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「私は、国王様に頭を下げられ『なんでもするから助けてくれ』と懇願までされたのにあの方を救えなかったんです」
「でも……アド王子があなたのせいではないとおっしゃってました。あの後、少しだけアド王子から話を聞きましたけど、体調を崩しがちだったところに妊娠出産となったそうですね。体に負担がかかって当然です。これに関しては、リゲルさんの責任ではなく、どちらかといえば国王様のせいだと思います」
まずは体調を回復させることが先決だったと思います、と世凪が強い口調で告げると、リゲルがくすくすと笑い出した。
「ぐうの音も出ないほどの正論ですね。でも、アドウェル様のお母様……ミシェル様は、本当に美しい方でしたから、国王様もその魅力に抗えなかったのでしょう」
リゲルの口からも『美しい』と出た。本当にアドウェルの母・ミシェルはキレイな人だったのだろう。確かにアドウェルもレミウェルも整った顔をしている。きっと母方の遺伝子が作り出したに違いない。
そう考えると、そんな人に自分を近づけようだなんて、土台無理な話なのかもしれない。でも、少しでもアドウェルによく思われたいという気持ちもある。
「僕と同じ、泉から来た方だと聞きました。どんな方だったんですか?」
きっと自分には到底近づけないと思う事がたくさん出てくるのだろうと思った。それでも知りたいのだ。アドウェルを産み、育んだ人を。
「そうですね……一言でいえば女神です。優しく穏やかな印象ですが、悪いことを悪いと言える正義も持っていて……ミシェル様が泉から来た時、今の国王様は即位したばかりで、ワガママに育った環境もあって、お世辞にも良い政治をしているとは言えませんでした。それを正していったのがミシェル様です」
それはアドウェルからも聞いていたことだった。それだけミシェルに魅力があり、有無を言わせぬ引力があったのだろう。そうでなければ、すぐ側室に、などという話にはならないはずだ。
「泉から来たってことは、別のところで違う人生を送っていたんですよね?」
「ええ……前は経営を学ぶ学生だったそうです。弟妹がいて、母親の代わりをしていたという話を聞いたことがあります。だから、国王様も弟のように見えた、と笑って話されてましたよ」
遠い昔を思い出すようにリゲルが世凪の向こうへと視線を向ける。後ろには誰もいないと分かっていた。きっと、世凪の向こうにミシェルを見ているのだろう。少し、心臓が痛い。
「そう、なんですね……彼はきっと、そんな国王様に寄り添うために呼ばれたんでしょうね」
――じゃあ、僕は?
そんな疑問が浮かんでしまうのは、仕方ないことだった。今のところ、レミウェルと遊ぶ以外のことをしていないのだ。このまま、やっぱり間違えて呼ばれたようだから城から出そう、なんて話になってしまうのは少し困る。
「あの……空いた時間で構わないので、僕にリゲルさんの手伝い、させてもらえませんか?」
少し黙ったと思ったら突然そんなことを言った世凪に、リゲルが首を傾げる。
「どうして、突然そんなことを? 今の世凪様は、この国と城に慣れることが最優先だと思われますが……もしかして、ここに呼ばれた理由を探してますか?」
図星をつかれ、世凪は少し迷いつつも、静かに頷いた。
「ミシェルさんのことを聞けば聞くほど、自分とはかけ離れた人に思えて、自分は本当は間違えてここに呼ばれたんじゃないかって思えて……」
王様を支える知識も、諭す勇敢さも持っていない。そんな自分がどうしてここに来たのか分からない世凪が素直に告げると、リゲルが優しく微笑んだ。
「世凪様は正当な『泉に呼ばれた者』です。でなければ、きっと言葉すら通じないはずです」
初めは夢だと思っていたから、すぐに異国だと分かる場所で暮らしている人たちの言葉が分かっても当然だと思っていた。でも、これが本当にこの国に来てしまっているのなら、あんな島国の特殊な言葉を世界共通のように話しているはずないのだ。
「……呼んだからにはコミュニケーションくらいとれるようにしようっていう、泉の計らいでしょうか……?」
「まあ、おそらくは。なので、私のことは気にせず、世凪様のしたいように過ごしていただいて大丈夫ですよ」
リゲルはそう言うが、世凪はやっぱりあのまま子どもと遊ぶだけの日々を繰り返すのは違うと思った。世凪が改めてリゲルを見つめ、口を開く。
「僕、簡単な傷の手当や、体調不良の応急処置くらいなら出来るんです。ここに医者が使うような薬や道具があれば、魔法じゃなくてもいい症状に対して、僕がケアすることもできると思うんです。当然、医者ではないので、やれることは限られますけど……少しでもお手伝いをさせてください」
世凪が頭を下げると、しばらく黙っていたリゲルが小さくを息を吐いた。それを聞いて世凪が顔を上げる。
「……必要な物を持ち込むのは簡単ではありますが……そもそもアドウェル様が、世凪様をここに通わせることをお許しになるか、ですね」
「そこは、説得します! 寿命を削ってるなんて話を聞いてしまったからには放ってはおけません」
世凪がまっすぐにリゲルを見つめると、いつもは少しつり上がっている目尻がふわりと下がった。
「分かりました。私も、ここにある薬に手を加えて、魔法薬ができないかやってみましょう」
「はい、頑張りましょう、リゲルさん」
世凪が立ち上がり、リゲルに手を差し出す。一瞬戸惑ったリゲルだったが、その右手を差し出し、世凪の手をぎゅっと握った。
「ありがとうございます、世凪様」
リゲルの柔らかな笑みを見て、世凪は同じように笑顔で大きく頷いた。
「でも……アド王子があなたのせいではないとおっしゃってました。あの後、少しだけアド王子から話を聞きましたけど、体調を崩しがちだったところに妊娠出産となったそうですね。体に負担がかかって当然です。これに関しては、リゲルさんの責任ではなく、どちらかといえば国王様のせいだと思います」
まずは体調を回復させることが先決だったと思います、と世凪が強い口調で告げると、リゲルがくすくすと笑い出した。
「ぐうの音も出ないほどの正論ですね。でも、アドウェル様のお母様……ミシェル様は、本当に美しい方でしたから、国王様もその魅力に抗えなかったのでしょう」
リゲルの口からも『美しい』と出た。本当にアドウェルの母・ミシェルはキレイな人だったのだろう。確かにアドウェルもレミウェルも整った顔をしている。きっと母方の遺伝子が作り出したに違いない。
そう考えると、そんな人に自分を近づけようだなんて、土台無理な話なのかもしれない。でも、少しでもアドウェルによく思われたいという気持ちもある。
「僕と同じ、泉から来た方だと聞きました。どんな方だったんですか?」
きっと自分には到底近づけないと思う事がたくさん出てくるのだろうと思った。それでも知りたいのだ。アドウェルを産み、育んだ人を。
「そうですね……一言でいえば女神です。優しく穏やかな印象ですが、悪いことを悪いと言える正義も持っていて……ミシェル様が泉から来た時、今の国王様は即位したばかりで、ワガママに育った環境もあって、お世辞にも良い政治をしているとは言えませんでした。それを正していったのがミシェル様です」
それはアドウェルからも聞いていたことだった。それだけミシェルに魅力があり、有無を言わせぬ引力があったのだろう。そうでなければ、すぐ側室に、などという話にはならないはずだ。
「泉から来たってことは、別のところで違う人生を送っていたんですよね?」
「ええ……前は経営を学ぶ学生だったそうです。弟妹がいて、母親の代わりをしていたという話を聞いたことがあります。だから、国王様も弟のように見えた、と笑って話されてましたよ」
遠い昔を思い出すようにリゲルが世凪の向こうへと視線を向ける。後ろには誰もいないと分かっていた。きっと、世凪の向こうにミシェルを見ているのだろう。少し、心臓が痛い。
「そう、なんですね……彼はきっと、そんな国王様に寄り添うために呼ばれたんでしょうね」
――じゃあ、僕は?
そんな疑問が浮かんでしまうのは、仕方ないことだった。今のところ、レミウェルと遊ぶ以外のことをしていないのだ。このまま、やっぱり間違えて呼ばれたようだから城から出そう、なんて話になってしまうのは少し困る。
「あの……空いた時間で構わないので、僕にリゲルさんの手伝い、させてもらえませんか?」
少し黙ったと思ったら突然そんなことを言った世凪に、リゲルが首を傾げる。
「どうして、突然そんなことを? 今の世凪様は、この国と城に慣れることが最優先だと思われますが……もしかして、ここに呼ばれた理由を探してますか?」
図星をつかれ、世凪は少し迷いつつも、静かに頷いた。
「ミシェルさんのことを聞けば聞くほど、自分とはかけ離れた人に思えて、自分は本当は間違えてここに呼ばれたんじゃないかって思えて……」
王様を支える知識も、諭す勇敢さも持っていない。そんな自分がどうしてここに来たのか分からない世凪が素直に告げると、リゲルが優しく微笑んだ。
「世凪様は正当な『泉に呼ばれた者』です。でなければ、きっと言葉すら通じないはずです」
初めは夢だと思っていたから、すぐに異国だと分かる場所で暮らしている人たちの言葉が分かっても当然だと思っていた。でも、これが本当にこの国に来てしまっているのなら、あんな島国の特殊な言葉を世界共通のように話しているはずないのだ。
「……呼んだからにはコミュニケーションくらいとれるようにしようっていう、泉の計らいでしょうか……?」
「まあ、おそらくは。なので、私のことは気にせず、世凪様のしたいように過ごしていただいて大丈夫ですよ」
リゲルはそう言うが、世凪はやっぱりあのまま子どもと遊ぶだけの日々を繰り返すのは違うと思った。世凪が改めてリゲルを見つめ、口を開く。
「僕、簡単な傷の手当や、体調不良の応急処置くらいなら出来るんです。ここに医者が使うような薬や道具があれば、魔法じゃなくてもいい症状に対して、僕がケアすることもできると思うんです。当然、医者ではないので、やれることは限られますけど……少しでもお手伝いをさせてください」
世凪が頭を下げると、しばらく黙っていたリゲルが小さくを息を吐いた。それを聞いて世凪が顔を上げる。
「……必要な物を持ち込むのは簡単ではありますが……そもそもアドウェル様が、世凪様をここに通わせることをお許しになるか、ですね」
「そこは、説得します! 寿命を削ってるなんて話を聞いてしまったからには放ってはおけません」
世凪がまっすぐにリゲルを見つめると、いつもは少しつり上がっている目尻がふわりと下がった。
「分かりました。私も、ここにある薬に手を加えて、魔法薬ができないかやってみましょう」
「はい、頑張りましょう、リゲルさん」
世凪が立ち上がり、リゲルに手を差し出す。一瞬戸惑ったリゲルだったが、その右手を差し出し、世凪の手をぎゅっと握った。
「ありがとうございます、世凪様」
リゲルの柔らかな笑みを見て、世凪は同じように笑顔で大きく頷いた。
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