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しおりを挟む総務課の女性社員は、外でのランチが大好きだ。社内では少し存在感を消しつつ働いている彼女たちだが、やっぱり楽しみは多い方がいいに決まっていて、ランチもそのひとつだった。男性は社員食堂を使うことが多いので、外でのランチは案外自由度が高い。
それに社外に出れば、女性もそれなりにいるので目立つほどのことではないし、昼間なので安全だということもある。
朱莉にとっては少し気が重い時間なのだが、自分の役目を考えると断るわけにもいかず、大抵彼女たちについていくことになる。こういった食事代も経費申請できるのでそこは助かるのだが、それ以上の仕事をしていると言えなくもない。
この日は会社から少し離れたイタリアンレストランで五人の女性社員とテーブルを囲んでいた。ここは奥に個室があるので、女性ばかりという目立つ集団でも気兼ねなく食事ができる。ただ、気兼ねがなさ過ぎておしゃべりに花が咲いてしまうのが朱莉は苦手だった。
「ねえ、朱莉くん、最近言い寄ってくるのって誰?」
食事も後半になると、彼女たちはほぼ毎回、朱莉の恋愛について聞きたがる。これがなかなか面倒なのだ。
「そんな、言い寄られたりはしてないですよ」
みんなからかってるだけです、と朱莉が笑うと、そうかなあ、と怪訝な顔をされる。
「この間、企画課の社員が朱莉くん探してたな。二人で話したいことがあるって。告白されなかった?」
一人に言われ、朱莉が首を傾げる。
確かにトイレまで来た人が企画課だった。話したいことの内容は告白なんて可愛いものではなかったのでなかなか結びつかなかったが、おそらく彼のことだろう。
「いいえ、そんなことは……トイレまで追ってきて迷惑だったので注意はしましたけど」
「あー、そっちかあ。あのフロアのトイレもいっそ鍵つけたいよね」
確かに最上階のフロアだが、他部署の社員が立ち入り禁止というわけではないので、気を抜いたらすぐによくないことを考えている男に捕まってしまう。会社に仕事しに来てるんじゃないのかよ、と言いたいところだが、社内結婚という言葉があるくらいなのだから、出会いの場でもあることには変わりない。
当然ここにいる女性社員だって、素敵な将来の旦那様であれば出会いたいのだ。ただ、釣れるのが体が目的だったり、ステータスとして女性と付き合いたいだけだったりする男ばかりなので、少し感情が冷めているだけだ。
「そういえば、想生さんとよく話してるよね。同期羨ましい」
「今度、総務に連れてきてよ、朱莉くん」
やはり女性が狙うのは、御曹司のようだ。確かに想生は、家柄もいいが長身で整った顔をしているし、話し方は優しい。完璧な旦那様をAIに聞いたら想生のような人が答えになるのだろう。
「どうでしょう……想生さんも忙しそうですし」
「だよねえ。未来の社長様だもの。百合原くんは想生さんのこと、どう思ってるの?」
少し身を乗り出して聞かれ、朱莉が驚いてその分身を引く。それから苦く笑った。
「ぼくは、優秀な同期だなあ、くらいにしか。そもそもどうかなれるとは思ってません。だって、想生さんは御曹司ですよ、跡継ぎ問題がいずれでるでしょう? きっと想生さんは女性を選びますよ」
「そうかなあ? 今は血縁で継ぐ時代でもないと思うから選択肢は広そうだけどね」
「まあ、あのスペックなら選り取り見取りよね」
「あのスペックの男、あと二、三十人転がってないかしら……」
そんな呟きに、わかるー、と声が合わさる。
確かに彼女たちの立場からすれば、少ないと言われている性だからこそ、それなりに高スペックと呼ばれる人と結ばれたいだろうし、周りからも期待されてしまうのだろう。
朱莉だって、以前の婚約者よりもずっといい男を見つけて結婚して、とっととこんな会社を辞めるのが今の目標になっている。
朱莉が女性をどこか憎く思うのは、結局同族嫌悪に近いのだろう。
「あ、そろそろ戻ろうか。朱莉くんは買い出ししてから戻るんだっけ?」
雑談に花を咲かせていた女性たちだが、ふと一人が腕時計を見やった。確かにあと十五分ほどで午後の業務が始まる時間だ。
彼女からの問いかけに、朱莉は頷いた。
「はい。ロビーの花を注文してるので、それを引き取りに」
本当なら配達を頼むところなのだが、気晴らしも兼ねて引き取りに行っている。一日中好奇の目に晒されながら笑顔を作り続けるのも楽ではないと、総務部長が提案してくれたことだ。朱莉がいない時間は、彼が窓口業務を代わってくれている。
「そっか。じゃあ気を付けてね」
「はい、みなさんも気を付けて」
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