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しおりを挟む痛み止めは眠くなるから寝てしまっていいからね、と秋生に病院の処置室で言われた言葉を最後に、朱莉は痛みで気を失ったらしい。目を覚ました時には、すっかり痛みも引いていて、なんなら少しすっきりした気分になっていた。
「まだ、病院か……」
意識を手放した時と同じように処置室の少し狭いベッドで横になっていて、腕には点滴のチューブが繋がっていた。水色のカーテンで仕切られただけの空間だから、向こう側の音は聞こえる。
さっきから人の気配はするのだが、何も聞こえない。起き上がってもいいのか分からず、声を掛けようか迷っていると、ドアが開く音と、お疲れ様という声が響いて、朱莉は黙ったまま耳をそばだてた。
「どう? 急患の方の様子」
少し低めだけれど女性の声だった。
「うん、薬が効いてるみたいでよく眠ってるよ。当番医が君だと思い出して突然担ぎ込んで悪かったね」
女性の声に答えたのは秋生のようだ。さっきからしていた人の気配は秋生だったらしい。
「担当だからそれは全然構わないけど。検査結果は東條くんに伝えてもいいの?」
友達って言ってたわよね、と女性が秋生に問う。秋生は朱莉の主治医というわけではないので配慮してくれているのだろう。
この人がもしかしたら秋生の恋人なのかもしれないと思うと、朱莉の心臓は急にドキドキと鼓動を早めた。
「うん、事情は知ってるから」
「そう……人工子宮で炎症が起きてた。痛みはここからね。点滴でとりあえず痛みは消えると思う。あとは飲み薬かな……外傷が主な原因だと思うけど、ストレスとか過労とかでも調子崩す人も多いのよね。多分、彼もトドメが外傷だっただけで、ずっと調子は良くなかったんじゃないかな。もう一度ちゃんと診察したいわ」
こっちは血液検査ね、と聞こえた後、しばらく沈黙が続く。カーテンの向こうで話しているのはおそらく自分のことだと思い、余計にドキドキした。
「全体的に足りてない感じだね。もう少し気にしてあげていたらよかった」
「あら、友達の割に随分親身になるのね」
「うーん……朱莉くんは少し危なかっしいところがあって。あまり自分の体を大事にしない子なんだ」
「まあ、東條くんから聞いた話から察すると手術したことに後悔もあるんだと思うけど……傷を見る度に思い出すこともあるのかもしれないしね」
女性が浅いため息を吐く。話を聞いていると、彼女はきっと産科か婦人科の医師なのだろう。朱莉の処置をしてくれたのもきっと彼女だ。
その過程で秋生から朱莉の過去も聞いたから、同情してくれたのかもしれない。
「まあ、見守りたいのはそれだけじゃないんだけど……とにかく助かったよ。ありがとう」
「この貸しは高いわよ。一日デートで許してあげる」
彼女が楽しそうな声で告げる。
その途端、朱莉の胸に何かが刺さったように痛んだ。
やっぱりこの人は以前見たあの女性で、二人は恋人同士なのだ。でなければ、デートなんていう言葉は出ない。
「一日か……んまあ、なんとかしておくよ。君のシフト送っておいて。調整するから」
秋生は少しだけ考えていたが結局了承したようだ。当然だろう、好きな人とのデートなら秋生だって行きたいはずだ。断る理由がない。
「ありがとう。どこ行こうかな」
「どこって僕に聞かれても……」
デートの計画を立て始めた二人の会話を聞きたくなくて、朱莉は起き上がり、ベッドから降りようとした。点滴の針が刺さっていることを忘れて思い切り引っ張ってしまったので、腕に痛みが走る。
ベッドの軋む音と点滴が揺れた音で気づいたのだろう、カーテンがシャープな音をたてて開いた。顔を出したのは秋生だった。
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