百合原くんは本気の『好き』を捧げたい

藤吉めぐみ

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 オフィスビルや病院が立ち並ぶエリアにある、公園というには遊具もない、広場というには少し狭い場所にあるベンチに座り、朱莉は三本目のチューハイの缶の蓋を開けた。
 飲まなければやってられない――そんな思いでアルコール度数が九パーセントのチューハイをかごいっぱいに買い込んだ朱莉はそのままふらふらとここまで移動して、一人でひたすらそれらを飲んでいた。
「君、ここで一人で吞んでるの? よかったらどこか店で奢るよ?」
 そんな言葉と共に、スーツ姿の酔った男がこちらに近づいてくる。朱莉は男を怪訝な顔で見上げた。こうやって声をかけてきたのは、この人が初めてではない。さっきは、二人組の女性に声をかけられたので、『女は抱けない』と言うと、『可哀そう』と言われた。おかげで今、朱莉の機嫌は飲み始めた時よりも悪くなっている。
「いい。一人で呑みたい気分だから。ナンパなら他当たって」
「他って、きみがいいんだよ。近くで見たら益々キレイじゃないか」
 酔った男が朱莉の隣に座る。朱莉は眉根を寄せて、彼から距離を取った。
「ぼく、あんたに抱かれるつもりないよ? どうせソレ目的だろ? これあげるから帰って」
 朱莉がため息を吐きながら傍に置いていたビニール袋から缶チューハイをひとつ取り出して男に差し出す。するとそのまま男に手首を掴まれてしまった。
「違うよ。心配してるんだ、こんな無茶な飲み方して」
 優しく肩を抱かれ朱莉が顔を上げる。優しそうな顔をしているが、肩からするりと背中を降り尻を撫でるその手は、既に朱莉を組み伏せることしか考えていない証拠だろう。
「……ねえ、吐きそう。やばい、かも」
 朱莉が口元を押さえ、男の方に体を傾ける。途端、男は咄嗟に朱莉から離れ立ち上がった。
「本気で酔ってるのかよ……」
 小さな舌打ちとそんな言葉が聞こえ、朱莉は大袈裟に、うっ、と呻いた。
「ひ、一人で飲みたいんだよな、俺は邪魔みたいだから帰るよ」
 じゃあな、と男はすぐに走り去っていった。それを見て、朱莉が息を吐きながら背もたれに体を預ける。
「ははっ、このくらいで吐くかよ、ばーか」
 心配しているなんて口では言いながら、本当に具合が悪いと分かるとすぐに離れていく。体が目的だと自分から言っているようなものだ。
「……どうせアイツだって、ぼくの傷を見たら逃げてくに決まってるんだ」
 はあ、と大きなため息を吐いて項垂れると、突然、大丈夫ですか? という声がして、朱莉が顔を上げる。そこにはこちらを心配そうに見下ろしている男性の顔があった。真ん中で分けた前髪の下には端の下がった目と、大きめの口が印象的な整った顔があるが、今は眉が下がっていて本来の顔は分からない。
 背が高いせいか、少し腰を屈めている姿が益々心配そうに見えたが、また変な誘いだろうと思い、思い切り不機嫌な顔で朱莉が男性を見上げる。
「……ぼく、今日はここで一人で飲むつもりなんで、放っておいてください」
「さっき、吐きそうになってたよね? まだ吐き気ある? 他に具合悪いところとかはない?」
 朱莉の足元にしゃがみ込み、背負っていたリュックをおろした男は、中からビニール袋とペットボトルを取り出した。
「よかったら、これ使って。あと、これ、まだ開けてないから飲んで。これ以上お酒飲んだら本当に帰れなくなっちゃうよ」
 朱莉を見つめ微笑む彼が、手にしていたふたつを手渡す。予想外のことに呆気に取られてしまった朱莉は素直にそれらを受け取ってしまった。
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