天使のような子の怪我の手当てをしたら氷の王子に懐かれました

藤吉めぐみ

文字の大きさ
23 / 73

7-1

しおりを挟む

 翌日、アドウェルとレミウェルの二人と朝食を済ませると、アドウェルが、この後リゲルのところへ行こう、と言った。
「念のため、もう一度診てもらおう」
 渡り廊下を歩きながら、アドウェルが微笑む。今日は城の中で仕事をするらしく、白いシャツと細身の黒のパンツを身に着けていた。先日の白いスーツも王子然としていてカッコよかったが、銀糸で刺繍がされた白いシャツもとてもよく似合っている。
「ホントに大丈夫なんですけど……て、いうか、この国って医者はいないんですか?」
 怪我をした時もそうだったが、魔法使いのところへと連れてこられた。リゲルがアドウェルの母親を助けられなかったと悔いてもいたし、医学というものは存在しないのだろうか、と思ったのだ。
「いるよ。ただ、医者より魔法使いの方が好まれる」
「確かに……薬や手術は時間もかかるし、痛みを伴うことがあるし……あんな一瞬で治るなら、魔法使いの方がいいですね」
「だろう? でも、彼らの治療費は高いんだ。だから、とりあえず駆け込むのが医者、という感じだな。その場で適切な処置はしてくれるから」
「なんだかこの国のお医者さんと、僕がしていた仕事がちょっと似ている気がします」
 世凪が仕事のことを思い出し、ふふ、と笑うと、アドウェルがこちらを覗き込み、どんな仕事だ? と聞いた。
「僕のいたところの学校には『保健室』という応急処置をする場所があって、そこで医者ではなく『先生』として働いていました。怪我や病気の知識を持ってはいますが、実際に医療行為はしません。話や悩みを聞くこともありますが、本当に聞くだけですし、先生の資格はありますが、特別何かを教えたり成績をつけたりすることもないんです」
 不思議な職業でしょう、と世凪が笑う。アドウェルはその言葉を聞いてしばらく黙っていたが、それは、と口を開いた。
「まるで母親だな」
「ああ、確かに。女性が多い職業ではありますね」
「そこに行けば、少しは楽になる、手を差し伸べてくれる人がいる、というのは心強いな」
 いい仕事だな、とアドウェルが力強く頷く。それを見て、世凪は一瞬驚いて、でも嬉しくて、はい、と頷いた。
「僕は、その仕事が楽しいと思ってました」
「確かに、世凪はひとの為に動くことに抵抗がないのだろう。それは、世凪のとても美しいところだと思う」
 その言葉の方が美しいと思った。ちゃんと自分のことを見てくれていたことも、そんな言葉をくれたことも胸が暖かくなるほど嬉しい。
「アド王子も、こんな素性のしれない僕に優しくできるのだから、それは尊いことだと思いますよ」
「……それは、どうだろうな」
 ぽつりと呟いたその横顔に首を傾げた世凪だったが、何か聞く前にリゲルの元に着いてしまった。アドウェルを前にして部屋に入ると、リゲルがこちらに柔らかな笑みを向けた。
「おはようございます、アドウェル王子。世凪様も、体調はいかがですか?」
「おかげさまで、今はとても調子がいいです」
 世凪が答えると、アドウェルがこちらを振り返り、口を開いた。
「と、言っているが、いまいち世凪の言葉は信用できないから、もう一度診てやってほしい」
「信用できないって……そんなこと」
 こちらを見下ろす冷ややかな目に、世凪が不機嫌に言葉を返す。するとアドウェルの手がこちらに伸びて、世凪の背中をそっと押した。
「手に怪我をした時、世凪は咄嗟に『大丈夫』と言ったな。でも、リゲルはその傷を見て『痛そう』と言った。だから、世凪の自身に関する言葉は疑うことにした。本当に調子がいいのかは、リゲルに聞く」
 世凪をリゲルの前へと立たせ、アドウェルが片手で世凪の背中をそっと支える。
「さすがに倒れませんよ」
「分からないだろう」
 眉根を寄せて世凪がアドウェルを見上げると、少し眇めた目をしたアドウェルがそう返す。全く信用されていないということは、この言葉と態度ですぐに分かった。
 二人のやり取りを黙ってみていたリゲルが小さく息を吐き、こちらに近づく。
「では、少し診せてください、世凪様」
「あ、はい……」
 どうしたらいいのか分からず、世凪がそのまま立っていると、リゲルの手が世凪の体に触れるか触れないかの距離でかざされる。それからじっと瞳を見つめられ、世凪は動揺して視線を泳がせてしまう。するとリゲルは小さく微笑んだ。
「世凪様の言葉は信じていいようですよ、アドウェル様」
「そうか。それなら安心した」
「僕の話なのに、僕抜きで結論出すの、やめてもらっていいですか……?」
 アドウェルとリゲルの会話を聞いていた世凪が怪訝に言葉を挟む。するとアドウェルは世凪に柔らかい表情を浮かべ、言葉を返した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!

永川さき
BL
 魔術教師で平民のマテウス・アージェルは、元教え子で現同僚のアイザック・ウェルズリー子爵と毎日食堂で昼食をともにしている。  ただ、その食事風景は特殊なもので……。  元教え子のスパダリ魔術教師×未亡人で成人した子持ちのおっさん魔術教師  まー様企画の「おっさん受けBL企画」参加作品です。  他サイトにも掲載しています。

勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました

BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」 え?勇者って誰のこと? 突如勇者として召喚された俺。 いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう? 俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

【完結】おじさんダンジョン配信者ですが、S級探索者の騎士を助けたら妙に懐かれてしまいました

大河
BL
世界を変えた「ダンジョン」出現から30年── かつて一線で活躍した元探索者・レイジ(42)は、今や東京の片隅で地味な初心者向け配信を続ける"おじさん配信者"。安物機材、スポンサーゼロ、視聴者数も控えめ。華やかな人気配信者とは対照的だが、その真摯な解説は密かに「信頼できる初心者向け動画」として評価されていた。 そんな平穏な日常が一変する。ダンジョン中層に災厄級モンスターが突如出現、人気配信パーティが全滅の危機に!迷わず単身で救助に向かうレイジ。絶体絶命のピンチを救ったのは、国家直属のS級騎士・ソウマだった。 冷静沈着、美形かつ最強。誰もが憧れる騎士の青年は、なぜかレイジを見た瞬間に顔を赤らめて……? 若き美貌の騎士×地味なおじさん配信者のバディが織りなす、年の差、立場の差、すべてを越えて始まる予想外の恋の物語。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

処理中です...