簒奪王の劣情と黄金の秘めごと

陣リン

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終章

黄金の祝祭(5)

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「別に仲良くなったわけじゃない。水路の側でディオール、お前が倒れているのを見つけたんだ。俺ひとりで手当てをしていたところをリリアナ嬢が通りかかって手伝ってくれた。覚えていないのか?」

 思っていた以上にお前は重かったんだ、ディオール。
 俺一人じゃ到底部屋まで運べなかったなと、逆にジロリと睨まれディオールが呻き声を漏らす。

「不服なのか? 路肩に放置されていたほうが良かったか?」

「ア、アル、すまなかった……でも」

 口ごもりながらも、ディオールはいつもの調子でボソボソ呟く。

「わ、私は至近距離から矢で射られたんだ。少しは……」

 言外に労わってほしいと願望をにじませるかつての忠臣の胸を、アルフォンスは拳で叩いた。
 「ぐうっ」と漏れる悲鳴。
 これは本気で痛がっている。

「矢とは一定程度の高さに打ち上げて、落下速度を矢尻の重さに乗せてこそ効果を発揮する武器だ。近距離で、しかも水平方向からの一射にそれほど威力はない。筋肉に弾かれて体への損傷は少ないはずだ」

 それを大袈裟に倒れてと、アルフォンスは呆れ顔だ。
 何度も共に戦場を駆け抜けてきただけに、兄貴分のこの体たらくにツンとそっぽを向く。

「すまない、アル……」

 ディオールはいつものようにシュンとうなだれてしまった。
 怪我人相手にけっこう辛辣ですねと、カインの眼も泳いでいる。
 助けを求める弟の視線に気付いたようだが、こちらは無視する構えのようだ。

「そもそもディオ、お前は……」

 アルフォンスの声が一段と低くなった。

「お前は自分の立場をはっきりさせろ。:俺側(レティシア)か、グロムアス側か。微妙なようではいつか背後から刺されるぞ」

 腹を押さえていた手をディオールは下ろした。
 かつての主人で友、そして弟分の手をとる。

「私は幼いころ奴隷として捕らえられた。兄さんのおかげで逃げることができたが、行くあてもなく一人孤独にさまよっていた。それを救ってくれたのはあんただ」

 白い手のひらは華奢なようでいて剣だこで固い。
 ディオールはその指に唇を寄せた。

「兄さんもそうかもしれない。だが私にとっても、あんたの黄金は救いだったんだ」

「ディオ……」

「あんたを守りたい。それだけなんだ。始めから言っているだろう」

 微かに微笑んで、アルフォンスはもう一度兄貴分の胸を叩いた。


     ※  ※  ※
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