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しおりを挟む数日後の朝、なんだか少し体が重くて遅く起きたユズハは、ぼんやりしたまま部屋を出て、食堂へとたどり着いた。
「ユズハ、今日は随分寝ていたね」
食堂にはママがいて、既に食器の片づけを始めている。
「うん……なんか、体重くて」
テーブル前の椅子を引き腰掛けながらユズハが答える。
ここのみんなは仕事の後は腰がだるいとか関節が痛いとか体の不調を訴えることが多いが、ユズハはここ数日アサギに会っていないし、例えアサギに抱かれた翌日でも体が痛いということはなかった。
この間だってアサギの香りに酔ってそのまま発情してしまうかもと思うくらい、はしたなくアサギを求めたけれど、優しくされたのだろう、体に異変はなかった。
だからこんなふうに調子が悪くなることは珍しいのだ。
「そろそろ発情期なんじゃない? 薬は飲まずにそのまま様子を見てなさい」
アサギ様には連絡しておくから、とママがこちらを振り返る。発情期に入るということは、アサギの子を宿せるという事だ。ママは嬉しそうだが、ユズハは少し怖かった。
自分の体の中に、新しい命が宿るなんて、想像もできない。
「発情期か……えー、ヤダ」
不定期に来るせいか、ユズハの発情は重い。薬を飲んでも体の熱は収まらず、いつも一人でじっと耐えていた。またそれが来るのかと思うとやっぱり憂鬱だ。
「何言ってるの。アサギ様はそれを待ってくれてるんでしょう? 今回は一人で乗り越えるわけじゃないんだから、大丈夫」
ママはユズハの目の前にサラダと目玉焼きとトーストの乗ったプレートを出しながら微笑んだ。
「そう、なんだろうけどさ……」
確かにアサギがいてくれたら、きっとそれほど苦ではないのだろう。ただ、その代わりアサギの子を身籠ることになるかもしれない――それを考えるとやっぱり怖い。
「ねえ、ママ……アサギは、おれのこと、番にしてくれるのかな……?」
母は、当時の王である父に見初められ、ユズハを身籠った。産み育てられる環境は与えて貰えたものの、番にはしてもらえなかった。次の王には番にしてやろうなんて言われていたが、今母が彼の番となって幸せにしているかは分からない。
「ユズハとアサギ様が運命なら、そうなるんだろうね」
それは誰にも分からない、という事なのかもしれない。
「……次にアサギと会ったら、かあさまのこと、聞いてみようかな……」
アサギも今は自分の仕事があるのだろうから、宮廷は出ているかもしれない。それでも母のことくらいは知っているだろう。
自分が母親になるのかもしれないと思うと、急に母に会いたいと思うユズハだった。
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