【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ

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 駅前通にある生垣で囲まれたカフェは、楽自身がバイトしてるということもあり、楽によく連れて行かれた店だった。プレートもコーヒーも美味しいが、壱月にとってはやっぱり同じバイト仲間の女の子たちと話す楽の姿が胸に尖った錘を落とされているようで、少し辛い場所ではあった。
 それでも唯一嬉しかったのは、楽がそこではコーヒーを飲まなかったことだ。「壱月のコーヒー飲んじゃうと、他で飲めない」と言ってくれたのが何より嬉しかった。
 そんなことを思い出しながら、壱月は駅からその店に向かって歩いていた。夜になって随分冷え込むせいか、ブルゾンだけでは少し寒い。指先まで冷え切っている。緊張しているのかも、と指先を握りこんで早足で先へ進むと、すぐそこに葉の落ちた生垣が見えていた。
 店のドアを開けると、ケーキのショーケースの奥からタブリエを巻いたホール係の女の子が笑顔で出迎える。その顔が、一瞬驚いたように変わり、再び笑顔に戻る。
「聞いたよ、学祭の話。楽に『会いたかった』って言わせたんだって?」
 付き合った子たち誰も言われたことなかったのにって話題だよ、と言われ、壱月は首を傾げた。しばらく彼女の顔を見てから、それが楽のバイト仲間で、元カノの女の子だと気づいた。確か学校も同じだから、王子コンを見ていたのかもしれない。
「なんか、恥ずかしいものをお見せして……」
「ケンカでもしてたの? 楽が壱月くんに会ってないの、珍しいなって思ったんだ」
 女の子が笑いながら話すその言葉に、壱月が首を傾げる。
「珍しい?」
「うん。だって楽、一緒に遊んでも絶対『壱月が待ってたら困るから帰る』って家に帰るから、毎日会ってるんだろうなって思ってた」
 楽と壱月の関係が良好な頃は、確かに楽は外泊をせず、必ず壱月と話す時間を作っていた。楽を待っていたつもりはなかったのだが、楽と顔を合わせるまで起きていることもあったので、楽はそれを待っていると思ったのかもしれない。
「そっか……ちょっとね、色々すれ違って」
「それで、あんなふうに約束させられたんだ。あれじゃ、壱月くんじゃなくても断れないよね。いつもの奥の隅に居るよ、楽」
 彼女の視線が店の奥へと壱月を導く。壱月は、ありがと、と言って、一歩進んだ。その度に、心臓が大きく音を立てているようで少し煩かった。
 観葉植物の向こうへと踏み出すと、一番奥のソファ席にもたれるように座っている楽が居た。壱月と来ていた時も、いつもあの席でリラックスしていたな、と思い出す。
 ただ、その席に居たのは楽だけではなかった。壱月の立つ位置からは後頭部しか見えないが、若い男だというのはわかった。壱月の体の中が、急速に冷えていく。
 きっと、楽が一人に決めた相手だろう。その人を紹介されるのは辛い。今、壱月が想像するのは、どれも最悪の言葉だった。
『コイツと同棲することにしたから、部屋ちゃんと空けてくれない?』『コイツが嫌だっていうから、俺の番号消してくんない?』――想像はありえないところまで広がっていく。
 強い目眩の中、楽と目が合った。煙草の火を消した楽は、視線を合わせ人差し指で壱月を呼んだ。糸か何かで引かれる様に壱月が少しずつ楽に近づく。
「さすが壱月、時間ぴったり」
 近づいた壱月に、楽が口角を引き上げる。その表情が何を思っているのかわからなくて、壱月は固い表情のまま頷いた。
「あんなところで約束させられて、来ないわけにいかないだろ」
 きっと明日は誰に会ってもちゃんと約束を守ったのかと聞かれるのだろう。壱月の友人からも、どんな話だったのか、と言われるに違いない。フラれてきたとは話せないけれど、ここに来た事実だけは作っておかないと、こちらが悪者になってしまう。
「まあ、狙い通りだね」
 くすくすと笑う楽に、ねえ、という声が飛び、壱月が驚いて視線を下に向けた。
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