呼びます」


 淡々と、それでいて少し嘲笑を滲ませた言葉を私の耳もとでささやくと、女教師は何事もなかったように授業を始めた。

 静まり返っていた教室が教科書を開く音やメモを取る音で満ちていく。
 私は短くため息をついて、自分の席に戻った。


「どうした?何か言われた?」
「あの先生、殿下と気が合いそうよ」


 席につくなり声を潜めて聞いてきたエルにそう答えると、ああ、とエルもため息をついた。

 差別意識があるのは何も生徒たちだけではない。教師の中にも少なからずいるからこそ、黙認されているのだ。

 生まれについてとやかく言われることは慣れているし、私自身はそこにコンプレックスなど抱いていないから大した問題ではないけれど、気分が良くないのも確かだ。

 とはいえ、どんなに嫌われようと馬鹿にされようと、彼らに私の身分や家族を奪う権利などないのだから気にするだけ無駄だ。

 まったく、と思いながら教科書を取り出す私の横で、エルは何かを考えるようにじっと教師を見つめていた。
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