転生先は乙女ゲーム(?)の世界でした

おぼろそぼろ

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 その後授業は滞りなく終わり、私とエルは寮に戻る支度をしていた。そう、滞りなく。


「いやあ、それにしても凄かったね。姫と先生の熱い攻防」
「……やめて」


 楽しそうに笑うエルの横で私はただただ顔を覆うことしかできない。


「違うのよ、わざとじゃなかったの。仕返ししようなんて全然思ってなかったし……」
「わかってるわかってる」


 例の女教師はあの後も、難しい問題があったら試すように私を指名して答えさせていた。

 私は言われるままに答え、魔法を使い、時には教科書には載っていない問いにも答えてみせた。公爵令嬢がまさか基礎的な問題にも答えられないとあっては、それこそ生まれを笑われるに決まっている。

 そうしてそのうち、教科書に一箇所間違いを見つけてしまい、教師にそれを進言したのだ。

 すると教師は突然顔色を変えて、私への問いはより難しくより激しくなっていったのだ。枯れた植物の蘇生なんて絶対に治癒魔法基礎でやる内容じゃない。


「『きっとこれを書かれた方は、ご自分で薬草を摘みに行かれたことなんてないのでしょうね』だっけ?」
「私だってまさかあの先生が教科書を書いたなんて知らなかったのよ!知ってたらお兄様を経由してそっと伝えたわ!」


 そう、私が間違いを指摘したその教科書というのが、治癒魔法の権威でもある某教師の著書なのだ。

 大学なんかで自分の著書を授業で使う教授もいるとは聞いていたけれど、私の前世は高校生止まりだ。そんなこといちいち意識するわけがない。


「あまり対応が酷いようだったら、あとで学園長あたりに言いに行こうかと思っていたけど……さすがはお姫様だ。私が助けるまでもなかったよ」
「お願い、エル……もうやめてちょうだい……」
「何をだ」
「きゃああ!?」


 突然背後から聞こえた声に思わす悲鳴をあげる。恐る恐る振り替えると、そこには不機嫌そうに顔を歪めたアーサーがいた。


「で、殿下、どうされたんですか?わたくしに何か…」
「つけあがるな、お前じゃない。……エル、図書館へ行くからついて来い」
「え、私ですか?あー、これから姫を寮まで送るんで、そのあと合流しますよ」
「ルーカスがいるから問題ないだろう」


 アーサーの背後からルーカスが顔を覗かせる。もっと言うと、その後ろにはフランツもいる。幼なじみ勢ぞろいだ。


「殿下、図書館でしたら私も用があるので……アイラ、みんなで一緒に行こうか」
「……はい………」


 お兄さん、横にいる人の顔をよく見て!睨んでる!すっっごい睨んでる!!ーーーなんて言えるはずもなく、私は顔を青ざめさせながら頷くしかなかった。





**********





「目障りだから視界に入らないよう、後ろにいろ」


 アーサーにそう言われて、私はアーサーたちの三歩後ろを歩いている。

 どこの大和撫子かと思う。もういっそこのまま距離を離して逃げ出したい。

 王太子御一行と一緒に歩いていると、それまでガヤガヤしていた廊下は静まりかえり、生徒も教師も皆、端に避けて道を空ける。
 その中央を悠々と歩くアーサー、そして付き従う側近と公爵家の兄妹。

 とても目立つ。


「ミス・グレイスとやりあったんだって?クラスの人たちが噂してたよ」
「いえ、決して争おうなんて気持ちがあったわけではなくて…」


 そんな目立つ中で、普通に話しかけてくるルーカスはさすが次期公爵というべきか。

 私は声が震えないように抑えるだけで精一杯だと言うのになんだその余裕の笑みは。


「まあ放っておいてもそのうち、アイラの優秀さは学校中に広まっていただろうからね。兄としては鼻が高いよ」
「いえ、そんなことは、」
「そうそう、普段はエルばっか目立ってるけどさ、アイラだって相当頭いいもんな!」


 そんなことはない、とルーカスに言おうとするも、被せるようにしてフランツが会話に入ってくる。

 頼む、黙れ、それ以上は喋るんじゃない。


「入学前の試験だって、アイラに負けたもんだから、アーサーの機嫌が悪いのなんのって!」
「……フランツ、歯を全て抜いたらお前は少しは静かになるだろうか」


 やばいめっちゃ氷点下!と心の中のJKが手を叩いて笑う。しかしとてもじゃないが笑えるような空気ではない。


「……そうだ、アーサー、今日は図書館で一緒に授業の復習でもしましょうか」


 エルが気をつかって話題を変えようとするが、絶対零度の無言が続くばかりである。


「あの、お兄様やっぱり私、」


 一人でも大丈夫だから先に寮に戻りたい、と言おうとしたところで背後から「あっ」という声。

 振り向くと、同じクラスの女子生徒がこちらに向かっていた。

 彼女は確か名字を名乗らなかったから平民……そしてその視線の先には、アーサー………


(だめだ、危なすぎる、無理無理)


 ただでさえ機嫌の悪いこの王太子に睨みつけられでもしたら、平民の女の子なんて不登校はいいところ、場合によっては退学か、不敬とかなんとか理由をつけて法的処罰を与えられかねない。

 こちらに向けて伸ばされた少女の手首を、私は急いで掴んで止めた。


「だめよ、あなたが近づいていい方じゃない…わ……」


 掴んで止めた、その姿が教室の窓に映る。


「あ、あの、王太子殿下じゃなくてアイラ様が今ハンカチを……アイラ様?」
「アイラ、どうかした?」


 女子生徒とルーカスが、突然フリーズした私に声をかけるがそれどころではない。

 私は前世と合わせても生まれて初めて、“血の気が引く”を体験してしまった。顔が青く冷えていくのが自分でもわかる。


「アイラ?アイラ!」
「あ、ああ……お兄様、やっぱり私体調が良くない、みたいで……」
「すぐに医務室に行こう。歩ける?」
「いえ、大丈夫、寮に戻らせていただきます……」


 冷や汗が額を濡らす。ルーカスの顔からは笑みが消え、エルとフランツも真剣な面持ちでこちらの様子を見ている。
 
 大丈夫だから、と彼らを手で制して、私はフラフラと一行を離れて逆方向へと向かっていった。
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