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「お前っ……」
「が、く……?」
亮平と壱月の声が重なり、楽は面倒そうに、何、と答えた。
「今、壱月と大事な話してんだよ」
亮平の表情が険しく変わり、ケンカ腰に楽を見やる。それでも楽は飄々とした様子で亮平に視線を返した。
「だから、話の間は待ってた。でも話じゃないことしようとしたでしょ? ダメだよ。もうあんたのものじゃないんだから、壱月には触れさせない」
楽の言葉に亮平の顔が鋭く変わっていく。二人の間で壱月はどうすればいいのかわからず、楽に抱きしめられたまま、ただ様子を見守っていた。こんな時なのに、楽の体温を感じてドキドキと心臓がうるさい。
「壱月と話をしてるんだから、お前は関係ないだろ」
「よくまあ、この状況見てそんなこと言えるよな」
「状況?」
「今、壱月に触れようとして、拒まれたよな? それも分からない? そうやって壱月の気持ち無視できるから、簡単に壱月のこと捨てられるんだろ」
「捨てたわけじゃない!」
楽の言葉に亮平は噛み付くように返す。けれど冷ややかに見下したままの楽は、捨てたんだよ、と強く繰り返した。
「それで状況が好転したらまた壱月に甘えて、それで上手くいかなくなったら、また何かしらの理由をつけて壱月を捨てるんだよ。壱月はそんなふうに扱っていいやつじゃない」
楽の中で、壱月はちゃんと大事な存在なのだと感じ、壱月はなんだか嬉しかった。このまま離れることになったとしても、大事に思われているのなら、それだけで壱月は嬉しい。
楽の言葉が図星だったのか、バカにされたと思ったのか、亮平は眉を吊り上げて額に対峙した。
「バカなこと言うなよ! お前みたいなヤツに、おれの何がわかるっていうんだよ。……聞いたよ、お前、誰も本気で好きになったことないんだってな」
そんなヤツに恋愛ごとなんか説かれたくない、と亮平が楽を睨みつける。それを冷静に受け止めた楽は、なんだそんなこと、と口を開いた。
「それ、いつの話? 人を好きになる気持ちくらい、今ならわかるよ」
「相手が多くても、本気にならないなら、お前の方こそ人の気持ちを無視してるんじゃないか?」
「今俺に付き合ってる人はいないよ。それに、誰の気持ちを無視しても、壱月の気持ちだけは無視しない。俺は壱月が好きだから」
楽から発せられた言葉に亮平だけでなく、壱月も驚く。びっくりして楽を見上げると、その顔はしっかりと亮平を見据えていた。真剣なその顔に、壱月の心臓はまた鼓動を早くする。
「初耳だな」
「そりゃそうだよ。まだ本人にだって言ってない。……だから、壱月はあんたのとこには戻らない。俺が戻らせない。行こう、壱月」
ぐいと腕を引かれ、壱月は歩き出す。まだ楽の言葉が信じられなくて、呆然としたまま楽の後をつく。
「壱月」
亮平がそんな壱月に声を掛ける。その目が、本当にいいのか、とこちらに聞いていた。きっと、壱月が少しでも不安を顔に出したら、全力で楽から引き離すつもりなのだろう。でも、今の壱月はこのままちゃんと楽の話を聞きたかった。
だってさっきまで、離れることしか考えられなかったのに、それが今、もしかしたら違うのかもしれないと分かったのだ。壱月の胸は期待でドキドキし始めている。
「……今までありがとう、亮平」
壱月がそう言うと、亮平は大きくため息を吐いた。
壱月の気持ちが届いたのか思い過ごしなのか、亮平は幾分穏やかな表情を浮かべ、背を向けて帰って行った。
それを見ていた楽が再び壱月の腕を引く。壱月はそれに慌てて付いていくように歩き出した。
「が、く……?」
亮平と壱月の声が重なり、楽は面倒そうに、何、と答えた。
「今、壱月と大事な話してんだよ」
亮平の表情が険しく変わり、ケンカ腰に楽を見やる。それでも楽は飄々とした様子で亮平に視線を返した。
「だから、話の間は待ってた。でも話じゃないことしようとしたでしょ? ダメだよ。もうあんたのものじゃないんだから、壱月には触れさせない」
楽の言葉に亮平の顔が鋭く変わっていく。二人の間で壱月はどうすればいいのかわからず、楽に抱きしめられたまま、ただ様子を見守っていた。こんな時なのに、楽の体温を感じてドキドキと心臓がうるさい。
「壱月と話をしてるんだから、お前は関係ないだろ」
「よくまあ、この状況見てそんなこと言えるよな」
「状況?」
「今、壱月に触れようとして、拒まれたよな? それも分からない? そうやって壱月の気持ち無視できるから、簡単に壱月のこと捨てられるんだろ」
「捨てたわけじゃない!」
楽の言葉に亮平は噛み付くように返す。けれど冷ややかに見下したままの楽は、捨てたんだよ、と強く繰り返した。
「それで状況が好転したらまた壱月に甘えて、それで上手くいかなくなったら、また何かしらの理由をつけて壱月を捨てるんだよ。壱月はそんなふうに扱っていいやつじゃない」
楽の中で、壱月はちゃんと大事な存在なのだと感じ、壱月はなんだか嬉しかった。このまま離れることになったとしても、大事に思われているのなら、それだけで壱月は嬉しい。
楽の言葉が図星だったのか、バカにされたと思ったのか、亮平は眉を吊り上げて額に対峙した。
「バカなこと言うなよ! お前みたいなヤツに、おれの何がわかるっていうんだよ。……聞いたよ、お前、誰も本気で好きになったことないんだってな」
そんなヤツに恋愛ごとなんか説かれたくない、と亮平が楽を睨みつける。それを冷静に受け止めた楽は、なんだそんなこと、と口を開いた。
「それ、いつの話? 人を好きになる気持ちくらい、今ならわかるよ」
「相手が多くても、本気にならないなら、お前の方こそ人の気持ちを無視してるんじゃないか?」
「今俺に付き合ってる人はいないよ。それに、誰の気持ちを無視しても、壱月の気持ちだけは無視しない。俺は壱月が好きだから」
楽から発せられた言葉に亮平だけでなく、壱月も驚く。びっくりして楽を見上げると、その顔はしっかりと亮平を見据えていた。真剣なその顔に、壱月の心臓はまた鼓動を早くする。
「初耳だな」
「そりゃそうだよ。まだ本人にだって言ってない。……だから、壱月はあんたのとこには戻らない。俺が戻らせない。行こう、壱月」
ぐいと腕を引かれ、壱月は歩き出す。まだ楽の言葉が信じられなくて、呆然としたまま楽の後をつく。
「壱月」
亮平がそんな壱月に声を掛ける。その目が、本当にいいのか、とこちらに聞いていた。きっと、壱月が少しでも不安を顔に出したら、全力で楽から引き離すつもりなのだろう。でも、今の壱月はこのままちゃんと楽の話を聞きたかった。
だってさっきまで、離れることしか考えられなかったのに、それが今、もしかしたら違うのかもしれないと分かったのだ。壱月の胸は期待でドキドキし始めている。
「……今までありがとう、亮平」
壱月がそう言うと、亮平は大きくため息を吐いた。
壱月の気持ちが届いたのか思い過ごしなのか、亮平は幾分穏やかな表情を浮かべ、背を向けて帰って行った。
それを見ていた楽が再び壱月の腕を引く。壱月はそれに慌てて付いていくように歩き出した。
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