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秋生がにこりと微笑む。朱莉はそれを見て、頬が熱を持つ感覚がして秋生から視線を逸らした。
「そう、ですけど……」
観念した朱莉の様子に小さく笑った秋生は、テーブル上の缶ビールをこちらに寄せながら、話してよ、と朱莉に視線を向けた。朱莉がそれに頷きビールのプルタブを引く。
「ちょっと今日、ムカつくことがあって……あの、飲んだくれてた時の後日談みたいになっちゃうんですが」
「うん、それで?」
秋生は頷きながら、自分もビールを傾ける。ほどよい距離で聞いてくれていることで、朱莉は素直に口を開けた。
「今日、会社のトイレで、男性社員に話しかけられて」
「え? 一人で? 何かあったの?」
驚いた顔でこちらを見やる秋生に、大丈夫です、と答えてから更に言葉を繋いだ。
「ただ、そこでこの間ぼくに『君じゃたたない』って言ったヤツが、周りに、ぼくに傷があるって話してるって知って……それ聞いてめちゃくちゃ腹が立って、それ信じて寄ってくるヤツとかもムカついて」
朱莉がビールを一気に呷る。それを見ていた秋生は、そうか、と頷いた。
「それは、場合によってはリベンジポルノに当たることもあるよ。噂は広がってそう?」
「いや……多分、そこまでではないと思います。ぼくが『経験ない』って嘘ついたら信じたので、アイツの方が嘘ついてるって流れになると思うので」
毎日必要以上に可憐な『総務の花』を演じているのは、無垢すぎて誰も近づけないという意識を植えるためだ。そうすることで自然と距離が生まれる。すると、多少の嘘を吐いても案外バレないものなのだ。
「それは良かった。でも……悲しかったね。一度は好きになりかけた人に、そんなことされるなんて」
秋生がそう言って朱莉の頭を撫でる。秋生の手のひらの温かさを感じながら、朱莉は、そうか、とぽつりと呟いた。
「ぼく、悲しかったんだ……」
確かに腹も立ったけれど、なにより悲しかった。好きになれるかもしれない、恋人として傍に居られる人がまた自分にも出来るかもしれないと思っていたのに、そうなれなくて悲しかったのだ。しかもそこまで心を許した人に朱莉がコンプレックスに思っていることを他人に暴露され、それも辛かった。
そう思うと、朱莉の瞳にじわりと涙が浮かび上がり頬に雫が転がる。秋生の前で泣くなんて困らせてしまうと思って朱莉は顔を伏せたが、その瞬間、秋生がふわりと朱莉を抱きしめた。
泣くつもりもなかったけれど、こんなふうに優しく抱きしめられることも想像してなくて、朱莉が驚いて固まる。背中を撫でる秋生の手は優しくて温かくて、普段会社で触れられたら嫌悪で肌が粟立つのに、今はその手に体を預けたいと思っている。
「泣きたいだけ泣いたらいいよ。あ、勝手に抱きしめられるの嫌だったかな?」
秋生が腕を解こうとする。けれど、朱莉は咄嗟に秋生のシャツの袖を引いて首を振った。
「もっと、撫でてほしいです……」
「そう、ですけど……」
観念した朱莉の様子に小さく笑った秋生は、テーブル上の缶ビールをこちらに寄せながら、話してよ、と朱莉に視線を向けた。朱莉がそれに頷きビールのプルタブを引く。
「ちょっと今日、ムカつくことがあって……あの、飲んだくれてた時の後日談みたいになっちゃうんですが」
「うん、それで?」
秋生は頷きながら、自分もビールを傾ける。ほどよい距離で聞いてくれていることで、朱莉は素直に口を開けた。
「今日、会社のトイレで、男性社員に話しかけられて」
「え? 一人で? 何かあったの?」
驚いた顔でこちらを見やる秋生に、大丈夫です、と答えてから更に言葉を繋いだ。
「ただ、そこでこの間ぼくに『君じゃたたない』って言ったヤツが、周りに、ぼくに傷があるって話してるって知って……それ聞いてめちゃくちゃ腹が立って、それ信じて寄ってくるヤツとかもムカついて」
朱莉がビールを一気に呷る。それを見ていた秋生は、そうか、と頷いた。
「それは、場合によってはリベンジポルノに当たることもあるよ。噂は広がってそう?」
「いや……多分、そこまでではないと思います。ぼくが『経験ない』って嘘ついたら信じたので、アイツの方が嘘ついてるって流れになると思うので」
毎日必要以上に可憐な『総務の花』を演じているのは、無垢すぎて誰も近づけないという意識を植えるためだ。そうすることで自然と距離が生まれる。すると、多少の嘘を吐いても案外バレないものなのだ。
「それは良かった。でも……悲しかったね。一度は好きになりかけた人に、そんなことされるなんて」
秋生がそう言って朱莉の頭を撫でる。秋生の手のひらの温かさを感じながら、朱莉は、そうか、とぽつりと呟いた。
「ぼく、悲しかったんだ……」
確かに腹も立ったけれど、なにより悲しかった。好きになれるかもしれない、恋人として傍に居られる人がまた自分にも出来るかもしれないと思っていたのに、そうなれなくて悲しかったのだ。しかもそこまで心を許した人に朱莉がコンプレックスに思っていることを他人に暴露され、それも辛かった。
そう思うと、朱莉の瞳にじわりと涙が浮かび上がり頬に雫が転がる。秋生の前で泣くなんて困らせてしまうと思って朱莉は顔を伏せたが、その瞬間、秋生がふわりと朱莉を抱きしめた。
泣くつもりもなかったけれど、こんなふうに優しく抱きしめられることも想像してなくて、朱莉が驚いて固まる。背中を撫でる秋生の手は優しくて温かくて、普段会社で触れられたら嫌悪で肌が粟立つのに、今はその手に体を預けたいと思っている。
「泣きたいだけ泣いたらいいよ。あ、勝手に抱きしめられるの嫌だったかな?」
秋生が腕を解こうとする。けれど、朱莉は咄嗟に秋生のシャツの袖を引いて首を振った。
「もっと、撫でてほしいです……」
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