【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ

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「楽、あの……」
 さっきの言葉の真相を知りたくて壱月が聞くと、楽は振り返ることもなく、いいから、と答えた。
「部屋着くまで黙っとけ」
 廊下を抜けて、部屋の前で楽は慣れた手つきで鍵を開けた。少し手荒に玄関に壱月を押し込めると、後ろ手にドアを閉める。
 一瞬にも満たない後だった。楽の腕が、壱月の体を後ろから捕らえた。
「が、楽……?」
「好きだ。ずっと、好きだったんだって、気づいたんだ」
 耳元で響く優しい声は、少し震えていた。
「壱月がいなくなって、自分がおかしくなってることに気づいたんだ。イライラするし、何でも壱月と比べたりして」
「楽でも動揺することあるんだ?」
 ふふ、と笑い出すと、笑い事じゃねえよ、と楽が壱月を更に強く抱きしめた。
「ホントにおかしくなったと思ったんだよ。壱月のセーター隠した後とか……探す時間が長ければ、もしかしたら冬物取りに来た壱月に会えるかもしれないって思った自分に」
 なければ買うよな、と楽がため息を吐いたので、壱月は、そんなことないよ、と優しく楽の腕に手のひらを乗せた。実際、クローゼットを探したので、あながち間違った方法ではなかっただろう。
「僕、セーター探した後に楽に会ったんだよ……あの日」
 楽は、そうだったんだ、と短く息を吐いた。
「その時、壱月が自棄んなって俺を誘った時、こういうんじゃないって思ったんだ。こんな風に抱きたいんじゃないって……壱月のことは嫌いじゃないし、抱いてって言われたらいつでも抱けるって思ってたのに、なんか、嫌で……それからどうしてそんな風に思ったんだろうって考えてたら、壱月が好きなんだって結論になった。壱月が好きだから、衝動で体だけ繋ぐようなことはしたくなかった」
 楽の腕が壱月の体を反転させる。向き合い、見上げた目は冗談でも嘘でもなかった。珍しく真剣な表情の楽に、壱月は心臓を高鳴らせた。あの、したくないという言葉は、そんな気持ちの表れだったのだと思うと、嬉しいのと同時にひどく安心した。
「考えるなんて……楽らしくないね」
「壱月が出ていってから、全然らしくないよ、俺。それだけ本気だってことだよ。だから、身辺整理もした。壱月がアイツと別れたって言ってたし今しかないって思って」
「それで、女の子たちに強引に別れ話してたんだ」
「だって、壱月はモテるから、すぐ次のヤツが出来るし……もうそんなの、見てられない」
 楽は言葉の最後を言い終わる前に、壱月と唇を重ねた。しっとりと温かい唇は、少しだけ煙草の匂いが混ざっている。それすら、壱月には楽を感じるひとつになっていて、嬉しかった。今、こうして触れ合っているのは、間違いなく楽で、夢ではないのだと思うと自然と体が震えた。
 壁際に押さえ込まれ、楽の手は壱月の体を優しく辿っていく。体の芯が熱くなりそうなその感覚に、吐息の中に声が混ざってしまう。けれどそれはすぐに楽のキスに吸い込まれていった。このまま楽に身を委ねたいと思ったが、大事なことを思い出し、壱月は唇を離した。
「まっ……て、楽……」
「待てるかよ」
「少しだけ。五秒でいい」
 小さく喘ぎながら壱月が耳元で、おねがい、と囁くと、楽は不本意な顔で、五秒だけな、と答えた。壱月が頷いて口を開く。
「好き。ずっと……初めて楽を知った時から好きだった」
 春の廊下で、手を差し伸べてくれた楽を思い出す。キラキラまぶしくて、目も開けていられなかった王子様。誰とも本気の恋はしてもらえないとみんなが諦めたその恋が目の前にある幸せに、壱月は今手を伸ばしていると実感していた。
 壱月は、楽の目を見つめ言い切ると、やっと言えた、と微笑んだ。楽はその顔に驚きを浮かべたが、すぐに笑顔を戻した。
「きっかり五秒だ」
 楽はそれだけ言うと、壱月の体を抱え上げた。
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