【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ

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 楽は高校の時から恋愛関係は派手だった。
 均整の取れた体にまとう着崩した制服、 金に近い色の長めの前髪が時折隠す目は優しいのに、鋭い一瞬があって、人を惹きつけた。女の子はもちろん、男だって彼の傍に居たいと思うのはとても自然なことのように思えていた。
「カッコイイよね、宮村くん」
 恋に落ちたばかりの壱月にとって、どんな楽も輝いて見えていた。
 笑顔で友人と話している姿も、授業中にうとうとしている横顔も、少し真剣な顔でスマホを見ている様子だって、壱月の胸をときめかせていた。
 そんな壱月の恋する言葉を近くで聞いていたのは当時のクラスメイトの及川だ。楽とは違い及川も目立つような人ではなく、真面目な性格で、気負うこともなく居心地が良くて、壱月は彼と一緒に居ることが多かった。
「見た目はな。けど、あの付き合い方はちょっと引く」
 ほわほわと夢見心地の壱月と違って冷めた声で及川が答える。壱月はそんな及川の横顔をきょとんと見つめ、なんで? と聞いた。
 カッコよくて明るくて、カッコ悪く転んだ自分なんかに手を差し伸べてくれるくらい優しい楽がそんなふうに言われるなんて壱月には分からなかった。
「いつも周りに人がいて、楽しそうだよ。それに、傍に居たい気持ちもわかるし」
 壱月はなんだか恐れ多くて近づけないが、もしチャンスがあるのなら近くにいたいと思う。きっとあんなふうに太陽みたいに笑う彼の近くは、温かく明るいはずだ。
「確かに人気はあるけど。知らないのか、壱月。アイツ、男女問わず来るもの拒まず、二股三股当たり前、真剣に告白した子だって遊んだら捨てられるって」
「宮村くんがそんなことするかな?」
「してるから、噂になるんだろ。簡単に手を出されたくないならやめときなって、話」
「でも、付き合うとかそういうのって、合意でしょ?」
 何股だろうが、期間が短かろうが、付き合っていてお互いに好きならそれは合意だろう。それで一方的に楽がそんなふうに言われるのはなんだか違う気がした。
「宮村が同じだけ気持ちを返してるとは限らないだろ。そもそも壱月はそんな扱いされたい?」
 及川に言われ、壱月の心に黒い靄がかかるのがわかった。好きになってはいけない相手だというのは分かる。まして自分は男だ。女に不自由していない楽が壱月を相手にするなど地球が何回転したってありえない。それでもそんな思いをふりきろうと、壱月は慌てて口を開く。
「でも、そんなの噂でしょ。ホントかどうかなんて……」
「あの宮村に群がってる集団の中の、茶髪の巻き毛の子とショートの子、それから白ニットの子、宮村の今の彼女たち」
「……彼女、たち……」
 壱月は驚いて再び楽を見やる。楽しそうに彼女らと話すその姿に、壱月の心臓はぎゅっと絞られるように痛んだ。
「だからさ、王子様に恋するなら同じだけの気持ちを返してもらうことを諦めるか、その恋自体を諦めるか……どっちかってことだろ」
 及川がそう言ったところで、教室に予鈴が響いた。それをきっかけに、及川は席を立つ。
「壱月もアレには近づかない方がいいぞ。すぐパシリにされるタイプなんだから」
 気をつけろよ、と及川は自分の席に戻っていった。壱月はそれを呆然と見送る。
 巻き毛の子もショートの子も白ニットの子も、この学校の可愛いランキングをつけるとしたら上位に入るような美人だ。そんな子たちと付き合ってる楽が、壱月なんて背も低く、地味で面白みもない、しかも男になんか興味を持つはずがない。及川はパシリにされると心配していたが、そんなものですらなれないだろう。その時は、そう思っていた。

 けれど転機は突然訪れる。
「澤下、今の現国のノート貸して」
 廊下でぶつかって以来、初めて楽が壱月に声を掛けたのは、夏休みが明けてすぐのことだった。
 授業が終わり、壱月が次の授業の準備をしていると、机のすぐそばに楽が立っていた。
 楽が自分の名前を知っていたことにも驚いたし、どうして自分なんかに声をかけたのだろうと思ったが断る理由もなく、壱月は少し震える手で楽にノートを差し出した。
「僕のでよければ……」
「サンキュ。俺の周りまともにノート取ってるヤツいなくて、お前ならって聞いたから……てか、澤下、字キレイだな。これ板書だけじゃない?」
「ああ、うん……教科書の大事なところも書き写してる……」
 壱月が答えると、いるじゃんすぐ近くに! と楽が嬉しそうに拳を握る。なんのことだか分からずに楽を見上げていると、その顔が急に近づいてきた。
 驚きで心臓が跳ね、鼓動が早くなる。
 近くで見ると、楽の瞳はより一層キラキラして見えた。遠くから眺めていた時には気づかなかったけれど、香水なのかいい香りがする。
 好きな人との急接近に心臓を高鳴らせている壱月を差し置いて、楽は嬉しそうな笑顔で言った。
「澤下、俺にこれからもノート貸して! できれば全教科!」
 それは本当に予想外な言葉だった。
 そもそも自分なんかに声をかけなくても、楽にノートを貸したい人なんてたくさんいるはずだ。楽の周りにはいつもたくさんの女の子がいる。楽が言えば誰でも貸してくれるだろう。普段交流のない壱月にこんなことを頼むなんて、何かあるのではないかと疑ってしまう。
「いい、けど……どうしたの、急に……」
 春からずっと楽のことを見ている壱月だが、楽にとっての授業時間は睡眠時間、だった。進学をしないと公言しているようだったから、卒業さえできればいいと思っているのだろうと思っていたから余計に楽の言葉を素直に受け取れない。
「いや、親がさ、急に大学くらい行け、とか言い始めて。フリーターになって家出てくつもりだったのに」
 言いながら、楽は壱月の前の席に腰掛けた。こんなに近くで楽を見るのは初めてで、ドキドキする。不機嫌な顔だが、眉間に寄る皺も下がった唇の端も男らしくて壱月には充分魅力的に見えた。
「大学行くなら一人暮らしも考えてやるっていうから、受験しようと思って。まあ、大学でまた四年遊ぶのも悪くないだろ?」
 屈託なく笑う楽の顔はときめいてしまうほどカッコよかったが、言っていることはどうしようもなくて、壱月はため息を吐いた。
「大学は遊びに行くところじゃないよ。学費だってかかるんだし、将来のことを考えて行くところで……」
「入ってから考える人だっているだろ?」
「そりゃ、そうだろうけど……」
「だから、とりあえずノート写すところから始めようと思って」
 頼むよ、と楽が壱月の前で、お願い、と両手を合わせる。
「……写すだけじゃなくて、ちゃんと勉強するなら、ほかの教科も貸すよ」
 そもそも好きな人に、お願い、を繰り返されてしまってはどんな牙城を築いても崩れてしまうのは当然だった。
 そうして一緒に居る時間が増えて、いつの間にか壱月は楽の『友達』になっていた。

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