【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ

文字の大きさ
29 / 45

10-2

しおりを挟む
「楽、どうして、ここに壱月がいるんだよ?」
 そこに居たのは及川だった。動揺から挑むような鋭いものに変わる視線を受けて、壱月は居たたまれず、及川から視線を逸らせた。
 いつの間にか呼び方も『楽』に変わっている。それだけ二人が親しくなっているということだろう。嫌だ、逃げたい――そう思う自分に、もう少し我慢だ、と言い聞かせ、壱月は黙って及川と楽の様子を見つめた。
「どうしてって、説明しても納得いかないって言ったの、そっちだろ。だから、壱月をわざわざ呼んだんだよ。本当は、学祭の時に話してもよかったんだけど、そっちが仕事だとか言うから、合わせてもらった」
 楽に親指で指され、壱月は訝しげな顔で楽を見る。及川が、よく分からないという顔を楽に向けていた。
 正直、壱月にも楽の言っていることが分からない。ただ、壱月に伝えたいことがあるのは分かったので、大人しくそのまま見守ることにする。
「楽、あの日言ったよな? 壱月が出ていったら一緒に住んでくれるって。オレのことも抱けるって言ってくれたよな?」
 及川の言葉が壱月の胸に刺さる。壱月とはしたくないと言ったのに、及川なら抱けるのか。もうこれは決定打と言っていいだろう。
「ああ……言ったな」
 楽も及川の言葉を認めた。
 今自分は傷口に更にナイフを突き立てられているのだろうか。ここまでしなくても、もう壱月が楽を困らせることはしない。これ以上は無理だと判断した壱月がため息を吐く。
「あのさ、楽。もうお前の恋愛に僕を巻き込むの、やめてほしいんだけど。もう、部屋も出ていくし、楽には関わらないよ」
 もう傍で見ているのは辛い。忘れたくても顔を見たらやっぱり好きだと思ってしまう、こんな自分から抜け出したい。それには楽と縁を切るしかないのだ。壱月だって、幸せになりたいのだ。これまで壱月なりに楽を想ってきたのだ。新しい恋を求める権利くらいあるだろう。
 そう思って言うと、楽がこちらをじっと見つめ、口を開いた。
「そんなこと言うなよ、壱月。だって気づいちゃったんだから……一番大事なのは誰か、一番手に入れたいのは誰なのか」
 楽は滅多に見せない真面目な顔で壱月を見つめた。冷え切っていた体が更に冷えていく。体温がどこまでも下がっていくような、そんな気がした。不安だけで鼓動を繰り返していた心臓が、止まりそうなくらい収縮する。
「だから、それって……」
 及川のことだろ、とは言えなくて壱月が黙り込む。その顔を見て、及川が勝ち誇った様に笑んだ。楽の言葉と壱月の態度で、これから楽が何を言わんとするか分かったのだろう。
「楽、こんなこと言う為に壱月呼んだのか? さすがに可哀そうじゃない?」
 眉を下げてこちらを見上げる及川から、壱月が視線を逸らす。
 随分前だが、楽と付き合っていた子からこんな視線を受けたことがある。私の方が楽に近いとか、好かれているとか、そんなマウントのようなものなのだろうと思っていたが、いつの間にかそんなこともなくなり、なんなら楽からの評価を上げようと、壱月と仲良くしようとする子もいたくらいだ。
 多分、由梨乃が言っていたように楽が壱月の話をするからだろう。
 だからこの時の視線は、少し懐かしいとさえ思った。
「……及川、僕はもう帰るから、そんなこと言わなくていいよ。僕は可哀そうとかじゃないから」
 壱月がそれだけ言ってその場を離れようとすると、楽の大きなため息が聞こえ、壱月と及川が楽に視線を向けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

なぜかピアス男子に溺愛される話

光野凜
BL
夏希はある夜、ピアスバチバチのダウナー系、零と出会うが、翌日クラスに転校してきたのはピアスを外した優しい彼――なんと同一人物だった! 「夏希、俺のこと好きになってよ――」 突然のキスと真剣な告白に、夏希の胸は熱く乱れる。けれど、素直になれない自分に戸惑い、零のギャップに振り回される日々。 ピュア×ギャップにきゅんが止まらない、ドキドキ青春BL!

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

【完結】腹黒王子と俺が″偽装カップル″を演じることになりました。

Y(ワイ)
BL
「起こされて、食べさせられて、整えられて……恋人ごっこって、どこまでが″ごっこ″ですか?」 *** 地味で平凡な高校生、生徒会副会長の根津美咲は、影で学園にいるカップルを記録して同人のネタにするのが生き甲斐な″腐男子″だった。 とある誤解から、学園の王子、天瀬晴人と“偽装カップル”を組むことに。 料理、洗濯、朝の目覚まし、スキンケアまで—— 同室になった晴人は、すべてを優しく整えてくれる。 「え、これって同居ラブコメ?」 ……そう思ったのは、最初の数日だけだった。 ◆ 触れられるたびに、息が詰まる。 優しい声が、だんだん逃げ道を塞いでいく。 ——これ、本当に“偽装”のままで済むの? そんな疑問が芽生えたときにはもう、 美咲の日常は、晴人の手のひらの中だった。 笑顔でじわじわ支配する、“囁き系”執着攻め×庶民系腐男子の 恋と恐怖の境界線ラブストーリー。 【青春BLカップ投稿作品】

うまく笑えない君へと捧ぐ

西友
BL
 本編+おまけ話、完結です。  ありがとうございました!  中学二年の夏、彰太(しょうた)は恋愛を諦めた。でも、一人でも恋は出来るから。そんな想いを秘めたまま、彰太は一翔(かずと)に片想いをする。やがて、ハグから始まった二人の恋愛は、三年で幕を閉じることになる。  一翔の左手の薬指には、微かに光る指輪がある。綺麗な奥さんと、一歳になる娘がいるという一翔。あの三年間は、幻だった。一翔はそんな風に思っているかもしれない。  ──でも。おれにとっては、確かに現実だったよ。  もう二度と交差することのない想いを秘め、彰太は遠い場所で笑う一翔に背を向けた。

俺が王太子殿下の専属護衛騎士になるまでの話。

黒茶
BL
超鈍感すぎる真面目男子×謎多き親友の異世界ファンタジーBL。 ※このお話だけでも読める内容ですが、 同じくアルファポリスさんで公開しております 「乙女ゲームの難関攻略対象をたぶらかしてみた結果。」 と合わせて読んでいただけると、 10倍くらい楽しんでいただけると思います。 同じ世界のお話で、登場人物も一部再登場したりします。 魔法と剣で戦う世界のお話。 幼い頃から王太子殿下の専属護衛騎士になるのが夢のラルフだが、 魔法の名門の家系でありながら魔法の才能がイマイチで、 家族にはバカにされるのがイヤで夢のことを言いだせずにいた。 魔法騎士になるために魔法騎士学院に入学して出会ったエルに、 「魔法より剣のほうが才能あるんじゃない?」と言われ、 二人で剣の特訓を始めたが、 その頃から自分の身体(主に心臓あたり)に異変が現れ始め・・・ これは病気か!? 持病があっても騎士団に入団できるのか!? と不安になるラルフ。 ラルフは無事に専属護衛騎士になれるのか!? ツッコミどころの多い攻めと、 謎が多いながらもそんなラルフと一緒にいてくれる頼りになる受けの 異世界ラブコメBLです。 健全な全年齢です。笑 マンガに換算したら全一巻くらいの短めのお話なのでさくっと読めると思います。 よろしくお願いします!

諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】

カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。 逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。 幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。 友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。 まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。 恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。 ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。 だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。 煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。 レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生 両片思いBL 《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作 ※商業化予定なし(出版権は作者に帰属) この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。 https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24

殿堂入りした愛なのに

たっぷりチョコ
BL
全寮の中高一貫校に通う、鈴村駆(すずむらかける) 今日からはれて高等部に進学する。 入学式最中、眠い目をこすりながら壇上に上がる特待生を見るなり衝撃が走る。 一生想い続ける。自分に誓った小学校の頃の初恋が今、目の前にーーー。 両片思いの一途すぎる話。BLです。

三ヶ月だけの恋人

perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。 殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。 しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。 罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。 それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。

処理中です...