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第ニ章 溺れればよかった、その愛に
刺さる棘(2)
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一点を凝視する翡翠色の双眸。
手元の紙に何か書きつけているようだ。
ディオールは口元をほころばせる。
昔からそうだ。
王弟であり軍指揮官という立場のアルフォンスだが、何かに集中すると途端周囲が見えなくなる。
軍人としてそれは弱点に違いないが、ディオールはそんな弟分を見るのが好きだった。
アルが余所を向いているなら、自分が彼を守ってやらなくてはならないと。
視線に気付いたか。
ふと、金色の睫毛が震える。
「ディオ?」
果実のように潤む唇が己の愛称を紡ぐ様を、ディオールは呆けて見つめていた。
「ア、アル……」
駄目だ、何か言わなくては。
翡翠が訝し気に細められたではないか。
だからといって兄のように「きれいだ」などと歯の浮く台詞は口にできない。
ディオールは自分が相当不器用だと自覚していた。
だから選びに選び抜いた言葉はひどく凡庸なものとなる。
「その……大丈夫か?」
失敗したと悟ったのは、美貌に「不機嫌」の表情が張りついたから。
「どういう意味だ、ディオール」
ディオールの肩が、途端に縮められる。
「そ、その……」
「オレの尻の話か? それとも俺が捨てられたって話か?」
「そんなこと、私は……」
狼狽えながらも、ディオールは目の前の金髪の青年に見とれていた。
怒りと屈辱に滾る双眸は美しいとしかいえない。
「あいつは俺を無理矢理抱いて、こんな所にまで連れてきた。俺のすべてを奪ったくせに自分は……」
語尾は震え、途切れてしまった。
強引に身体を奪った男に、心まで囚われてしまったか。小刻みに揺れる肩を抱き寄せるべきだろうか──しかし伸ばされた手は無意味に空中をさまよう。
「アル、泣くな。あんたが泣くと、私はどうしていいか分からなくなる」
「泣いてなんか……っ」
肩に触れた手を、強情な弟分は振り払った。
とっさにその手首をつかむディオール。
ぐいと身を寄せられ、アルフォンスの身体が強張る。
「ディオ? よせ……」
根が気弱で忠実な元部下を、彼はこの期に及んで甘く見ていたに違いない。
手元の紙に何か書きつけているようだ。
ディオールは口元をほころばせる。
昔からそうだ。
王弟であり軍指揮官という立場のアルフォンスだが、何かに集中すると途端周囲が見えなくなる。
軍人としてそれは弱点に違いないが、ディオールはそんな弟分を見るのが好きだった。
アルが余所を向いているなら、自分が彼を守ってやらなくてはならないと。
視線に気付いたか。
ふと、金色の睫毛が震える。
「ディオ?」
果実のように潤む唇が己の愛称を紡ぐ様を、ディオールは呆けて見つめていた。
「ア、アル……」
駄目だ、何か言わなくては。
翡翠が訝し気に細められたではないか。
だからといって兄のように「きれいだ」などと歯の浮く台詞は口にできない。
ディオールは自分が相当不器用だと自覚していた。
だから選びに選び抜いた言葉はひどく凡庸なものとなる。
「その……大丈夫か?」
失敗したと悟ったのは、美貌に「不機嫌」の表情が張りついたから。
「どういう意味だ、ディオール」
ディオールの肩が、途端に縮められる。
「そ、その……」
「オレの尻の話か? それとも俺が捨てられたって話か?」
「そんなこと、私は……」
狼狽えながらも、ディオールは目の前の金髪の青年に見とれていた。
怒りと屈辱に滾る双眸は美しいとしかいえない。
「あいつは俺を無理矢理抱いて、こんな所にまで連れてきた。俺のすべてを奪ったくせに自分は……」
語尾は震え、途切れてしまった。
強引に身体を奪った男に、心まで囚われてしまったか。小刻みに揺れる肩を抱き寄せるべきだろうか──しかし伸ばされた手は無意味に空中をさまよう。
「アル、泣くな。あんたが泣くと、私はどうしていいか分からなくなる」
「泣いてなんか……っ」
肩に触れた手を、強情な弟分は振り払った。
とっさにその手首をつかむディオール。
ぐいと身を寄せられ、アルフォンスの身体が強張る。
「ディオ? よせ……」
根が気弱で忠実な元部下を、彼はこの期に及んで甘く見ていたに違いない。
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