簒奪王の劣情と黄金の秘めごと

陣リン

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第三章 憎しみと剣戟と

なれのはての恋心(4)

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     ※  ※  ※


 黒髪に縁どられ、額の色はいつもより青白く映った。
 だが浅い呼吸の奥には安らいだ息遣いも感じられる。
 黒曜石の眼にも光が戻っていた。

「アルフォンス殿下、来てくれた……」

「喋るな」

 アルフォンスでいい──小さく告げて、金髪の青年は黒衣の男の傍らに腰を落とした。

「無様だな。死にかけじゃないか」

 触れた黒衣が血を吸ってしっとり濡れていることに、あらためて驚きの表情を作ってからアルフォンスは王の服を脱がそうと引っ張る。

「やめ……」

「な、何だ、その反応は。違うぞ? 俺は傷の手当てを」

 予想外の抵抗に、アルフォンスは頬を赤らめる。
 視線を泳がせた後、手負いの王の抵抗など些末なものとばかりに黒衣を剥いだ。

「………………」

 背に胸に。
 無数の引き攣れた傷痕が白く浮いている。
 唇を噛みしめ、アルフォンスは腹の傷、それから矢が刺さった肩の新しい傷に視線を転じた。

「見ないでくださ……」

 力なく腕を垂らし、王は俯く。

「誰も見てない。ここにいるのは俺とお前ふたりだけだ」

 肩の傷は大したことはない。
 それほど深くはないし、出血も止まっている。
 問題は数日前に受けた腹の傷だなと、アルフォンスは自らのシャツの裾を千切った。

 解けかけた包帯の下で傷口が赤く膨らみ、血の色をした水分が滲み出ている。
 傷が開きかけているのだ。
 治りきっていないうえに無茶な動きをした。
 幾分、自業自得な側面はあろうがそこには目を瞑る。

「本当は消毒をしたいところだが、仕方ない。今は止血だ」

 痛むぞと声をかけ、包帯を巻き直しシャツの布で押さえつける。
 呻き声を漏らしつつ、
 尚もカインは首を振って抵抗した。

「……あなたに見られたくないんだ。こんな醜い体を」

 布の端をきつく結わえながらアルフォンスは何度か口を開きかけ、しかし言葉を失ってしまう。

 九年前のあの日。
 無知で浅はかだった幼い自分のせいで、この男は大きな傷を負ったのだ。
 体も心も今尚癒えない深い傷を。

 ──醜いものか。

 囁いた唇がカインの胸に触れた。

「アルフォンス……?」

 戸惑いの声が降る中、薄紅の唇が傷痕に押し当てられる。
 唾液が肌を濡らし、小さな音をたてた。
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