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しおりを挟む頑張るしかないのは分かっている。とはいえ、頑張るためには色々チャージしなくてはならない。まずはメンタル面のチャージをしたいと思った匠は、その日は早めに帰宅することにした。克彦に愚痴を聞いて貰って、たくさん抱きしめて貰ってたくさんキスをしてもらえば、頑張る気力も湧くはずだ。
「……って、思ってたのに」
ソファに転がり、ぎゅっとクッションを抱きしめた匠は、一人きりの部屋で大きくため息を吐いた。
午後十時を過ぎても克彦は帰宅しない。さっきからスマホにメッセージを入れているのだが、既読にすらならなくて、匠は不機嫌なまま起き上がった。リビングテーブルに投げ出したままだったスマホに手を伸ばす。返信どころか、まだ既読にもなっていない。
「……ホントに仕事かなあ……」
そう呟いてから匠は、やめよう、と首を振る。浮気を疑ってもいいことはひとつもないと、経験から分かっている。
「俺も仕事しよ」
ただ待っているから余計な事を考えてしまうのだ。やることはたくさんあるのだから、そちらに時間を使えばいい。
匠は立ち上がるとダイニングテーブルに置いているノートパソコンを開いて、その前に座った。まだいいアイデアは思いつかないが、考えないよりはマシだろう。
そう考えた匠は大きく息をしてから、パソコン画面に映る図面に向き合った。
柔らかい何かが頬に触れ、匠はゆっくりと目を開けた。ぼんやりとした視界に映るのは、見慣れた部屋の見慣れた景色だ。
「あれ、俺……」
確かダイニングテーブルで仕事をしていたはずだ。どうして自分の部屋に居るのだろうと体を起こすと、そこはベッドの上で、時間も朝になっていた。
枕元に転がっていたスマホを手に取ると、そこには克彦からのメッセージが届いている。
昨日の帰宅が遅くなったことと匠からのメッセージが読めなかったことを謝って、更に今日も早く出社すると書いていた。
「……早くって、今何時……七時半……え、七時半!」
スマホに表示された時間を見て、慌てて匠は飛び起きた。自室を出てリビングに行くが、既にそこに克彦の姿はなく、ダイニングテーブルにはサラダとオムレツが用意されていた。
「こんなの用意する暇あるなら起こしてよ、克彦!」
匠は朝食を食べる暇がないと判断し、それらを冷蔵庫に片づけてからため息を吐いた。
別に遅刻しそうだから起こして欲しかったと言っているわけではない。ただ克彦に会いたかった。一瞬でもいいから、その優しい顔を見たかったし、ちょっとでいいから抱きしめて欲しかったのだ。
「……克彦のばか……」
圧倒的克彦不足の匠は、今どこにいるのか分からない克彦に小さく文句を言ってから、朝の準備を始めた。
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