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第ニ章 溺れればよかった、その愛に
約束はきっと儚い(2)
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白髪頭をかかえて、大仰にフリードは嘆きの表情を作ってみせる。
「アルフォンス殿下はたしか軍でご活躍されてましたよね。馬に揺られてあちこち遠征してたんでしょう? 馬も船も同じだと思うんですけど?」
「ぜ、全然違う!」
声を荒げると、フリードは俯いてしまった。
肩が小刻みに震えている。
笑っているのかと気付き、アルフォンスは必死に平静を取り繕った。
窓に視点を転じる。
よく磨かれた硝子越しに、街の様子が一望できた。
そう、この街の攻略だ。
そっちに思考を集中するんだと無理矢理目を凝らす。
まず圧倒されるのが街を囲む市壁の存在だ。
五万の民が住むグロムアス首都をぐるりと取り囲む高さ四メートル、幅二メートルの市壁。
馬車に揺られながら市壁の門をくぐったときは、壁ではなく建物の中に入ったのだと錯覚したものだ。
茶色と灰色、黒と白が混ざった煉瓦を丹念に積んで造られている。
さまざまな物質を混ぜた石材が使われているだけあって、耐久性も窺い知ることができた。
火矢程度ではびくともしないと見てとれる。
大量の火薬を使った攻撃にも十分耐えうる造りとなっているのだろう。
軍人目線で考えるなら、あの市壁があるかぎりグロムアス首都はまさに鉄壁の要塞であった。
「プフッ。《レティシアの黄金の剣》がまさかの船酔い……プフフッ」
「………………」
拳を握りしめる。
いや、気にするな。
おしゃべりな中年なんて放っておけ。
市壁には一分の隙もない。
だが、弱点のない要塞というものは存在しない。
目を凝らせば街を縦横に走る無数の水路。
鍵はそこに隠されている。
小舟が無数に行き交う水路の一部は市壁の外へも続いていた。
その部分だけはトンネルのように市壁をくり抜く形で穴が開けられているのだ。
「狙うならあの隙間だな」
ロイに言われなければ気付かなかっただろう。
この城塞都市の唯一の弱点が、外から流れこむ水路なのだ。
「船酔いのアルフォンスさん、何か仰いました?」
フリードの怪訝そうな声に「黙っていろ」と返すと、世話係兼見張りは大袈裟によろめいて泣き始めた。
「こんなに邪険にされるなんて! わたしは会話のキャッチボールを楽しみたいだけなのに」
「なんで俺がお前と和気あいあいと会話を楽しむと思ったんだ。俺は無理矢理ここに連れてこられたんだぞ」
「そ、そこは本当にうちの坊ちゃんが申し訳ない」
「アルフォンス殿下はたしか軍でご活躍されてましたよね。馬に揺られてあちこち遠征してたんでしょう? 馬も船も同じだと思うんですけど?」
「ぜ、全然違う!」
声を荒げると、フリードは俯いてしまった。
肩が小刻みに震えている。
笑っているのかと気付き、アルフォンスは必死に平静を取り繕った。
窓に視点を転じる。
よく磨かれた硝子越しに、街の様子が一望できた。
そう、この街の攻略だ。
そっちに思考を集中するんだと無理矢理目を凝らす。
まず圧倒されるのが街を囲む市壁の存在だ。
五万の民が住むグロムアス首都をぐるりと取り囲む高さ四メートル、幅二メートルの市壁。
馬車に揺られながら市壁の門をくぐったときは、壁ではなく建物の中に入ったのだと錯覚したものだ。
茶色と灰色、黒と白が混ざった煉瓦を丹念に積んで造られている。
さまざまな物質を混ぜた石材が使われているだけあって、耐久性も窺い知ることができた。
火矢程度ではびくともしないと見てとれる。
大量の火薬を使った攻撃にも十分耐えうる造りとなっているのだろう。
軍人目線で考えるなら、あの市壁があるかぎりグロムアス首都はまさに鉄壁の要塞であった。
「プフッ。《レティシアの黄金の剣》がまさかの船酔い……プフフッ」
「………………」
拳を握りしめる。
いや、気にするな。
おしゃべりな中年なんて放っておけ。
市壁には一分の隙もない。
だが、弱点のない要塞というものは存在しない。
目を凝らせば街を縦横に走る無数の水路。
鍵はそこに隠されている。
小舟が無数に行き交う水路の一部は市壁の外へも続いていた。
その部分だけはトンネルのように市壁をくり抜く形で穴が開けられているのだ。
「狙うならあの隙間だな」
ロイに言われなければ気付かなかっただろう。
この城塞都市の唯一の弱点が、外から流れこむ水路なのだ。
「船酔いのアルフォンスさん、何か仰いました?」
フリードの怪訝そうな声に「黙っていろ」と返すと、世話係兼見張りは大袈裟によろめいて泣き始めた。
「こんなに邪険にされるなんて! わたしは会話のキャッチボールを楽しみたいだけなのに」
「なんで俺がお前と和気あいあいと会話を楽しむと思ったんだ。俺は無理矢理ここに連れてこられたんだぞ」
「そ、そこは本当にうちの坊ちゃんが申し訳ない」
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