【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ

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【後日談】明日もきみと恋してく1

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 暗い部屋にスマホのアラーム音が鳴り響いて、壱月は布団の中から手を伸ばした。探りながら指を伸ばし、ベッドサイドの小さなシェルフに置いてあったスマホをつかみ取ると、ぼやける視界のままアラームを止める。そうしてからゆっくりと壱月は体を起こした。
 今日も朝から講義が入っている。起きて着替えてコーヒーを淹れて……そんなふうにぼうっとする頭を動かしながら考えていると、不意に腰を掴まれ、そのまま引き倒された。
「うわっ……楽……起きたの?」
「まだ寝る」
 壱月の体を抱き寄せ、その胸にすっぽりと収めた楽は、目も閉じたままでそう答えた。
「今日一限目必修だろ?」
「……もっと壱月と居たい」
 楽はそう言いながらぎゅっと壱月の体を抱きしめる。好きな人にこんなふうに言われたら、壱月だって嬉しい。けれどこれ以上こうしていたら朝の支度をする時間がなくなってしまう。
「今日は一日一緒の授業だろ。僕、バイトだけど終わったらすぐ帰るし」
 ね、と楽の頭を撫でると、楽がゆっくりと目を開けた。それから壱月に、おはよう、とキスをする。
「だったら、今日一日手繋いでいい? したい時にキスしていい?」
「……ダメに決まってるだろ」
 突拍子もない楽の言葉に壱月がため息を吐く。
 付き合い出してからの楽は、こうやって壱月に甘えることが多くなった。ほぼ毎日同じベッドで寝ているし、お互いバイトのない日は一緒に帰る。それだけじゃ足りないようで、以前はほとんどしなかったメッセージのやりとりも毎日するようになった。元々お願い上手だったが、今は少し子どもみたいな甘え方をする。こんな楽を今まで見たこともなかったから、きっと恋人にはこうして甘えてきたのだろう。
 こんなふうに、かつて壱月が付き合って来た相手のことを恋人に話していたのなら、なんとかしてあげたいと思うのも少し分かる気がした。
「ほら、起きよう。楽」
「……やっぱりもう少し」
 楽はそう言うと壱月を抱きしめたまま、ぐるりと転がった。楽に組み敷かれる形になった壱月が驚いて楽を見上げる。
「楽?」
「もう少し、壱月の充電させて」
 楽はそう言うと、壱月のパジャマの裾をたくし上げた。空気に晒された胸に、楽が唇を寄せる。
「あっ、楽……だめっ」
 胸の先に吸い付かれ、壱月は楽の肩を押した。このままじゃこの心地良さに流されてしまう。
 今まで、どうしたってこんな関係になれないと諦めていたのだ。その冷たい指先で触れられるだけで、壱月の理性なんて紙切れみたいにどこかに飛んで行ってしまう。
「壱月……遅刻しないようにするから」
 くちゅ、と音を立てて首筋にキスをした楽が耳元で囁く。こんな誘惑に勝てるわけがなかった。
 壱月は眉を下げた楽の顔に小さく頷いた。
「……約束だよ」
「分かってる」
 楽はそう言うと、壱月にキスをしながらパジャマに手を掛けた。


「今食べたから大丈夫っと」
 楽からの『ご飯食べた?』というメッセージに返信した壱月は、バイト先のロッカーにスマホを放り込んでからその扉を閉めた。
 結局朝食を抜くことで遅刻を免れたので、今日は昼ごはんしか食べていない。楽はそのことを心配しているらしい。別に朝食を抜いただけでその後ちゃんと食事をしているのだから何も心配ないのに、楽は違うようだ。
 確かに倒れた前科もあるので、壱月も強くは言えない。
 それにこうして気遣ってくれている、それがなんだか嬉しかった。
「ごめん、松永さん。変な時間に休憩貰って」
 事務所を出て、売り場に戻ると、同じシフトで働く女の子が品出しをしていた。
「全然。お客さん来なかったし、平気。新作おにぎりどうだった?」
「美味しかったよ」
「ホント? 明日の朝食べるのに買っていこうかな」
 夜食べると太るし、と笑う彼女は同じ大学の二年生だ。気さくな性格で仕事もしやすく、壱月はとても助かっている。
「そういえば、宮村先輩って、澤下くんに落ち着いたって噂、ホントですか?」
 サンドイッチを棚に並べながら、松永が聞く。その言葉に壱月は動揺して商品を手から滑らせた。
「あっ、と。澤下くん大丈夫?」
 壱月が落とした商品を上手に受け取って、松永が壱月を見上げる。
「え、あ、いや……もうそんな噂、あるの?」
「はい。宮村先輩って良くも悪くも目立つし、モテるから、やっぱり噂にはなりますよ」
 こんな時、改めて楽の人気の高さを痛感する。確かに大学の中を楽と歩いていれば視線を感じることも多いが、話題にされるほどとは思っていなかった。
「落ち着いたっていうか……うん。その通りだよ」
「なんか、意外。澤下くんは親友ポジ貫くと思ってました」
「どうして?」
「勝手なイメージですけど……澤下くんって年上のキレイな彼女連れてるんだろうなって思ってて。宮村先輩とは真逆のイメージだったから」
 松永がそう言って笑う。そんなイメージを持たれているとは思っていなくて、壱月は驚いた。
「え、そんなイメージ?」
 女性ではないが確かに年上と付き合っていた。そのイメージもあながち間違いでもないのかもしれない。
 頷く松永を見てから、壱月はゆっくりと口を開いた。
「あのさ、松永さん……やっぱり釣り合わないかな、僕と楽」
 自分に年上と付き合うイメージがあるように、楽にも似合う相手のイメージがあるはずだ。壱月が恐る恐る聞くと、松永は、うーん、としばらく考えてから口を開いた。
「……勿体ないとは思います」
「……だよね」
 イケメンで明るくて人気があって優しい楽は、自分には勿体ない。それはよく理解できた。けれど松永は慌てて、違います、と首を振った。
「宮村先輩に澤下くんは勿体ないって意味です」
「え?」
「もちろん、宮村先輩は誰が見てもイケメンだし、あれだけ人が寄ってくるってことは魅力あるんだと思いますけど……やっぱり人付き合いだらしないのは否定できないし、澤下くんが同じ目に遭うなら、それは嫌だなあって。澤下くんいい人だから」
「そっか……ありがと」
「うん。だから、ちゃんと幸せになってくださいね」
 松永がそう言って微笑む。壱月がそれに頷くと、店のドアが開いた。
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