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しおりを挟む「湊くんが飲んでるのって、ウーロン茶だよね……」
「そうですが!」
「酔ってるわけではないんだね」
「酔ってないです。ただ、出掛けにものすごく腹が立つことがあったので」
まだ酒が飲める歳ではない湊はやけ酒ならぬ、やけ茶をするようにグラスの中を一気に飲み干す。それでも心の中のもやもやは晴れなかった。
「何? 話してみてよ」
お酒が飲めない湊のために神崎が誘ってくれたのは、ダイニングバーだった。お酒も飲めるが、食事の種類も豊富なので、夕飯として来ることもある、とテーブルを挟んだ向こうに座る神崎が話してくれていた。
ちゃんと自分の事を考えてくれている、その優しさにはきゅんとする。そして不機嫌を前面に出している湊に対して、こうして穏やかな笑顔を向けてくれることも、素敵な人だなと思っていた。
「でも、大した話ではない、ので……」
「もしかして、昨日会った、あの男絡み?」
図星をつかれ、湊は咄嗟に、違います、と首を振るが、神崎には何か伝わってしまったようだ。
「あいつさー、女連れてるのにこっちのこと見て、しかも声掛けるとかないよね。そこはお互い様でスルーがデフォだと思うんだけど」
ありえないな、とため息を吐く神崎に、湊は咄嗟に、そうじゃないと思います、と口を開いた。
「井波くんは、多分無視できなかったっていうか……すごく社交的で優しい人だから、目が合ってしまったなら声を掛けるべきかなって思ったんだと、思います……」
それに道のど真ん中で自分の隣人が同性に抱きしめられていたら驚きで声も出てしまうだろう。嫌な顔をしなかったところに聡祐の性格の良さが出ていると思えた。
湊が言葉を返すと神崎は、かばうんだ、と小さく呟いてから、こちらに笑顔を向けた。
「彼が例の井波くんなんだ。ホントに友達ってだけ?」
もしかしたらわざと聡祐に反感を持つようなことを言ったのかもしれない。そう気づいたのは、神崎に問われてからだった。けれどもう遅い。湊は仕方なく、友達です、と口を開いた。
「同じ高校を出ててるから前から知ってるだけで……」
「そうなんだ。じゃあこれからもずっと友達ってこと?」
「そう、なります」
湊にとって聡祐は今でも好きな人だけれど、聡祐にとっては友達なのだろう。だから、彼女だって紹介するし、一緒に食事にも誘う。
きっともう、湊も聡祐とは『友達』にならなくてはいけないのだ。
「ふうん……じゃあ、僕らのこと、どう思っただろうね。別の友達に言いふらしたりするかな」
「え……あ、井波くんは何でも言いふらしたりするような人じゃないですよ。真面目で、約束はちゃんと守る人なので」
困っている人にはちゃんと手を差し伸べられて、ひとの話も聞いてくれる人――こんなに完璧な人は他にいないと湊は思っている。
「そっか。だから湊くんは彼が好きなんだね」
「……へ?」
「好きなんでしょ? 彼のこと」
「す、好きって、そんな……」
慌てて首を振るけれど神崎は穏やかな顔でこちらをじっと見つめたままで何も言葉を返さない。湊はその圧に耐え切れず、はい、と小さく頷いた。
「やっぱりねえ。友達に性癖バレたってレベルじゃない慌て方してたから、もしかしたらって思ったんだけど……好きな人にあんなとこ見られて、その上彼女がいることも分かってしまったってわけか。それは荒れるね、ウーロン茶でよければ、いくらでも飲みな」
頼んであげるよ、と神崎がテーブルの上の注文用タブレットを操作する。
「神崎さん……ありがとうございます」
「うん。湊くんの中の好感度上げたいからね。早く好きになってもらいたいし」
だから気にしないで、と笑う神崎が素直すぎて、湊はひとつも憎めなかった。湊は笑顔の神崎をまっすぐに見つめる。
「神崎さんを好きになったら……幸せになれます、か?」
「うん。なれるよ。めっちゃ甘やかすし、めっちゃ大事にする」
ほんとだよ、と神崎がこちらに手を伸ばす。その指が頬に触れ、湊は反射的に目を閉じた。
「だから早く僕を好きになっちゃいなよ」
再び目を開けると、優しい神崎の顔が見えた。
この人を好きになった方がきっと毎日楽に息ができる。それは分かっているのに、湊の心の中には、まだ聡祐の笑顔がこびりついていて、離れなかった。
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