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しおりを挟む定時で会社を出た朱莉は、家の近くのコンビニで酒とつまみになりそうなものをいくつか見繕ってから自宅へと戻った。
朱莉の部屋は狭い1Kだ。玄関を開けたらすぐにキッチンが見え、その隣のドアは洗面になっていて、そこからトイレと風呂それぞれのドアがある。キッチンの奥には部屋がひとつで、一人でいるには十分な広さだった。ベッドに転がりながらテレビを見て、テーブルの上のお菓子に手を伸ばせるところも気に入っている。
とはいえ、人が来るとなれば話は別だ。座るスペースくらいは確保しなくてはならない。
動かなくても手を伸ばせば何でも届くようにしている今のままでは秋生に嫌われるかもしれない。それは嫌だなと思った朱莉は急いで片づけを始めた。
部屋がいくらかきれいになり、朱莉がベッドカバーを替えたばかりのベッドに腰を下ろした時だった。傍らにおいてあったスマホが鳴る。秋生から、近くの駐車場に車止めたよ、というメッセージを貰い、朱莉は立ち上がって玄関へと向かった。
『下まで迎えに行きます』とメッセージを返し、朱莉が外へ出る。部屋着にしているルームウエアは総務課の女性社員たちが誕生日にくれたものだ。もこもこした素材だがショートパンツなので、夜風が少し寒かった。
「朱莉くん、またそんな寒そうな格好で……」
「冷えたらどうするの? でしょ」
マンションの傍へと走ってきた秋生の言葉尻を掴み、朱莉が笑って返す。声が重なって、秋生が少し恥ずかしそうに笑ってから、でも、と真剣な顔を向けた。
「本当のことだよ」
「分かってますって。秋生さん、すぐ来てくれるって思ってたし」
ふふ、と笑ってから朱莉が、部屋行きましょう、とマンションのエントランスへと入る。秋生はそれに頷いて、朱莉の後をついて行った。
「前に送った時も思ったけど、もう少しセキュリティーのしっかりしたところに住んだ方がいいんじゃない?」
階段で二階へと上がり、ひとつのドアのカギを開けた朱莉に、秋生が不安そうな声をかける。
「そうですか? 別に不便してないんですよね」
どうぞ、と先に部屋に入った朱莉が首を傾げる。
確かに秋生のところみたいにオートロックでもないし、戸数も多いので色んな人が出入りするけれど、意外と壁は厚いのか、他人の生活音はさほど響かないし、近くにコンビニもドラックストアもあって便利だ。
「だって、誰でも入れるし、鍵もひとつだし、しかも二階なんて登ろうと思えば登れちゃう高さだし」
朱莉の後から部屋に入った秋生が、ベッドの奥の窓を見やる。窓の向こうには小さいがベランダがあり、洗濯物を干すのにちょうどいい場所だった。
けれどそれを見て秋生は渋い顔をする。
「やっぱり少し心配だよ。朱莉くんは可愛いんだし、警戒しなきゃいけない体なんだから」
「世の男たちって、やっぱり最後は女の子が好きなんで、それほど警戒するものでもないですよ。それに、ぼくも男ですから」
大丈夫ですよ、と笑いながら朱莉が帰り道に買っていたものや使いそうな食器を一抱えにしてテーブルまで運び、その傍に座る。その様子を見て、秋生も朱莉の隣に腰を下ろした。
「でも、助けが欲しい時はちゃんと連絡して欲しい。僕の、職場用の番号も教えておくよ」
秋生が自身の番号を朱莉にメッセージで送る。朱莉はそれに、心配性なんだなと思いながらも、ありがとうございます、とメッセージを受け取ってそのまま登録しておいた。
「僕も色々買ってきたんだ。朱莉くんが好きだって言ってたもの」
小さくため息をついて気持ちを切り替えたらしい秋生が、手にしていた袋からテーブルに買ったものを置いていく。
メッセージのやりとりの中には、互いの好きな物の話もあった。甘くて柔らかなものが好きそうと言われがちの朱莉だが、実は辛いものが好きだという話をしたからか、辛い味のスナック菓子も並んでいて、なんだか自分のことをちゃんと知ってくれているようで嬉しかった。
「ありがとうございます、このお菓子好きです」
「だと思ったよ。あと、意外とお酒強いみたいだから、ボトルで買ってきちゃった」
秋生はウイスキーの瓶を取り出しながら笑った。
出会いが大量の酒を買い込んで飲んだくれているところだったので、その印象が強かったのだろう。その通りなのだが、言われると少し恥ずかしい。
「ハイボールもロックも飲みますけど、量は人並ですよ。秋生さんと会った時はたまたま、イライラしてたからなだけで」
「今日もイライラしてるから、僕を誘ったんじゃなかった?」
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