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写真展は、静かで落ち着いていてささくれた気持ちを癒してくれるような空間だった。やっぱりたまにはキレイなものを見に行くことをしないと日々心は汚れていくのかもしれない、と思うくらい、清々しい気持ちになった湊は、会場を出るとすぐに、ありがとう、と聡祐に微笑んだ。聡祐がそれに首を傾げる。
「付き合って貰ったのはこっちだけど」
「ううん、それでも、すごく良かったから。少し気持ちが軽くなった感じ」
「分かる。キレイなものとか好きなものを見ると、風呂上りみたいなさっぱりした気持ちになるよな」
「そう、そんな感じ! 井波くんも同じで嬉しいな」
なかなかこういう感覚が合う人は少ないと思う。少しでも共通点が見つかって、湊は嬉しかった。聡祐の顔を見上げると、その顔も優しく笑んでいた。
湊が恋したその表情を不意打ちで見せられ、心臓がどきりと高く鳴る。
やっぱり好きだ。
彼女がいて、自分なんかもうこんなふうに隣に立つことはできないのに、それでも気持ちは捨てられない。できることならもう少し、思い出が欲しい。
湊がそう思った、その時だった。
ざあ、と屋根を鳴らす水音が聞こえ、湊は美術館のラウンジの窓の外を見やった。窓を水滴が流れ落ちていく。
「雨、だな」
隣で同じように窓の外を見ていた聡祐が呟く。
「おれ、傘持ってないな」
「俺も」
美術館から近くの駅までは十分ほど歩く距離がある。この雨の激しさだと歩いているうちにずぶ濡れになるだろう。
「……もう少し休んでいこうか」
「そうだね。時間もあるし……」
突然の雨で困っている人もいるだろう。それでも湊はこの雨に感謝したい気持ちでいっぱいだった。聡祐と一緒にいる理由が出来た。それが嬉しい。
「自販機で何か買ってくるよ。野島、何がいい?」
ラウンジにあるソファに腰かけると、聡祐がカバンから財布を取り出した。湊が、自分で買うよ、と立ち上がるが、だめ、と聡祐がその肩を押さえる。
「雨で出られない他のお客さんが増えてきてる。野島はここの確保をしていて」
確かにラウンジには少しずつ人が集まり始めている。今日は雨の予報は出ていなかったから傘を持っている人も少ないだろう。自分たちと同じように止むまで待つ判断をする人が増えたら、数個あるソファもすぐに埋まるかもしれない。
「分かった。じゃあ、お茶お願いしていい?」
湊が聞くと、了解、と言って聡祐が傍を離れた。
こんなふうに気遣いができて、優しくて、イケメンで、明るくて、話し上手で。
聡祐のいいところを上げたらキリがないのだから、聡祐はきっとモテるだろう。たくさんある選択肢の中で、どんなに待っていても自分を選んでくれる日なんか来ないかもしれない。だったらこのまま『いい友達』で居たほうがいいのかもしれない。
湊はそんなことを思いながらポケットからスマホを取り出した。そのタイミングでスマホが震え、湊は驚いて相手の名前も見ずに通話ボタンに触れる。
「も、しもし……」
「付き合って貰ったのはこっちだけど」
「ううん、それでも、すごく良かったから。少し気持ちが軽くなった感じ」
「分かる。キレイなものとか好きなものを見ると、風呂上りみたいなさっぱりした気持ちになるよな」
「そう、そんな感じ! 井波くんも同じで嬉しいな」
なかなかこういう感覚が合う人は少ないと思う。少しでも共通点が見つかって、湊は嬉しかった。聡祐の顔を見上げると、その顔も優しく笑んでいた。
湊が恋したその表情を不意打ちで見せられ、心臓がどきりと高く鳴る。
やっぱり好きだ。
彼女がいて、自分なんかもうこんなふうに隣に立つことはできないのに、それでも気持ちは捨てられない。できることならもう少し、思い出が欲しい。
湊がそう思った、その時だった。
ざあ、と屋根を鳴らす水音が聞こえ、湊は美術館のラウンジの窓の外を見やった。窓を水滴が流れ落ちていく。
「雨、だな」
隣で同じように窓の外を見ていた聡祐が呟く。
「おれ、傘持ってないな」
「俺も」
美術館から近くの駅までは十分ほど歩く距離がある。この雨の激しさだと歩いているうちにずぶ濡れになるだろう。
「……もう少し休んでいこうか」
「そうだね。時間もあるし……」
突然の雨で困っている人もいるだろう。それでも湊はこの雨に感謝したい気持ちでいっぱいだった。聡祐と一緒にいる理由が出来た。それが嬉しい。
「自販機で何か買ってくるよ。野島、何がいい?」
ラウンジにあるソファに腰かけると、聡祐がカバンから財布を取り出した。湊が、自分で買うよ、と立ち上がるが、だめ、と聡祐がその肩を押さえる。
「雨で出られない他のお客さんが増えてきてる。野島はここの確保をしていて」
確かにラウンジには少しずつ人が集まり始めている。今日は雨の予報は出ていなかったから傘を持っている人も少ないだろう。自分たちと同じように止むまで待つ判断をする人が増えたら、数個あるソファもすぐに埋まるかもしれない。
「分かった。じゃあ、お茶お願いしていい?」
湊が聞くと、了解、と言って聡祐が傍を離れた。
こんなふうに気遣いができて、優しくて、イケメンで、明るくて、話し上手で。
聡祐のいいところを上げたらキリがないのだから、聡祐はきっとモテるだろう。たくさんある選択肢の中で、どんなに待っていても自分を選んでくれる日なんか来ないかもしれない。だったらこのまま『いい友達』で居たほうがいいのかもしれない。
湊はそんなことを思いながらポケットからスマホを取り出した。そのタイミングでスマホが震え、湊は驚いて相手の名前も見ずに通話ボタンに触れる。
「も、しもし……」
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