【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ

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「壱月が可哀そうって、よく分かんないんだけど……俺は壱月と帰るために呼んだんだから、壱月がいなくてどうするんだよ。そういうことだから、もう付きまとうな。行こう、壱月」
 伝票を手に立ち上がった楽が壱月の肩をぽん、と押してここから離れることを促した。
 当然のように壱月と及川が呆気にとられる。これまでの会話で、どうしてそうなるのか、壱月にも分からないし、及川はもっと分からないようだ。
「でも、楽……」
「腹減ったし、帰ろう、壱月」
 楽の中では話が繋がっているようだが、壱月の中ではちっとも繋がらない。及川を見ると、こちらも同じようだった。
「どういうことだよ、楽。オレ、気持ち伝えたはずだよ。それでこうして会ってる……それって、そういうことだろ?」
 及川は楽に自分の気持ちを伝えたようだ。きっと楽はそれを否定せずに受け入れたのだろう。楽は今までもそうだった。同じ気持ちを返すことはないかもしれないけれど、相手の気持ちは拒まない。だから、及川もきっと楽と付き合っていることになっているはずだ。今回は過去の遊び相手に『会わない』というメッセージを送ったようだし、本気なのだと思っていたのだが、違うのだろうか。
 及川に詰問された楽が小さくため息を吐いてから口を開く。
「どういうもそういうも……そもそも同級生っていうけど、及川のこと俺覚えてないし、そんなヤツと付き合うとか同居とか初めから無理だし……てか、壱月に出ていかせるとか考えてなかったし」
「え……でも、その話しただろ? 空いたらオレがその部屋に住むって」
「空いたら、だろ? 空く予定ないし、あの部屋がいいなら、俺と壱月が出ていくだけだ」
 言葉の解釈の違いがあったのは、二人の会話で分かったが、楽が壱月を追い出すつもりがないように聞こえ、壱月は首を傾げた。
「楽、僕のこと邪魔なんじゃ……」
 自分の家なのに自由にできないと以前言われ、それから二人は顔を合わせなくなっていた。だからもう、壱月がいない方がいいのだと思っていたのだ。
「邪魔なんて、ひとつも思ってない。だから今日もこうして……」
 楽がそこまで話すが、そこに、でも、という及川の声が割って入った。楽が及川に視線を戻す。
「楽、オレのこと抱けるって……」
「あの時は及川が色んな場合を想定して、言わせたんだろ。及川を抱かなきゃ世界が終わるっていうならそうするってくらいの『抱ける』だったはずだ。平和な今の日本なら抱く気はないよ。……もういいだろ」
 及川にそれだけ言うと、楽は先に歩いていった。これは、楽には及川に対する気持ちは一ミリもなかったのだと、叩きつけられたようなものだ。さすがにこのフラれ方は辛いだろう。壱月は及川に何か言葉を掛けようとするか、見つからずにただ立ち尽くす。
「……行ってくれ、壱月。これ以上、惨めにするな」
 及川にそう言われ、壱月は唇を噛み締めた。
 多分、自分は及川に騙されていたのだろう。あの部屋を意図的に追い出されて、そこに及川が収まるつもりでかつての友人は動いていた。楽への恋を再燃させたのかもしれないし、憧れの楽の傍に未だに自分なんかが居て腹が立ったのかもしれない。
 理由も真相も分からないけれど、及川を嫌いになることは出来なかった。楽に惹かれる気持ちは壱月にもよく分かる。
 だから何かしてあげたいと思ったのだが、どうしたら及川の気持ちが楽になるのか、考えても分からない。
「……及川がもう会いたくないっていうなら、もう連絡は取らない。でも、もし旧友として会いたくなったら、いつでも連絡して」
 壱月が声をかけると、及川は、ははは、と声を出して笑い出した。
「ほんっと、壱月は甘いっていうか、お人よしっていうか……」
「え?」
 聞き返すと、及川がこちらを見上げまた笑う。
「あの頃よりちょっとはあか抜けたけど、まだ全然ダサい壱月が未だに楽の傍にいるなら、それよりも見た目が良くなったオレなら楽を自分のものにできるんじゃないかって思ったんだよ。オレは壱月をバカにして、騙して、傷つけた。それでも壱月はオレに会いたいとか思うんだ」
 ばかじゃないの?と、及川が怪訝な顔をする。それでも壱月は、そんな及川をまっすぐ見つめた。
「……及川は、友達だ。だから、会いたいと思うよ」
 はっきりと告げると、及川は視線を目の前に戻し、それから何も話さなくなった。
「壱月、行くよ」
 少し先で待っていた楽に、ばっさりと切るように言われ、壱月はゆっくりと歩き出した。
 振り返った及川の背中は、小さく震えていて、壱月は目を瞑って見ないフリをしてその場を離れた。

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