44 / 47
初めての、夜。★2
そんな可愛らしく真面目で一生懸命な匠が、少し異様な恋愛をしていると気付いたのは匠が入社して二か月を過ぎた頃だった。
生意気にも同棲をしていると言っていた彼の手首や首筋に痣を見つけ、一度見つけてしまうと気になってつい見てしまっていた。すると、消えかけた痣が翌日には更に濃くなっていて、克彦はそれがなんだか心配だった。
それが匠の性嗜好だというならいいのだが、無理やりなものだとしたら放っておけない。
というより、他の誰かが匠にそんなことをしているということが、克彦には腹立たしかった。自分のものではないのだから、そんなことを思う権利もないのだが、もし匠が自分のものになるのなら、体に傷などつけさせないし、誰よりも幸せにしてあげたい。
そう思っていた、ある日の夜だった。
今日は少し遅くまで残業してもいいですか、と聞いてきた匠に克彦は頷き、一緒に事務所に残っていたその時だった。
突然ドアを開けて事務所に乗り込んできたのは、匠の恋人だった。
二人の様子を見守るつもりでいたのだが、その内容が聞くに堪えないもので、結局克彦は二人の間に割って入ってしまった。
こんな男と暮していたのか、こんな男にそのキレイな体をいいようにさせ傷を作っていたのか、こんな男のために我慢を続けていたのか、こんな男のために泣いていたのか――
そう思うと、克彦の中の何かがぷつん、と切れて、大事に隠してしまっていた感情が溢れ出した。
この子を……匠を自分のものにしたい。こんな男に奪われたたくさんのものを取り返すように、目いっぱい甘やかして目いっぱい笑顔にして、目いっぱい幸せにしてあげたい。
「……仕事の締め切りまで時間はある。今日はもう、上がろうか」
そんな言葉で、克彦は匠を誘い込んだ。
「哲とは高校の同級生で……一年前に再会してすぐ付き合い始めたんです。初めは普通の付き合いでした。でも……いつの間にか……。俺がワガママばかり言うからだと思うんですけど」
匠が三杯目のハイボールを口にしながら、滔々と話し出したのは、もう午前二時を過ぎていた頃だった。入ったバーのカウンターには、自分たちしかおらず、匠も話しやすくなっていたのだろう。ただ、恋人との関係を話す匠の姿は少し痛々しかった。
「結局俺が悪いんです。我慢できないから、言うことを聞けないから……ワガママだから……」
すとん、と電池が切れるように目の前のカウンターに突っ伏してしまった匠に、克彦はため息を吐きながら匠の髪を撫でた。
「……あんな風に痛めつけられて、我慢できる方が異常なんだよ、辻本」
少しも悪くない。こんなふうに潰れて泣く必要などない。匠の酔いつぶれた姿を見て、克彦は胸の奥が熱くなった。
こんなのはダメだ。弱っているところに付けこむなんて、ずるいやり方だと分かっている。
それでも、今、彼を手に入れたい。
克彦は眠ってしまった匠の頬に優しく触れてから、そっと体を抱きあげた。
近場のホテルへ匠を運んだ克彦は、ベッドで未だ眠ったままの匠を傍で見下ろしていた。
眠ると余計に幼く見えるその顔は、本当に可愛らしい。ここまで運んでも特に疲労感を感じなかったほど軽い体は華奢で、こんな体で暴力を受け流していたのだと思うと、また克彦の腹の中は熱くなる。
匠の顔に指を伸ばし、その前髪をさらりと流すと、眉が動いて、ゆっくりとその目が開いた。
「……しゅ、にん……?」
こちらを見上げ、ぼんやりとしたまま呟く。そんな匠に克彦はそっと近づいた。
「……もう全部忘れて、私のものになってしまいなさい」
「……主任の、もの……?」
聞き返す匠にキスをする。驚いた匠を置き去りに、強引に唇を開かせ、舌を絡める。丁寧に口の中を舐め回し、舌を吸い上げてから唇を離すと、そこにはとろりと蕩けそうな表情の匠がいた。克彦の中で何か凶暴なものが顔を出す。
「辻本……いや、匠……私に君の全部をくれないか。君を愛してるんだ」
「全部……?」
克彦の告白を聞いた匠は変わらずぼんやりとした顔をして聞き返す。それからしばらく考えて、そして頷いた。
「あげます。主任にならなんでもあげます」
ふふふ、と笑う匠はまだ酔っているのだろうと分かる。それでも、克彦がここで止めることはできなかった。
匠を手に入れられる。自分が幸せにしてあげられる。
そう思えば、少しの卑怯にも目をつぶれる自分がいた。
生意気にも同棲をしていると言っていた彼の手首や首筋に痣を見つけ、一度見つけてしまうと気になってつい見てしまっていた。すると、消えかけた痣が翌日には更に濃くなっていて、克彦はそれがなんだか心配だった。
それが匠の性嗜好だというならいいのだが、無理やりなものだとしたら放っておけない。
というより、他の誰かが匠にそんなことをしているということが、克彦には腹立たしかった。自分のものではないのだから、そんなことを思う権利もないのだが、もし匠が自分のものになるのなら、体に傷などつけさせないし、誰よりも幸せにしてあげたい。
そう思っていた、ある日の夜だった。
今日は少し遅くまで残業してもいいですか、と聞いてきた匠に克彦は頷き、一緒に事務所に残っていたその時だった。
突然ドアを開けて事務所に乗り込んできたのは、匠の恋人だった。
二人の様子を見守るつもりでいたのだが、その内容が聞くに堪えないもので、結局克彦は二人の間に割って入ってしまった。
こんな男と暮していたのか、こんな男にそのキレイな体をいいようにさせ傷を作っていたのか、こんな男のために我慢を続けていたのか、こんな男のために泣いていたのか――
そう思うと、克彦の中の何かがぷつん、と切れて、大事に隠してしまっていた感情が溢れ出した。
この子を……匠を自分のものにしたい。こんな男に奪われたたくさんのものを取り返すように、目いっぱい甘やかして目いっぱい笑顔にして、目いっぱい幸せにしてあげたい。
「……仕事の締め切りまで時間はある。今日はもう、上がろうか」
そんな言葉で、克彦は匠を誘い込んだ。
「哲とは高校の同級生で……一年前に再会してすぐ付き合い始めたんです。初めは普通の付き合いでした。でも……いつの間にか……。俺がワガママばかり言うからだと思うんですけど」
匠が三杯目のハイボールを口にしながら、滔々と話し出したのは、もう午前二時を過ぎていた頃だった。入ったバーのカウンターには、自分たちしかおらず、匠も話しやすくなっていたのだろう。ただ、恋人との関係を話す匠の姿は少し痛々しかった。
「結局俺が悪いんです。我慢できないから、言うことを聞けないから……ワガママだから……」
すとん、と電池が切れるように目の前のカウンターに突っ伏してしまった匠に、克彦はため息を吐きながら匠の髪を撫でた。
「……あんな風に痛めつけられて、我慢できる方が異常なんだよ、辻本」
少しも悪くない。こんなふうに潰れて泣く必要などない。匠の酔いつぶれた姿を見て、克彦は胸の奥が熱くなった。
こんなのはダメだ。弱っているところに付けこむなんて、ずるいやり方だと分かっている。
それでも、今、彼を手に入れたい。
克彦は眠ってしまった匠の頬に優しく触れてから、そっと体を抱きあげた。
近場のホテルへ匠を運んだ克彦は、ベッドで未だ眠ったままの匠を傍で見下ろしていた。
眠ると余計に幼く見えるその顔は、本当に可愛らしい。ここまで運んでも特に疲労感を感じなかったほど軽い体は華奢で、こんな体で暴力を受け流していたのだと思うと、また克彦の腹の中は熱くなる。
匠の顔に指を伸ばし、その前髪をさらりと流すと、眉が動いて、ゆっくりとその目が開いた。
「……しゅ、にん……?」
こちらを見上げ、ぼんやりとしたまま呟く。そんな匠に克彦はそっと近づいた。
「……もう全部忘れて、私のものになってしまいなさい」
「……主任の、もの……?」
聞き返す匠にキスをする。驚いた匠を置き去りに、強引に唇を開かせ、舌を絡める。丁寧に口の中を舐め回し、舌を吸い上げてから唇を離すと、そこにはとろりと蕩けそうな表情の匠がいた。克彦の中で何か凶暴なものが顔を出す。
「辻本……いや、匠……私に君の全部をくれないか。君を愛してるんだ」
「全部……?」
克彦の告白を聞いた匠は変わらずぼんやりとした顔をして聞き返す。それからしばらく考えて、そして頷いた。
「あげます。主任にならなんでもあげます」
ふふふ、と笑う匠はまだ酔っているのだろうと分かる。それでも、克彦がここで止めることはできなかった。
匠を手に入れられる。自分が幸せにしてあげられる。
そう思えば、少しの卑怯にも目をつぶれる自分がいた。
あなたにおすすめの小説
売り物の身体ー社長に躾けられる美形タレントー
しち
BL
芸能界で生き残るために身体を武器にしてきた清瀬累。
枕営業も厭わない累の“商品価値”に口を出してきたのは、所属事務所の若き社長・剣崎だった。
「価値を下げるな」
そう言って累を囲い込む男の真意は――。
身体で仕事を取ってきた若手タレント兼俳優を事務所社長が躾け直す話です。
この世界で生きるための「価値」を教え込まれる話。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
お弁当屋さんの僕と強面のあなた
寺蔵
BL
社会人×18歳。
「汚い子」そう言われ続け、育ってきた水無瀬葉月。
高校を卒業してようやく両親から離れ、
お弁当屋さんで仕事をしながら生活を始める。
そのお店に毎朝お弁当を買いに来る強面の男、陸王遼平と徐々に仲良くなって――。
プリンも食べたこと無い、ドリンクバーにも行った事のない葉月が遼平にひたすら甘やかされる話です(*´∀`*)
地味な子が綺麗にしてもらったり幸せになったりします。
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
兄をたずねて魔の学園
沙羅
BL
俺と兄は、すごく仲の良い兄弟だった。兄が全寮制の学園に行ったあともそれは変わらなくて、お互いに頻繁に電話をかけあったりもしたし、3連休以上の休みがあれば家に帰ってきてくれた。……でもそれは、1年生の夏休みにぴったりと途絶えた。
なぜ、兄が急に連絡を絶ったのか。その謎を探るべく、俺は兄が通っている学校の門の前に立っていた。
※生徒会長×弟、副会長×兄、といった複数のカップリングがあります。
※弟×兄はありません。あくまで兄弟愛。
※絶対ありえんやろっていう学園の独自設定してますが悪しからず。