天使のような子の怪我の手当てをしたら氷の王子に懐かれました

藤吉めぐみ

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「あ、はい。喜んで」
 世凪が答えると、どうぞ、とテーブル近くの椅子を勧められる。そのまま世凪はその椅子に座った。目の前のカップに飴色のお茶が注がれ、世凪は傍に居たリゲルを見上げた。
「魔法でお茶を淹れたりしないんですね」
「基本の日常生活は、普通に自身の力で行いますよ。魔力にも限度がありますから」
 世凪の素朴な疑問に答えてから、リゲルがテーブルの向こう側の椅子に落ち着く。
「魔力って、補給したりできないんですか? 特別な人と接することで得られるとか」
 前にそんな漫画を読んだ気がして、世凪が聞く。あれは設定がインキュバスで、ドロドロな濡れ場があったな、と思うとなんだか少しドキドキしてしまった。
「残念ですが補給はできません。でも増幅はできます。たとえば、世凪様の傷を治す時に使った薬なんかは、私の魔力をほんの少し入れただけのもので、直接治癒するよりもずっと少ない魔力で同じ効果を出せるんですよ」
 リゲルとどこかの令嬢の濃密な関係を想像してしまっていた世凪にも、補給できないのは別の意味で残念だなあと思ったが、ここはそんなことを思っている場合ではない。
 机に並ぶ小瓶たちは、魔法使いの知恵ということなのだろう。
「節約して使ってるってことですね」
「魔力イコール寿命なので、そうせざるを得ないのですよ」
 ふふふ、と笑いながらカップを手にするリゲルに、世凪は驚いたまま何も言えなかった。だったら、魔法使いだと誰にも悟られなければ、ずっと長生きできるということなのではないか。魔力を使うたびに命を削っているということなのだろうから、リゲルは仕事をするたびに自分が確実に死に近づいていると感じるということだろう。それは、恐ろしくないのだろうか。
「す、みません……何度も僕は、リゲルさんの命を……」
「あれくらいは、喫煙みたいなものですよ。喫煙者は吸わない人よりも確実に寿命が縮むと分かっていながら、煙草を嗜むでしょう? その程度なのでお気になさらず」
 リゲルが優しく微笑む。確かに分かりやすい例えではあるが、それでも余計な仕事をさせてしまったのではないかと思うと、少し胸が痛む。
「他にも、この城で働く人たちの怪我や病気も診てるんですか?」
「そうですね。そのために私がいますから」
「小さな怪我や軽い体調不良でも?」
「当然です。それが仕事ですから」
 確かに仕事と言われては、その通りなのだろう。けれどそんなことにもリゲルの命が削られていると聞いてしまったら、放ってはおけなかった。
「リゲルさん……薬って作れないんですか?」
「薬、ですか?」
「ここにあるのは、増幅させる媒体のようなものなんですよね。治癒効果は薄くなったとしても、小さな怪我や軽い病気はそちらでもいいんじゃないかと思うんです。そうすれば、直接治癒することもなくなって、魔法の消費もぐっと減るんじゃないんですか?」
 ゲームで見るような回復アイテムなんて便利な物を作れるとは思わないけれど、その症状にあった医療的な薬があるのなら、リゲルなら作るのだって可能じゃないかと思ったのだ。
「……考えもしなかったです。私はここでは消耗品のようなものなので……」
 リゲルが視線を伏せて、カップを手に取る。その曇った表情は、以前来た時も見たものだった。
「それは……リゲルさんが城から出られないことと、関係がありますか?」
「……世凪様は聡いお方ですね。私は、アドウェル様のお母様を助けることができなかったんです。その罰としてここで命が尽きるまで働くことが決まっています」
 やっぱりという気持ちと、どうしてという気持ちが同時に浮かび、世凪が言葉をなくす。それを見たリゲルは、命があるだけましなのです、と微笑んだ。
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