6 / 11
5
しおりを挟むその後授業は滞りなく終わり、私とエルは寮に戻る支度をしていた。そう、滞りなく。
「いやあ、それにしても凄かったね。姫と先生の熱い攻防」
「……やめて」
楽しそうに笑うエルの横で私はただただ顔を覆うことしかできない。
「違うのよ、わざとじゃなかったの。仕返ししようなんて全然思ってなかったし……」
「わかってるわかってる」
例の女教師はあの後も、難しい問題があったら試すように私を指名して答えさせていた。
私は言われるままに答え、魔法を使い、時には教科書には載っていない問いにも答えてみせた。公爵令嬢がまさか基礎的な問題にも答えられないとあっては、それこそ生まれを笑われるに決まっている。
そうしてそのうち、教科書に一箇所間違いを見つけてしまい、教師にそれを進言したのだ。
すると教師は突然顔色を変えて、私への問いはより難しくより激しくなっていったのだ。枯れた植物の蘇生なんて絶対に治癒魔法基礎でやる内容じゃない。
「『きっとこれを書かれた方は、ご自分で薬草を摘みに行かれたことなんてないのでしょうね』だっけ?」
「私だってまさかあの先生が教科書を書いたなんて知らなかったのよ!知ってたらお兄様を経由してそっと伝えたわ!」
そう、私が間違いを指摘したその教科書というのが、治癒魔法の権威でもある某教師の著書なのだ。
大学なんかで自分の著書を授業で使う教授もいるとは聞いていたけれど、私の前世は高校生止まりだ。そんなこといちいち意識するわけがない。
「あまり対応が酷いようだったら、あとで学園長あたりに言いに行こうかと思っていたけど……さすがはお姫様だ。私が助けるまでもなかったよ」
「お願い、エル……もうやめてちょうだい……」
「何をだ」
「きゃああ!?」
突然背後から聞こえた声に思わす悲鳴をあげる。恐る恐る振り替えると、そこには不機嫌そうに顔を歪めたアーサーがいた。
「で、殿下、どうされたんですか?わたくしに何か…」
「つけあがるな、お前じゃない。……エル、図書館へ行くからついて来い」
「え、私ですか?あー、これから姫を寮まで送るんで、そのあと合流しますよ」
「ルーカスがいるから問題ないだろう」
アーサーの背後からルーカスが顔を覗かせる。もっと言うと、その後ろにはフランツもいる。幼なじみ勢ぞろいだ。
「殿下、図書館でしたら私も用があるので……アイラ、みんなで一緒に行こうか」
「……はい………」
お兄さん、横にいる人の顔をよく見て!睨んでる!すっっごい睨んでる!!ーーーなんて言えるはずもなく、私は顔を青ざめさせながら頷くしかなかった。
**********
「目障りだから視界に入らないよう、後ろにいろ」
アーサーにそう言われて、私はアーサーたちの三歩後ろを歩いている。
どこの大和撫子かと思う。もういっそこのまま距離を離して逃げ出したい。
王太子御一行と一緒に歩いていると、それまでガヤガヤしていた廊下は静まりかえり、生徒も教師も皆、端に避けて道を空ける。
その中央を悠々と歩くアーサー、そして付き従う側近と公爵家の兄妹。
とても目立つ。
「ミス・グレイスとやりあったんだって?クラスの人たちが噂してたよ」
「いえ、決して争おうなんて気持ちがあったわけではなくて…」
そんな目立つ中で、普通に話しかけてくるルーカスはさすが次期公爵というべきか。
私は声が震えないように抑えるだけで精一杯だと言うのになんだその余裕の笑みは。
「まあ放っておいてもそのうち、アイラの優秀さは学校中に広まっていただろうからね。兄としては鼻が高いよ」
「いえ、そんなことは、」
「そうそう、普段はエルばっか目立ってるけどさ、アイラだって相当頭いいもんな!」
そんなことはない、とルーカスに言おうとするも、被せるようにしてフランツが会話に入ってくる。
頼む、黙れ、それ以上は喋るんじゃない。
「入学前の試験だって、アイラに負けたもんだから、アーサーの機嫌が悪いのなんのって!」
「……フランツ、歯を全て抜いたらお前は少しは静かになるだろうか」
やばいめっちゃ氷点下!と心の中のJKが手を叩いて笑う。しかしとてもじゃないが笑えるような空気ではない。
「……そうだ、アーサー、今日は図書館で一緒に授業の復習でもしましょうか」
エルが気をつかって話題を変えようとするが、絶対零度の無言が続くばかりである。
「あの、お兄様やっぱり私、」
一人でも大丈夫だから先に寮に戻りたい、と言おうとしたところで背後から「あっ」という声。
振り向くと、同じクラスの女子生徒がこちらに向かっていた。
彼女は確か名字を名乗らなかったから平民……そしてその視線の先には、アーサー………
(だめだ、危なすぎる、無理無理)
ただでさえ機嫌の悪いこの王太子に睨みつけられでもしたら、平民の女の子なんて不登校はいいところ、場合によっては退学か、不敬とかなんとか理由をつけて法的処罰を与えられかねない。
こちらに向けて伸ばされた少女の手首を、私は急いで掴んで止めた。
「だめよ、あなたが近づいていい方じゃない…わ……」
掴んで止めた、その姿が教室の窓に映る。
「あ、あの、王太子殿下じゃなくてアイラ様が今ハンカチを……アイラ様?」
「アイラ、どうかした?」
女子生徒とルーカスが、突然フリーズした私に声をかけるがそれどころではない。
私は前世と合わせても生まれて初めて、“血の気が引く”を体験してしまった。顔が青く冷えていくのが自分でもわかる。
「アイラ?アイラ!」
「あ、ああ……お兄様、やっぱり私体調が良くない、みたいで……」
「すぐに医務室に行こう。歩ける?」
「いえ、大丈夫、寮に戻らせていただきます……」
冷や汗が額を濡らす。ルーカスの顔からは笑みが消え、エルとフランツも真剣な面持ちでこちらの様子を見ている。
大丈夫だから、と彼らを手で制して、私はフラフラと一行を離れて逆方向へと向かっていった。
0
あなたにおすすめの小説
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
想定外の異世界トリップ。希望先とは違いますが…
宵森みなと
恋愛
異世界へと導かれた美咲は、運命に翻弄されながらも、力強く自分の道を歩き始める。
いつか、異世界にと想像していた世界とはジャンル違いで、美咲にとっては苦手なファンタジー系。
しかも、女性が少なく、結婚相手は5人以上と恋愛初心者にはハードな世界。
だが、偶然のようでいて、どこか必然のような出会いから、ともに過ごす日々のなかで芽生える絆と、ゆっくりと積み重ねられていく感情。
不器用に愛し、愛する人に理解されず、傷ついた時、女神の神殿で見つけた、もう一つの居場所。
差し出された優しさと、新たな想いに触れながら、
彼女は“自分のための人生”を選び初める。
これは、一人の女性が異世界で出逢い、傷つき、そして強くなって“本当の愛”を重ねていく物語です。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~
雨宮羽那
恋愛
魔術国家アステリエで事務官として働くセレフィアは、義理の家族に給料を奪われ、婚期を逃した厄介者として扱われていた。
そんなある日、上司である魔術師長・シリウスが事務室へやってきて、「私と結婚してください」と言い放った!
詳しく話を聞けば、どうやらシリウスにも事情があるようで、契約結婚の話を持ちかけられる。
家から抜け出るきっかけだと、シリウスとの結婚を決意するセレフィア。
同居生活が始まるが、シリウスはなぜかしれっとセレフィアを甘やかしてくる!?
「これは契約結婚のはずですよね!?」
……一方セレフィアがいなくなった義理の家族は、徐々に狂い始めて……?
◇◇◇◇
恋愛小説大賞に応募予定作品です。
お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます( . .)"
モチベになるので良ければ応援していただけると嬉しいです!
※この作品は「小説家になろう」様にも掲載しております。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
前世で追放された王女は、腹黒幼馴染王子から逃げられない
ria_alphapolis
恋愛
前世、王宮を追放された王女エリシアは、
幼馴染である王太子ルシアンに見捨てられた――
そう思ったまま、静かに命を落とした。
そして目を覚ますと、なぜか追放される前の日。
人生、まさかの二周目である。
「今度こそ関わらない。目立たず、静かに生きる」
そう決意したはずなのに、前世では冷酷無比だった幼馴染王子の様子がおかしい。
距離、近い。
護衛、多い。
視線、重い。
挙げ句の果てに告げられたのは、彼との政略結婚。
しかもそれが――彼自身の手で仕組まれたものだと知ってしまう。
どうやらこの幼馴染王子、
前世で何かを盛大に後悔したらしく、
二度目の人生では王女を逃がす気が一切ない。
「愛されていなかった」と思い込む王女と、
「二度と手放さない」と決めた腹黒王子の、
少し物騒で、わりと甘い執着政略結婚ラブストーリー。
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる