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「レミ、久しぶりだね」
「かあさま……もう、元気になった? お話できる?」
その場に佇んだままレミウェルが世凪に問う。世凪はそんなレミウェルに近づいてから彼の目線になるようにしゃがみ込んだ。
「うん、長く休んでてごめんね。よかったら、中でお話しようか?」
世凪が誘うとレミウェルは花が綻ぶように表情を明るく変えたが、傍の衛兵は、いけません、と首を振った。
「本日から世凪様とお会いになれる男性は国王様とフェルジェ様だけです」
「……あなたは?」
「え?」
「あなたも男性ですよね?」
「それは、そうですが……」
世凪に詰められ、衛兵がたたらを踏むように後退りをする。それを見て世凪が微笑む。
「すみません。仕事だと分かっています。でも、たった五歳の子に何か出来るはずがないし、この子は僕が母親になるかもしれないんですから、大丈夫です。心配なら、あなたも中へどうぞ」
世凪が衛兵に言い切ってからレミウェルに視線を移し、手を差し出す。
「久しぶりに一緒にお茶にしようか、レミ」
「……うん!」
飛びつくように世凪の手を取ったレミウェルを連れ、世凪が部屋の中へと入る。するとマリアがくすくすと笑ってから口を開いた。
「では、レミウェル様の分もお茶とお菓子をご用意してきますね」
それからふと衛兵に視線を向ける。マリアからの視線を受け、衛兵は慌ててドアの横に背筋を伸ばして立ち直した。
「わ、私は、外で任務に徹します」
それを見ていたマリアが、では、とドアを閉める。それを合図に世凪はレミウェルをソファに座らせ、自分もその隣に座った。
「かあさま……お父さまから、かあさまがお父さまと結婚して本当のかあさまになると聞いたの。でも……ぼく、嬉しくない」
二人きりになった途端、レミウェルは少し表情を暗くして、ゆっくりとそんなことを話した。どうやら国王は世凪が絶対に国王を選ぶと確信しているらしい。国王という立場、世凪がレミウェルを可愛がっていることも含め、それは揺るがないと思っているのだろう。
「それはまだ決まったことじゃないんだけど……どうして嬉しくないのか、聞いてもいい?」
レミウェルには懐かれていると思っていた。そんな世凪が母親になるなら、喜ぶかと思っていたのでその言葉は少し予想外ではあった。
「だって……かあさまは、アド兄さまが好きでしょう? アド兄さまだって、かあさまのことが好きなのに、どうして二人ともそれを言わないの?」
レミウェルの穢れのない瞳がこちらをまっすぐに見つめる。キラキラと澄んだその目に見つめられると、心の底まで見られているような気がして、世凪はレミウェルから視線を逸らした。
レミウェルには気持ちが見えてしまっていたらしい。恥ずかしいけれど、同時にレミウェルからでもアドウェルが世凪に好意を持っていると聞けて嬉しかった。
「それは……どうして、だろうね……」
結ばれない運命にあるから、なんて五歳の子どもに話したところで何も分かってくれないだろう。世凪は曖昧な言葉でごまかすしか出来なかった。
「昨日ね、アド兄さまにも言ったの。そうしたらね、『もう気持ちは決まってる』って言ってた……でもぼくは、アド兄さまとかあさまと一緒に居たいんだ」
気持ちは決まっている――それはつまり、今夜誰かを選んでその人を妻にすると決めている、ということだろうか。世凪との約束もあるだろうから、きっと自分が好きになれる人を選ぶのだろう。そうすることをもう決めているということに違いない。
「そう、だね……本当は僕も、アド王子とレミといる時間が幸せだよ」
三人で食卓を囲んでいた日々が懐かしい。あの時は、こんなに切ない気持ちになるなんて思っていなかったけれど、気づいていなかっただけで、アドウェルに出会ったその瞬間に恋は始まっていたのだろう。だからこそ、こんなにも深く、あの人を愛している自分がいるのだ。世凪にとって、これは人生最大の、最後の恋だ。
「だったら、かあさまからアド兄さまに好きって言ってね。そうしたらアド兄さまも好きって言ってくれると思う。それで、また三人でご飯たべよう、かあさま」
懇願するような言葉を聞いて、世凪がレミウェルに視線を戻す。その期待に満ちた笑顔に世凪は否定の言葉を返すことはできなかった。
「そうだね……今日、ちゃんと伝えるよ」
本当はもう伝えられないし、彼もレミウェルでさえも世凪のことを忘れるけれど――そう思うと、世凪の胸は罪悪感と寂しさでぎゅっと痛むのだった。
「かあさま……もう、元気になった? お話できる?」
その場に佇んだままレミウェルが世凪に問う。世凪はそんなレミウェルに近づいてから彼の目線になるようにしゃがみ込んだ。
「うん、長く休んでてごめんね。よかったら、中でお話しようか?」
世凪が誘うとレミウェルは花が綻ぶように表情を明るく変えたが、傍の衛兵は、いけません、と首を振った。
「本日から世凪様とお会いになれる男性は国王様とフェルジェ様だけです」
「……あなたは?」
「え?」
「あなたも男性ですよね?」
「それは、そうですが……」
世凪に詰められ、衛兵がたたらを踏むように後退りをする。それを見て世凪が微笑む。
「すみません。仕事だと分かっています。でも、たった五歳の子に何か出来るはずがないし、この子は僕が母親になるかもしれないんですから、大丈夫です。心配なら、あなたも中へどうぞ」
世凪が衛兵に言い切ってからレミウェルに視線を移し、手を差し出す。
「久しぶりに一緒にお茶にしようか、レミ」
「……うん!」
飛びつくように世凪の手を取ったレミウェルを連れ、世凪が部屋の中へと入る。するとマリアがくすくすと笑ってから口を開いた。
「では、レミウェル様の分もお茶とお菓子をご用意してきますね」
それからふと衛兵に視線を向ける。マリアからの視線を受け、衛兵は慌ててドアの横に背筋を伸ばして立ち直した。
「わ、私は、外で任務に徹します」
それを見ていたマリアが、では、とドアを閉める。それを合図に世凪はレミウェルをソファに座らせ、自分もその隣に座った。
「かあさま……お父さまから、かあさまがお父さまと結婚して本当のかあさまになると聞いたの。でも……ぼく、嬉しくない」
二人きりになった途端、レミウェルは少し表情を暗くして、ゆっくりとそんなことを話した。どうやら国王は世凪が絶対に国王を選ぶと確信しているらしい。国王という立場、世凪がレミウェルを可愛がっていることも含め、それは揺るがないと思っているのだろう。
「それはまだ決まったことじゃないんだけど……どうして嬉しくないのか、聞いてもいい?」
レミウェルには懐かれていると思っていた。そんな世凪が母親になるなら、喜ぶかと思っていたのでその言葉は少し予想外ではあった。
「だって……かあさまは、アド兄さまが好きでしょう? アド兄さまだって、かあさまのことが好きなのに、どうして二人ともそれを言わないの?」
レミウェルの穢れのない瞳がこちらをまっすぐに見つめる。キラキラと澄んだその目に見つめられると、心の底まで見られているような気がして、世凪はレミウェルから視線を逸らした。
レミウェルには気持ちが見えてしまっていたらしい。恥ずかしいけれど、同時にレミウェルからでもアドウェルが世凪に好意を持っていると聞けて嬉しかった。
「それは……どうして、だろうね……」
結ばれない運命にあるから、なんて五歳の子どもに話したところで何も分かってくれないだろう。世凪は曖昧な言葉でごまかすしか出来なかった。
「昨日ね、アド兄さまにも言ったの。そうしたらね、『もう気持ちは決まってる』って言ってた……でもぼくは、アド兄さまとかあさまと一緒に居たいんだ」
気持ちは決まっている――それはつまり、今夜誰かを選んでその人を妻にすると決めている、ということだろうか。世凪との約束もあるだろうから、きっと自分が好きになれる人を選ぶのだろう。そうすることをもう決めているということに違いない。
「そう、だね……本当は僕も、アド王子とレミといる時間が幸せだよ」
三人で食卓を囲んでいた日々が懐かしい。あの時は、こんなに切ない気持ちになるなんて思っていなかったけれど、気づいていなかっただけで、アドウェルに出会ったその瞬間に恋は始まっていたのだろう。だからこそ、こんなにも深く、あの人を愛している自分がいるのだ。世凪にとって、これは人生最大の、最後の恋だ。
「だったら、かあさまからアド兄さまに好きって言ってね。そうしたらアド兄さまも好きって言ってくれると思う。それで、また三人でご飯たべよう、かあさま」
懇願するような言葉を聞いて、世凪がレミウェルに視線を戻す。その期待に満ちた笑顔に世凪は否定の言葉を返すことはできなかった。
「そうだね……今日、ちゃんと伝えるよ」
本当はもう伝えられないし、彼もレミウェルでさえも世凪のことを忘れるけれど――そう思うと、世凪の胸は罪悪感と寂しさでぎゅっと痛むのだった。
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