百合原くんは本気の『好き』を捧げたい

藤吉めぐみ

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「まぶた、すっかり腫れてしまったね」
「……言わないでください……自分でも恥ずかしいって思ってるんですから」
 電車の中で子どもみたいに泣いた朱莉に、秋生は、うちに来ない? と誘ってくれた。正直秋生に縋って人目のあるところで泣いてしまった恥ずかしさもあってすぐに電車を降りたかった朱莉は、それに頷いて秋生に手を引かれて部屋まで来ていた。
 部屋に入った秋生はまずは顔を冷やそうか、と濡れたタオルを差し出してくれたのだが、その表情は少し楽しそうだ。
「でも、少しすっきりしたんじゃない?」
「……ですね」
 きっと一緒にいた秋生だって恥ずかしかっただろう。泣いてる間小さな話し声も聞こえていたから、やっぱり少しは注目されてしまったと思う。朱莉はいつも乗る路線ではないのでいいが、秋生にとっては通勤路線だ。それでも朱莉を否定せずに寄り添ってくれた。本当は、放っておきたかったかもしれないのに、そうはしなかった。
 秋生が優しすぎてまた涙が出そうになる。
「朱莉くん、今日は泊っていく? 明日、早くにタクシーで帰れば会社は間に合うんじゃないかな」
 まぶたを腫らして弱っている朱莉をこのまま帰すのはしのびないと思ってくれたのだろう。けれど、秋生のことを考えると泊まるなんて出来ない。いくら朱莉が男でも、彼女とのトラブルの種になるのは本意ではない。
 好きな人だからこそ、いつも幸せでいて欲しい。
「いえ、落ち着いたらかえり……」
 朱莉がそこまで言いかけた時だった。朱莉のお腹から栄養補給を訴える音がして、思わず自分の腹を押さえる。けれどその音は静かな部屋に響いてしまったようで、それを聞いた秋生が小さく笑う。
「お腹も落ち着かせた方がいいみたいだね」
 何か作るよ、と秋生がキッチンへと向かう。慌てて朱莉が、大丈夫です、と追いかけたが、秋生はにこりと笑んでから冷蔵庫の扉を開いた。
「僕もお腹空いたしね。朱莉くん、よかったらシャワー浴びておいでよ。うちで全部済ませてタクシーで帰れば、後は寝るだけだよ」
 その方が楽だよね、とちらりとこちらに微笑んでから必要な食材を取り出している秋生に、朱莉は、でも、と眉を下げた。
「ぼくがここに来てること、よく思わない人もいるんじゃ……」
「うーん……いない、と思うよ。むしろ、朱莉くんの方が居そうだよね。家に連れ込まれてるって知ったら発狂しそうな人」
 秋生が料理を進めながら、はは、と笑い出す。
 確かに会社の誰かに、こうして秋生の部屋にいることが知れたら噂くらいにはなるかもしれない。ただそれは、あくまでも羨望や嫉妬の類で、朱莉が大事だからとか心配だからという意味ではないだろう。
 それに対して、秋生が少し考えながらも『いない』と答えたのは意外だったが、彼女はとても寛大だということか。もしくはそれだけ深い絆で結ばれている関係なのか。どちらにせよ、朱莉が入る隙間などないということは分かった。
「あの、だったらせめて何か手伝います」
「朱莉くん、料理するの?」
「……いえ、ほとんどしません……」
「だったらまずは、さっきまでの嫌な気持ちを流しておいで」
 秋生が微笑み、朱莉の髪を撫でる。
 また子どもみたいに扱われていると思ったが、今は朱莉が子どものようなので仕方ないかと思い、素直に頷いて、風呂場へと向かった。
 前に使わせてもらったことがあるので勝手に脱衣場でタオルを借りて、服を脱ぐ。その時、ひりりと腹部が痛み、目の前の洗面鏡に視線を向けた。腹部がうっすら赤くなっている。この後これは青くなるのだろうと分かる打ち身だった。
 おそらく貴伸の腕が当たったところだろう。傷の近くだったから、余計に痛むのかもしれない。
 そのうち治るだろうと思い、朱莉は気にせずにシャワーを借りることにした。
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