天使のような子の怪我の手当てをしたら氷の王子に懐かれました

藤吉めぐみ

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22-2★

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 アドウェルの私室は、彼の執務室の奥にあり、世凪は初めて入るところだった。洗練された調度品が並んでいたのだろうが、それを見ることはなく、世凪の体は大きなベッドに降ろされ、アドウェルが世凪の体を膝立ちで跨いで甘く拘束されていた。
「アド王子、そんな慌てなくても僕は逃げませんよ」
 小さく笑ってアドウェルを見上げると、こちらを見下ろすその顔は情けなく歪んでいた。
「すまない……こんなに誰かを欲しいと思ったのも、こんな状況になるのも初めてで……何か違っていたら遠慮なく言って欲しい」
 その言葉に正直驚いた。これだけかっこよくて、優しくて、しかも王子という立場なのだから百戦錬磨といかずとも、それなりに経験はあると思っていた。初めてというその響きに世凪の方が緊張してしまう。
「それを言ったら、僕も……男性とは初めてです」
 世凪が告げるとアドウェルは少し嬉しそうな顔をして、初めての男か、と呟いた。世界が違っても相手の初めてになるのは嬉しいらしい。
「では、一緒に探りながら進めよう。知識なら持っている」
 なるほど、そういう勉強はするのだな、と感心していると、世凪のスーツのボタンがぷつりと外された。アドウェルを見上げると、その表情が優しく変わる。
「よく似合っているからもったいない気もするが、脱がしてもいいか?」
「もちろんです、けど……あの、僕……まだリゲルさんの洗礼を受けていないので、きっととても面倒だとは思うんですが……それでもいいですか?」
 きっと妊娠できる体というのは、男性を受け止めやすくもなるのだろう。まだそんなふうに作り変えられてはいないので、受け止められそうなところはひとつしかないし、どんなに精を注がれても何も生まれない。もしアドウェルが、世凪が既に洗礼を受けていると思って抱こうとしているのならちゃんと確認しなくてはいけないと思った。
「そうなのか……よかった。少し安心した」
 残念がるかと思っていた世凪の予想は外れ、アドウェルは大きな安堵の息をついた。
「世凪が既に子どもを作れる体になっていると思っていたから、誰にも触れさせたくなかった。そんな体で元の世界に帰ろうとしていたと思ったら、正直腹が立っていたよ。ここまで乱暴に連れてきてしまったのはそのせいもある」
 誰かに世凪を取られた時、世凪がその人との子を宿したらと考えたのだろう。それで腹を立ててくれるアドウェルが愛しいと思った。
「もし、叶うなら、アド王子との子は産みたいとは思いますよ」
「……世凪、君は俺に乱暴に抱かれたいのか? このスーツを選んだことといい、どうにかしてだなんていう言葉といい……俺は、自分が贈った独占欲の塊みたいなこのスーツを着てくれているだけで頭が沸騰しそうなんだ」
 アドウェルが世凪のベストとシャツを手際よく開き、首元のスカーフに手をかけた。
「スーツの色や形は世凪に似合うと思って用意させたが、このスカーフ留めとカフスの石は俺が強引に決めたものだ。俺の目の色と同じ色の石ーー世凪をいつでも見守るのは俺だという気持ちなんだよ」
 確かに初めて見た時に、アドウェルの瞳の色に似ていると思った。それだけでも嬉しいと思っていたが、それに気持ちがこもっていたのなら、更に嬉しい。
「それなら、大事にします。本当は、これ、置いていこうと思っていたんです。持っていてもきっと売り払うこともできないだろうから、だったらアド王子に持っていてほしいと思って……忘れて欲しいと思っていたくせにおかしいですよね」
 世凪が笑うと、アドウェルは世凪を抱き起こし、ぎゅっと抱きしめてくれた。
「俺だって、複雑な気持ちだった。父や兄のものになったとしても、二人で観たあの舞台のように、世凪をさらって遠くへ逃げればいいとまで考えていたよ」
 『恋の旋律』の内容を思い出し、世凪はアドウェルに腕を廻した。さらってくれるつもりだったのだと知ったらそれだけで嬉しい。
「でも、こうして今俺の腕の中にいてくれてよかったと思っている。君がまだ誰にも抱かれていないと知ったからね」
 少し世凪を離し、その顔を見つめると余裕のある笑みが見えた。その表情に胸がときめいて、またひとつ、アドウェルの好きなところが増える。
「僕はこの先、アド王子以外と肌を合わせるつもりはないです」
「俺もだよ、世凪ーー愛している」
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