天使のような子の怪我の手当てをしたら氷の王子に懐かれました

藤吉めぐみ

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【後日談】君の望むままに

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※アドウェル視点の後日談です。本編読後推奨。

『僕、やっぱりアドウェルの子を産みたいです』
 数日前、アドウェルは世凪からそんな言葉を聞いた。それはアドウェルにとってとても嬉しい言葉だったのだが、それと同時にどうしても世凪の体が心配になってしまった。
 アドウェルの母・ミシェルも男性体で出産をし、体力を奪われてそのまま回復することなく息を引き取った。その記憶がまだアドウェルの中から消えていない。
「洗礼というのは、本当に安全な物なのか、リゲル」
 そんな不安が拭えないまま、アドウェルはリゲルの執務室へと来ていた。やっぱり施す本人に聞くのが一番だと思ったのだ。
「……基本的には命に関わるものではありません。ただ、魔法で無理に体の中を作り変えるのですから、多少の体調不良は否めません……世凪様が心配ですか?」
 リゲルの問いにアドウェルが頷いた。
「俺にとって、世凪よりも大事な人はいない。世凪は、誰よりも優しくて、賢くて、強くて、明るくて、どこもかしこもキレイで、いつでも甘い香りがするんだ。女神かなにかじゃないかといつも思っている。だから世凪にはこの先一度も辛い思いをさせたくないんだ。金で解決できるならいくらでも出すし、俺にできることは何でもするから、世凪に負担は掛けないで欲しい」
 世凪の泣き顔は、ベッド以外では見たくない。自分が泣かせるなら話は別だが、誰かに泣かされるなんて、それだけで色んな感情がごちゃ混ぜになって胸が苦しくなる。
 アドウェルの言葉を黙って聞いていたリゲルだが、少しだけ唸ってから、眉を下げて口を開いた。
「負担をゼロにすることはできません。そんなにお嫌なら、アドウェル様が洗礼をうけてもいいのですよ? 世凪様の体を心配するなら、ご自分でお産みになっても、お二人の子であることは間違いないのですから」
 リゲルに言われ、アドウェルはそれを想像してみる。自分が産むとは考えていなかった。それはいいのだが、そうなると世凪から精を受けるということになる。それはいささか解釈が違うだろう。
「……その方がいい、というのであれば、一度くらいなら……」
 苦渋の選択ではあるが、それで誰もが幸せになるのならそれも視野に入れるべきなのかもしれない。アドウェルが真剣にそんなことを考えていると、目の前でリゲルは大きくため息を吐いた。
「アドウェル様は意外とアホなんですね」
「……ア……? 何?」
 知らない言葉がリゲルの口から出て、アドウェルが怪訝な表情を作り首を傾げる。
「いえ……世凪様の言葉をよく思い出してください。世凪様は、アドウェル様の子を『産みたい』とおっしゃったのではないですか? 二人の子が欲しい、ではなかったのでは?」
 アドウェルがそのまま世凪の言葉を思い出す。確かに彼は『産みたい』と言ってくれていた。世凪には既に母になる覚悟があるということなのだろう。
「そういうことか……」
「なので、アドウェル様は、その思いを叶えてあげるのがよろしいかと思いますよ。私も普段以上に丁寧に儀式を進めるつもりです」
 リゲルに微笑まれ、アドウェルは頷いて、執務室を後にした。そのまま世凪の部屋へと向かう。夕方のこの時間であればきっと部屋にいるだろうと思い、少し足早に廊下を歩いていった。

 世凪はいつも通りの、包み込むような柔らかな微笑みでアドウェルを迎えてくれた。ソファを勧めて、自分もその隣に座ると、お仕事はもういいのですか? と聞く。相変わらずこちらのことばかり心配している。本当は会えて嬉しいと感じてくれているのは、その頬がうっすら赤くなり、その瞳が輝いていることですぐに分かった。その反応がアドウェルも嬉しくて、こちらも同じ顔になってしまっているのも分っていた。
「さっき、リゲルと話をしてきた。俺は正直、世凪の体が心配で、少し不安なのだが……世凪が俺との子を産みたいという願いを叶えたい。世凪が苦しい時は片時も離れず傍に居るし、して欲しいことは何でもする。だから、ちゃんと言葉にして欲しい」
 アドウェルは世凪の手を握りまっすぐにその顔を見つめた。世凪が少し驚いた顔をしてから、ゆっくりと微笑む。
「アドウェルはいつでも優しいですね……だったら、この先一週間はあなたに触れられないので、触れてもらえませんか?」
 世凪がアドウェルの手を握り返し、こちらに近づく。柔らかなキスをして離れた世凪の顔は、可愛らしさの中に艶めきを帯びていて、それだけでアドウェルの心臓は駆け足になる。
「い、今しても大丈夫なのか? 明日の負担にはならないのか? そのまま消えてしまったり……」
 世凪の目を見つめたまま聞き返すと、世凪は小さく笑ってから口を開いた。
「アドウェルは意外とアホですよね」
「……その言葉を聞くのは二度目なんだが……意味は分らずとも貶されているのは分かる」
 不機嫌を表情に乗せると、世凪が更に笑ってからアドウェルの頬に優しく触れた。
「貶してなど……僕にとっては、愛しい、という意味ですよ。リゲルさんの洗礼を受けて亡くなった方は一人もいません。もし、アドウェルがお母様のことを思い出しているのなら、その心配はないです。僕の一番の望みはあなたと一瞬でも長く一緒に居ることなんです。だから今は、何も考えず、アドウェルの思うままに触れて欲しいんです。僕がして欲しいことですよ、アドウェル」
 ちゃんと言葉にしましたよ、と世凪がこちらを見つめる。確かにそう言ったが、こんなことを言えという意味ではなかった。それでも――
「世凪の願いは全部叶えたい」
 アドウェルは世凪の体を抱き上げると、そのままベッドへと移動した。世凪を組み敷き、その目をまっすぐに見つめる。
「……一週間分愛してください」
「今夜は世凪が、嫌と言ってもダメと言ってもやめるつもりはない。いいか、世凪」
「手加減はしてくださいね」
 世凪がこちらに両腕を伸ばし微笑む。アドウェルはその手を掴んで指を絡めてから同じように微笑んだ。
「一週間分じゃ、無理かもしれないな」
 世凪の手をぎゅっと握ってキスをする。
 アドウェルは世凪の望み通り、自分の思うまま、世凪に触れて愛の痕を残そうと心に決めて、世凪を抱きしめた。
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