今日も一緒に

藤吉めぐみ

文字の大きさ
32 / 42

11-3

しおりを挟む

 水野も居るとはいえ、自分の部屋に聡祐以外の誰かを呼ぶのはなんだか気乗りしない。
「……アパートの壁、決して厚くはないしなあ……」
 聡祐の夕飯を作らずに神崎と水野に食べさせている、それが聡祐に筒抜けになるのはなんだか心苦しい。じゃあ俺も一緒に食べる、と言ってくれればいいが、聡祐はきっと遠慮してしまうだろう。
 一日くらい気にしないとは思うが、どうしても湊は気にしてしまう。
「あいつ、新しい男に乗り換えたか、とか思われたら死ねる」
 ああー、そんなのやだー、と道の真ん中で頭を振ってしまってから、今は公道を歩いているのだった、と我に返る。幸い通行人はいなかったが、かなり怪しい人物になっていたかもしれない。
 家に帰り着く前に聡祐に明日のことをメッセージで話そうと思っていたのだが、どう切り出したらよいか分からずに、湊はとうとうアパートまで帰ってきてしまった。
 スマホを手に取り、どう言葉にしようか悩みながら階段を上がると、ふと話し声が聞こえ、湊は階段の途中で足を止めた。
「ごめんね、一日中居座っちゃって」
「いや、こっちも話したいことあったし」
 女の子の声が聞こえ、続いて聞こえてきたのは聡祐の声だった。
 湊の手のひらがじわりと嫌な汗をかく。
「聡祐の方は上手くいくと思うよ。私は……分かんないけど」
「麻衣子の方こそ、大丈夫だって。とりあえず帰って向き合えばいいよ」
 お互いに名前で呼び合っているところをみると、先日見た聡祐の彼女で間違いないだろう。何の話をしているのか分からないけれど、今日は一日聡祐の部屋で過ごしていたようだ。湊は家に一日恋人同士が二人で居ると起こりうる下世話な想像をしてしまって、ぎゅっと目をつぶった。
 当たり前のことと分かっていても、聡祐の優しい手が他人に触れていると思うのはやっぱり辛い。
「うん、そうする。やっぱり、好き、なんだよね」
「俺もそう思うよ。結局そこかな」
 その会話を聞いた途端、湊の心臓がぎゅっと握られた様に痛んだ。
 好き、だなんて決定的な言葉を聞いてしまった。
 付き合っているのだから当然のことなのに、その言葉を聞いたことがなかったから、なんとなくまだ自分にも少しでも気持ちを傾けてもらえるのでは、なんて甘いことも考えていた。
 でも、それは自分の都合のいい妄想でしかなかったのだ。
「じゃあ、私帰るね。また明日、学校で」
 彼女の声が響き、靴音が近づく。鉢合わせするのはまずい気がしたので、湊はすぐに階段を降りて、アパートの駐輪場へと逃げ込んだ。しゃがみ込んで様子を見ていると、白いTシャツに黒のパンツを着た女性が去っていく後ろ姿が見えた。以前見た聡祐の彼女で間違いないだろう。
「やっぱりキレイな人……」
 自分なんか性別からして太刀打ちできない相手だ。
 聡祐のことが好きだからこそ、彼女との仲は割きたくない。だけど、恋を終わらせる手段が湊には分からなかった。
 胸の奥深くまで根付いてしまった『聡祐が好き』という気持ちを消してしまうには、少し強引な手段も考えなければいけないのかもしれない。
 例えば、無理やりにでも自分のものにしてくれるような人が居れば――湊は手の中のスマホに届いた神崎からのメッセージを見てから唇を噛み締めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

楽な片恋

藍川 東
BL
 蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。  ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。  それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……  早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。  ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。  平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。  高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。  優一朗のひとことさえなければ…………

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

こじらせ委員長と省エネ男子

みずしま
BL
イケメン男子の目覚まし担当になりました……!? 高校一年生の俺、宮下響はワケあって一人暮らし中。隣に住んでいるのは、同じクラスの玖堂碧斗だ。遅刻を繰り返す彼の目覚まし係になるよう、担任から任命され……。 省エネ男子(攻め)と、ちょっとひねくれた委員長(受け)によるわちゃわちゃ青春BL! 宮下響(みやしたひびき) 外面の良い委員長。モブ顔。褒められたい願望あり。 玖堂碧斗(くどうあおと) 常に省エネモードで生活中。気だるげな美形男子。

【本編完結】才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。

誉コウ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。 その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。 胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。 それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。 運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。

初恋ミントラヴァーズ

卯藤ローレン
BL
私立の中高一貫校に通う八坂シオンは、乗り物酔いの激しい体質だ。 飛行機もバスも船も人力車もダメ、時々通学で使う電車でも酔う。 ある朝、学校の最寄り駅でしゃがみこんでいた彼は金髪の男子生徒に助けられる。 眼鏡をぶん投げていたため気がつかなかったし何なら存在自体も知らなかったのだが、それは学校一モテる男子、上森藍央だった(らしい)。 知り合いになれば不思議なもので、それまで面識がなかったことが嘘のように急速に距離を縮めるふたり。 藍央の優しいところに惹かれるシオンだけれど、優しいからこそその本心が掴みきれなくて。 でも想いは勝手に加速して……。 彩り豊かな学校生活と夏休みのイベントを通して、恋心は芽生え、弾んで、時にじれる。 果たしてふたりは、恋人になれるのか――? /金髪顔整い×黒髪元気時々病弱/ じれたり悩んだりもするけれど、王道満載のウキウキハッピハッピハッピーBLです。 集まると『動物園』と称されるハイテンションな友人たちも登場して、基本騒がしい。 ◆毎日2回更新。11時と20時◆

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

君に二度、恋をした。

春夜夢
BL
十年前、初恋の幼なじみ・堂本遥は、何も告げずに春翔の前から突然姿を消した。 あれ以来、恋をすることもなく、淡々と生きてきた春翔。 ――もう二度と会うこともないと思っていたのに。 大手広告代理店で働く春翔の前に、遥は今度は“役員”として現れる。 変わらぬ笑顔。けれど、彼の瞳は、かつてよりずっと強く、熱を帯びていた。 「逃がさないよ、春翔。今度こそ、お前の全部を手に入れるまで」 初恋、すれ違い、再会、そして執着。 “好き”だけでは乗り越えられなかった過去を乗り越えて、ふたりは本当の恋に辿り着けるのか―― すれ違い×再会×俺様攻め 十年越しに交錯する、切なくも甘い溺愛ラブストーリー、開幕。

処理中です...