うちの鬼上司が僕だけに甘い理由(わけ)2

藤吉めぐみ

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 決して安くない克彦のベッドが音を立てるほど勢いよく匠を抱えて飛びこんだ克彦は、互いの唇を食べてしまうのではないと思うほど激しいキスをした。呼吸すら許して貰えないキスに、匠が、ん、と声を出すと、ようやく克彦が唇を離してくれた。
「……どうしたの? 克彦」
 いつも穏やかなセックスをする克彦に、靴すらちゃんと脱がせてもらえないほど性急に求められることはほとんどなくて、正直匠は戸惑っていた。自分を組み敷いたままの克彦を見上げると、その顔が苦く笑った。
「……笑っていい。ただの嫉妬だ」
「笑うなんで……嬉しいけど、先にシャワーくらい浴びようよ。今日俺、力仕事したから汗かいたし、現場巡ったから埃っぽいかもしれないし」
「匠の汗なら私にとって不快なものではないよ。それに今日一日頑張った証だ」
 克彦はそう言って匠にキスをする。今度は優しいバードキスだが、唇だけではなく、頬に、耳元に、とされるとどうしても体は熱くなる。
「でも、汚いし……」
「構わない。どんな匠でも好きだよ」
「でも……」
「もうお喋りは終わりにしよう」
「じ、じゃあ、眼鏡、外して……せめて」
 匠が言うと、克彦は不満そうな顔をしたが、仕方なく眼鏡を外し、ヘッドボードへとそれを置いた。その様子を見ていた匠が微笑んで頷く。それから手を伸ばして克彦の髪を思い切り撫でて乱した。
「こら、匠」
 驚いて身を引く克彦を見つめ、匠が微笑む。眼鏡を外していつもはセットされている髪を下ろした克彦は、少し若い印象になる。自分との歳の差が少し埋まったような感覚になるので、匠は好きだった。
「……好き、克彦」
 じっと見つめると、その顔が一瞬で引き締まる。男らしいその顔が更に色気を纏ってこちらを見つめ返す。匠の背中にぞくぞくとした何かが駆け抜けていく。
「私もだよ……愛してる、匠」
 克彦はそう言うと、匠に深くキスをして、匠の着ていたものを器用に脱がしていく。全て取り払うと克彦は匠の胸に舌を寄せた。そのまま肌を舐め、匠を見上げる。
「確かに少ししょっぱいな」
「だ、だから、シャワー浴びるって言ったのに」
「いや……いつもの甘い香りのする匠も好きだが、これも堪らないな。甘いものばかりより、しょっぱいものもあった方が無限ループするって言うだろ?」
「それはお菓子とかの話でしょ?」
 全然違うよ、と匠が笑うと、克彦は、そうだな、と言ってから匠の胸の先を口に含んで吸い上げた。匠の体がその刺激にびくりと跳ねる。
「でも、私にとって匠は、お菓子のように甘くて可愛らしいものだよ」
 顔を上げた克彦が微笑み、その手で匠の腰から胸まで撫で上げる。
「ん……お菓子って……俺のカラダは『つまみ食い』なの?」
 答えは分かっていても、お菓子みたいなんて言われたら、少し寂しい。匠は両腕を持ち上げ、克彦の首に絡めて、じっとその顔を見つめた。
「そういう意味じゃない。匠はそんな気軽なものじゃないよ……私にとっては何を差し出しても食べたい魅力的なものだよ」
 克彦が匠を優しい眼差しで見下ろす。その視線だけで、匠の肌は熱を持ち始めた。
「……克彦、やっぱり眼鏡、して?」
「どうした? 匠の隅々までよく見えてしまうけどいい?」
「……克彦の視線、直接浴びたら、俺溶けちゃいそう……」
 匠がそう言って克彦の頭を引き寄せキスをする。ちゅっ、と音を立てて離れると、克彦が口の端を引き上げた。その男らしい表情にぞくぞくする。
「匠が溶けてしまうのなら、このままにしようか。どこまで溶けるのか見てみたいな」
「……いじわる」
「なんとでも。私は匠に関しては誰より貪欲なんだよ」
 覚えておくといい、と克彦は匠に深くキスをする。
 自分が克彦を貪欲にさせている。求めて貰えている――それが嬉しくて、深いキスに溺れながら匠は克彦がくれる官能を目いっぱい甘受した。
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