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しおりを挟む『今年も今年も伝統ある学園の王子・姫コンテストが始まりました!』
午後一時を過ぎ、ステージでは司会の学生がたのしそうに話し始める。壱月はそれを眺めながら、自身の冷えた指先をぎゅっと握りしめた。確かに空気は冷えてきているが、これは寒さからくるものではないのは分かっている。さっきから、心臓が押しつぶされそうなくらい緊張しているのだ。
『では、まずはエントリーされた王子候補をご紹介します! まずは前回の王子、今回王子をとったら殿堂入りになる、三年の宮村楽くん!』
司会の言葉を聞いて、壱月がステージを見つめる。白いセーターに緩めのカーゴパンツをはいた楽が、相変わらず面倒そうにステージに上がった。それなのに、観覧席からは女子学生の悲鳴にも似た歓声が上がる。確かに楽はそこにいるだけでカッコいい。
他の学生も次々とステージに上がり、そのたびに歓声が上がるが、壱月の視線は楽に向いたままだった。少し不満そうな顔も、観覧席の友達に手を振る姿も、少し遠くを見ているその視線も、全部焼き付けたかった。多分、もうこんなに楽を見つめることはないだろう。
『それでは、現時点で投票を締め切らせていただきます。結果は手元に出てますよ』
響いたその言葉に、観覧席からは色々な名前が叫ばれる。自分が投票した人に王子になってもらいたいという気持ちはとてもよく分かる。でも今の壱月は誰が王子になってもよかった。壱月にとっては、楽だけが、ただ一人の王子だ。
『今年の王子は、三年連続、宮村くんに決定しました! おめでとうございます!』
司会の声が響いて、その後に歓声やどよめきが地鳴りのように響いた。三年連続という偉業、自分が選んだ人が一番になる悦び、そして多少のやっかみなんかも混ざっているだろう、観覧席を楽はじっと見つめていた。
元々この企画に興味がないので、去年も一昨年もそんなに喜んでいなかったが、今年は更にどうでも良さそうだ。それでも、そんな顔も様になるのだから楽はやっぱり生まれながらの王子なのだと思う。
そんなことを思って壱月が小さく笑った、その時だった。
『澤下壱月、いるんだろ? 前に出て来いよ』
マイクを手渡された楽が、スピーチや感想ではなく、突然壱月の名前を呼んだ。当然壱月は驚いたし、周りはざわつく。自分を知っている人からの視線が集まってしまい、壱月は仕方なく、観覧席の外側へと歩き出した。
『誰?』『楽の親友だったか?』――小さな噂の声を聞きながら、壱月はステージの端の前へと出た。学生たちの視線が痛い。
『……会いたかったよ、壱月』
楽の優しい声がマイクに乗って、あたりに響く。それにドキドキしたのは壱月だけではないだろう。
「楽……」
僕も会いたかったとは言えず、楽を見つめる。すると楽は、ステージを飛び降り、壱月の前へと立った。
「もう逃げるな。ちゃんと話をしよう。俺も、もう自分で決めることにしたんだ」
「話、なんて……」
自分で決めるというのは、どういう意味なのだろう。これまで楽は、求められれば受け入れてきていた。それがラクなんだと、楽は以前話していて、それは今でも変わっていないようだった。もう、他人に任せることをやめたということなのだろうか。
壱月が戸惑いながら楽を見上げると、その顔が優しく笑む。そして、手にしていたマイクを持ち上げた。
『今日の夜八時、俺のバ先で待ってる。絶対来いよ』
楽はそれだけ言うと、壱月の頭を軽く撫でてからステージへと戻っていった。壱月が呆然とその様子を見つめる。こんなに聴衆がいたら、壱月が約束を破るわけにはいかない。マイクを使ったのは、それが狙いだったに違いない。
案の定友人からは『打ち上げ誘おうと思ったけど、約束あるみたいだからそっち行けよ』という、からかい半分なメッセージが来て、壱月は諦観のため息を零した。
「楽! ちゃんと行くから……その時楽の本当の気持ち、聞かせて」
壱月がステージに向かって叫ぶ。それを聞いた楽が嬉しそうに微笑み、もちろん、と答えた。
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