三ヶ月後、別れる彼に贈る溺愛メソッド

藤吉めぐみ

文字の大きさ
4 / 34

2-1

 翌日の閉店後、店の最寄り駅の前にある居酒屋で、梶田くんいらっしゃーい、という店長の掛け声とともに碧は自身のジョッキを持ち上げた。
 隣では知温が、よろしくおねがいします、と人懐こい笑顔でグラスを掲げている。
「梶田くん、うちの服似合うよねえ。今日びっくりしちゃった」
 テーブルをはさんで向かい側にいた優菜が身を乗り出して知温を見やる。
 黒いパンツにあえて真っ白なTシャツ、その上にはかっちりとしたジャケットを着ていた。長身でバランスのいい体形だからこそ決まるスタイルだろう。
「そう言ってもらえると嬉しいです。優菜ちゃんの着てるパーカーもよく似合ってます」
「ありがとう、初給料で買ったお気に入りなんだー。うちの服、ちゃんと大事に着れば長持ちするから、結果お買い得なんだよね」
「素材に関しては妥協してないって、本社研修でも言ってました」
 着心地もいいですもんね、と碧に微笑む。
 話を聞きながらジョッキを傾けていた碧は、どうしてこちらを見るのだ、目の前の優菜と話してるのではなかったのか、と微妙に焦りながら、そろりと視線を優菜に向けた。やっぱりその表情は少し不機嫌になっている。予想通り三次元彼氏のターゲットは知温になったようだ。
    朝は興味なさそうだったのに一日見ていていいなとでも思ったのかもしれない。
「そう、だね。そこはお客様に推していっていいと思うよ」
 当たり障りのない言葉を返して笑うと、知温が、碧くんも、とこちらに手を伸ばす。
「このシャツ似合ってるなって、思ってました」
 くん、と襟を掴まれ、驚いて知温を見やる。キスでもできそうな距離にその顔があり碧は驚きで固まってしまう。それを見ていた知温が口の端を引き上げてからそっと襟を離した。
「碧くんって、可愛いってよく言われませんか?」
「言われてるー。それさ、普通女の子の私に言わない? どうしてみんな碧くんに言うわけ?」
 知温の言葉に先に答えたのは優菜だった。自分に意識を戻してほしいという気持ちが手に取るように分かったので、碧は何も言わずに目の前の取り皿に入ったままだった唐揚げを口に運ぶ。いつも通りショウガが効いていて美味しい。
「まあ元から可愛い人に可愛いって言うのはなんだか当たり前すぎてあえて言わないのかもしれないです。優菜ちゃんは当たり前に可愛い人だから……あと多分、碧くんは、こういうところが可愛いって言われるんだと思います」
 知温の言葉を聞いて碧が顔を上げる。口の中には唐揚げがいっぱいに入っていて何かを喋るような状態ではない。けれどそれを見た優菜が、ああ、と頷く。
「確かに、碧くんって小動物っぽいかも。そっちかー、そっちならいいや」
 優菜の機嫌が途端に良くなったので、碧は内心ほっとしていた。同じ店で働くスタッフとはなるべく良好な関係を保っていたい。いくらゲイでも同僚と男の取り合いは避けたいものだ。
「……まあ、俺は別の意味でも可愛いと思いますけど」
 向かい側の優菜には聞こえない程度の小さな声が隣から聞こえる。碧が知温を見上げると、その口元が小さく微笑んだ。
 ――これ、誘われて、る?
 まさかそんなはずはないだろう、と碧は愛想笑いを浮かべてから、目の前のジョッキの中身を飲み干した。
感想 2

あなたにおすすめの小説

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

彼氏未満

茉莉花 香乃
BL
『俺ら、終わりにしない?』そんなセリフで呆気なく離れる僕と彼。この数ヶ月の夢のような時間は…本当に夢だったのかもしれない。 そんな簡単な言葉で僕を振ったはずなのに、彼の態度は…… ハッピーエンド 他サイトにも公開しています

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

【完結】それより俺は、もっとあなたとキスがしたい

佑々木(うさぎ)
BL
一ノ瀬(27)は、ビール会社である「YAMAGAMI」に勤めていた。 同僚との飲み会に出かけた夜、帰り道にバス停のベンチで寝ている美浜部長(32)を見つけてしまう。 いつも厳しく、高慢で鼻持ちならない美浜と距離を取っているため、一度は見捨てて帰ろうとしたのだが。さすがに寒空の下、見なかったことにして立ち去ることはできなかった。美浜を起こし、コーヒーでも飲ませて終わりにしようとした一ノ瀬に、美浜は思いも寄らないことを言い出して──。 サラリーマン同士のラブコメディです。 ◎BLの性的描写がありますので、苦手な方はご注意ください *   性的描写 *** 性行為の描写 大人だからこその焦れったい恋愛模様、是非ご覧ください。 年下敬語攻め、一人称「私」受けが好きな方にも、楽しんでいただけると幸いです。 表紙素材は abdulgalaxia様 よりお借りしています。

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

【完結】おじさんはΩである

藤吉とわ
BL
隠れ執着嫉妬激強年下α×αと誤診を受けていたおじさんΩ 門村雄大(かどむらゆうだい)34歳。とある朝母親から「小学生の頃バース検査をした病院があんたと連絡を取りたがっている」という電話を貰う。 何の用件か分からぬまま、折り返しの連絡をしてみると「至急お知らせしたいことがある。自宅に伺いたい」と言われ、招いたところ三人の男がやってきて部屋の中で突然土下座をされた。よくよく話を聞けば23年前のバース検査で告知ミスをしていたと告げられる。 今更Ωと言われても――と戸惑うものの、αだと思い込んでいた期間も自分のバース性にしっくり来ていなかった雄大は悩みながらも正しいバース性を受け入れていく。 治療のため、まずはΩ性の発情期であるヒートを起こさなければならず、謝罪に来た三人の男の内の一人・研修医でαの戸賀井 圭(とがいけい)と同居を開始することにーー。

年下幼馴染アルファの執着〜なかったことにはさせない〜

ひなた翠
BL
一年ぶりの再会。 成長した年下αは、もう"子ども"じゃなかった――。 「海ちゃんから距離を置きたかったのに――」 23歳のΩ・遥は、幼馴染のα・海斗への片思いを諦めるため、一人暮らしを始めた。 モテる海斗が自分なんかを選ぶはずがない。 そう思って逃げ出したのに、ある日突然、18歳になった海斗が「大学のオープンキャンパスに行くから泊めて」と転がり込んできて――。 「俺はずっと好きだったし、離れる気ないけど」 「十八歳になるまで我慢してた」 「なんのためにここから通える大学を探してると思ってるの?」 年下αの、計画的で一途な執着に、逃げ場をなくしていく遥。 夏休み限定の同居は、甘い溺愛の日々――。 年下αの執着は、想像以上に深くて、甘くて、重い。 これは、"なかったこと"にはできない恋だった――。