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朱莉がそっと顔を上げると、秋生の驚いた顔があった。その表情に朱莉は小さく笑ってから更に言葉を繋ぐ。
「ぼく、会社で『女性を守るための盾』の役割をしてるんです。少し、アイドル崇拝に似てる感じなんですが……それでも、セクハラまがいのことはしょっちゅう起きてて、体に触れられるのも多くてその度に鳥肌たててるんですけど……秋生さんには、嫌だとか全然思わなくて、だからもっと触れて欲しいです」
少しアルコールが廻ってきたのかもしれない。普段なら自分から『触って』なんて言わないのに、この時は口から出てしまった。
酔っ払いの戯言――秋生はそんなふうにとらえると、思っていた。
「……ホントに、いいの?」
けれど秋生は、さっきの驚いた顔から真面目に表情を変えていつもよりも少し低い声で聞いた。朱莉がその言葉に少し首を傾げる。こちらからお願いしたのだから、いいに決まっている。朱莉が小さく頷いた、次の瞬間だった。
唇に柔らかな衝撃が落ちてきた。
それがキスだと気づいたのは、唇を割って濡れた舌先が朱莉の歯列を突いてからで、その時にはもう朱莉に拒否することはできなくて、秋生の舌が朱莉のそれに絡まる心地よさに身を委ねてしまっていた。
静かな部屋に水音が響いて、やがてゆっくりと唇が離れる。秋生の顔が見えた途端、朱莉は恥ずかしくなって顔を伏せてしまった。指先まで心臓になったのかと思うほど、鼓動が全身で跳ねている。
「ごめん……こういう意味じゃなかったよ、ね……今日ここに呼んでくれたのだって、僕は安心だからって思ってくれたからなのに……警戒しろって言ってた僕がこんなことしちゃだめだね」
秋生がもう一度、ごめん、と言って朱莉から腕を解く。それからすぐに立ち上がり、朱莉の傍を離れていった。
「帰るね」
そんな言葉で朱莉が顔を上げる。既に玄関へと向かっていた秋生を追い、朱莉も立ち上がった。
「ぼくは、嫌じゃなかった、です」
温かくて安心できるのに、ドキドキして心地よくて、そんなキスは初めてだったから動揺したけれど、嫌ではなかった。謝られることは何もされていない。
元はと言えば、朱莉が触ってほしいと頼んだのだ。
秋生が朱莉の言葉を聞いてぴたりと立ち止まった。それからこちらを振り返り、少し困った顔を向ける。
「それなら良かったとは思うけど、弱っててしかも酔ってる君に、年上の僕がするべきことじゃなかったよ。ごめんね」
秋生はそう言って傍まで追いついた朱莉の髪を撫でてから玄関ドアを出ていった。
「……嫌じゃないって言ったのに……」
秋生が消えた玄関ドアを見つめたまま、朱莉はぽつりと呟いた。
秋生には朱莉が秋生の為にそう言ったと思われたのだろうか。秋生を傷つけたくないと思って嘘を吐いたように感じていたのなら、それは間違っている。
ただ、朱莉が話していた『腹が立ったこと』を聞いている秋生としては、自分もそういった男たちと同じことをしてしまったと思っているのかもしれない。
朱莉に性的な目を向けている男なら、確かに密室で二人きりになったら手を出すに決まっているだろう。ただ、逆を言えば、キスだけで帰るなんてしないのだ。
朱莉は部屋に戻り、テーブルに置いていたスマホを手に取った。電話だと出てもらえない気がしたのでメッセージアプリを開く。
『買い込んだお菓子とお酒、一人じゃ消費できないので、また一緒に飲んでください』
祈るような気持ちで送信ボタンに触れる。しばらくして秋生から返ってきた言葉は、朱莉くんが嫌じゃないのなら、という優しい遠慮がちなものだった。
また秋生と会える。そう思うだけで、朱莉は安堵と不思議な高揚感を抱いていた。
「ぼく、会社で『女性を守るための盾』の役割をしてるんです。少し、アイドル崇拝に似てる感じなんですが……それでも、セクハラまがいのことはしょっちゅう起きてて、体に触れられるのも多くてその度に鳥肌たててるんですけど……秋生さんには、嫌だとか全然思わなくて、だからもっと触れて欲しいです」
少しアルコールが廻ってきたのかもしれない。普段なら自分から『触って』なんて言わないのに、この時は口から出てしまった。
酔っ払いの戯言――秋生はそんなふうにとらえると、思っていた。
「……ホントに、いいの?」
けれど秋生は、さっきの驚いた顔から真面目に表情を変えていつもよりも少し低い声で聞いた。朱莉がその言葉に少し首を傾げる。こちらからお願いしたのだから、いいに決まっている。朱莉が小さく頷いた、次の瞬間だった。
唇に柔らかな衝撃が落ちてきた。
それがキスだと気づいたのは、唇を割って濡れた舌先が朱莉の歯列を突いてからで、その時にはもう朱莉に拒否することはできなくて、秋生の舌が朱莉のそれに絡まる心地よさに身を委ねてしまっていた。
静かな部屋に水音が響いて、やがてゆっくりと唇が離れる。秋生の顔が見えた途端、朱莉は恥ずかしくなって顔を伏せてしまった。指先まで心臓になったのかと思うほど、鼓動が全身で跳ねている。
「ごめん……こういう意味じゃなかったよ、ね……今日ここに呼んでくれたのだって、僕は安心だからって思ってくれたからなのに……警戒しろって言ってた僕がこんなことしちゃだめだね」
秋生がもう一度、ごめん、と言って朱莉から腕を解く。それからすぐに立ち上がり、朱莉の傍を離れていった。
「帰るね」
そんな言葉で朱莉が顔を上げる。既に玄関へと向かっていた秋生を追い、朱莉も立ち上がった。
「ぼくは、嫌じゃなかった、です」
温かくて安心できるのに、ドキドキして心地よくて、そんなキスは初めてだったから動揺したけれど、嫌ではなかった。謝られることは何もされていない。
元はと言えば、朱莉が触ってほしいと頼んだのだ。
秋生が朱莉の言葉を聞いてぴたりと立ち止まった。それからこちらを振り返り、少し困った顔を向ける。
「それなら良かったとは思うけど、弱っててしかも酔ってる君に、年上の僕がするべきことじゃなかったよ。ごめんね」
秋生はそう言って傍まで追いついた朱莉の髪を撫でてから玄関ドアを出ていった。
「……嫌じゃないって言ったのに……」
秋生が消えた玄関ドアを見つめたまま、朱莉はぽつりと呟いた。
秋生には朱莉が秋生の為にそう言ったと思われたのだろうか。秋生を傷つけたくないと思って嘘を吐いたように感じていたのなら、それは間違っている。
ただ、朱莉が話していた『腹が立ったこと』を聞いている秋生としては、自分もそういった男たちと同じことをしてしまったと思っているのかもしれない。
朱莉に性的な目を向けている男なら、確かに密室で二人きりになったら手を出すに決まっているだろう。ただ、逆を言えば、キスだけで帰るなんてしないのだ。
朱莉は部屋に戻り、テーブルに置いていたスマホを手に取った。電話だと出てもらえない気がしたのでメッセージアプリを開く。
『買い込んだお菓子とお酒、一人じゃ消費できないので、また一緒に飲んでください』
祈るような気持ちで送信ボタンに触れる。しばらくして秋生から返ってきた言葉は、朱莉くんが嫌じゃないのなら、という優しい遠慮がちなものだった。
また秋生と会える。そう思うだけで、朱莉は安堵と不思議な高揚感を抱いていた。
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