27 / 55
11-2
しおりを挟む
「朱莉くん? 大丈夫?」
ベッドから落ちたと思ったらしい秋生が慌てて朱莉の体を支える。それから朱莉の腕を見て、眉を下げた。
「点滴、逆流しちゃってるから、一度外そうか」
さっき引っ張ってしまったからか、確かにチューブの中に少し血液が混ざっているように見える。秋生は手早く点滴を止めて、朱莉の腕から針を抜いた。
「……ありがとう、ございます……ぼく、このまま帰ります」
ふらりと立ち上がった朱莉に秋生が驚いて、え、と聞き返す。
「帰るって、もう遅いし、このまま入院か、それが嫌なら僕の部屋で休んで欲しい」
入院となると、きっと秋生の恋人が担当医としてつくことになるのだろう。それは嫌だったし、秋生の部屋に泊るなんて彼女が許さないはずだ。
朱莉はちらりと秋生の背後に立っていた女性に目を向けた。すらりとした細身の彼女は、白いパンツとドクターコートがよく似合う美人だった。やっぱり以前病院で秋生と一緒にいた人で間違いないだろう。
その彼女と目が合ってしまい、朱莉が咄嗟に顔を伏せた。
「担当医としては、このまま入院して欲しいところだけど、東條くんが責任もってくれるなら、東條くんの家でもいいわ。ただ、一人暮らしの家に帰ることは許可しません」
いつ痛みがぶり返すか分からないから、とはっきり言われ、朱莉は唇を噛み締めた。
なんて強い人なのだろうと思った。
さっきまでデートの話をして楽しそうにしていたのに、患者である朱莉のためなら恋人の家に置いてもいいと言っているのだ。嫉妬だってするはずなのに、それを微塵も見せない。
こんな人に敵うはずがない。
そう思うと、朱莉の目から涙が零れてきた。
「朱莉、くん? どこか痛む?」
突然泣き出した朱莉を見て、秋生が心配そうにこちらを覗き込む。朱莉は頭を振って、違う、と短く答えた。
「……も、どうなってもいい、から……帰して、ください……」
一人になりたい。この、優しくて強い二人の前から消えたい。こんな醜い感情しか持ってない自分を晒しているのが恥ずかしかった。できることなら二度と会いたくない。これ以上会ってしまったら、秋生が好きだ、この人が欲しいと訴えてしまいそうだった。
「どうなってもって……それは僕が困るからだめ。ここが嫌ならうちに帰ろう」
秋生が珍しく厳しい表情を見せ、朱莉の体を掬い上げた。あっという間に抱きかかえられ、朱莉が驚いて目を見開く。
「え、あ、秋生さん!」
「ごめん、明日必ずまた連れてくるから」
「了解。後で予約入れておく」
秋生は朱莉の訴えも聞かず、彼女に告げると処置室を後にした。廊下はすでに暗くなっていて、人はいない。
「あの、降ろしてください」
「だめ。まだ調子戻ってないでしょう?」
「でも……これはさすがに怒るんじゃないですか?」
「え? 誰が?」
朱莉の言葉を聞いて秋生が訝し気な顔をする。朱莉はその顔を見つめながら、彼女さん、と小さく伝えた。
「……彼女はいない、けど?」
ベッドから落ちたと思ったらしい秋生が慌てて朱莉の体を支える。それから朱莉の腕を見て、眉を下げた。
「点滴、逆流しちゃってるから、一度外そうか」
さっき引っ張ってしまったからか、確かにチューブの中に少し血液が混ざっているように見える。秋生は手早く点滴を止めて、朱莉の腕から針を抜いた。
「……ありがとう、ございます……ぼく、このまま帰ります」
ふらりと立ち上がった朱莉に秋生が驚いて、え、と聞き返す。
「帰るって、もう遅いし、このまま入院か、それが嫌なら僕の部屋で休んで欲しい」
入院となると、きっと秋生の恋人が担当医としてつくことになるのだろう。それは嫌だったし、秋生の部屋に泊るなんて彼女が許さないはずだ。
朱莉はちらりと秋生の背後に立っていた女性に目を向けた。すらりとした細身の彼女は、白いパンツとドクターコートがよく似合う美人だった。やっぱり以前病院で秋生と一緒にいた人で間違いないだろう。
その彼女と目が合ってしまい、朱莉が咄嗟に顔を伏せた。
「担当医としては、このまま入院して欲しいところだけど、東條くんが責任もってくれるなら、東條くんの家でもいいわ。ただ、一人暮らしの家に帰ることは許可しません」
いつ痛みがぶり返すか分からないから、とはっきり言われ、朱莉は唇を噛み締めた。
なんて強い人なのだろうと思った。
さっきまでデートの話をして楽しそうにしていたのに、患者である朱莉のためなら恋人の家に置いてもいいと言っているのだ。嫉妬だってするはずなのに、それを微塵も見せない。
こんな人に敵うはずがない。
そう思うと、朱莉の目から涙が零れてきた。
「朱莉、くん? どこか痛む?」
突然泣き出した朱莉を見て、秋生が心配そうにこちらを覗き込む。朱莉は頭を振って、違う、と短く答えた。
「……も、どうなってもいい、から……帰して、ください……」
一人になりたい。この、優しくて強い二人の前から消えたい。こんな醜い感情しか持ってない自分を晒しているのが恥ずかしかった。できることなら二度と会いたくない。これ以上会ってしまったら、秋生が好きだ、この人が欲しいと訴えてしまいそうだった。
「どうなってもって……それは僕が困るからだめ。ここが嫌ならうちに帰ろう」
秋生が珍しく厳しい表情を見せ、朱莉の体を掬い上げた。あっという間に抱きかかえられ、朱莉が驚いて目を見開く。
「え、あ、秋生さん!」
「ごめん、明日必ずまた連れてくるから」
「了解。後で予約入れておく」
秋生は朱莉の訴えも聞かず、彼女に告げると処置室を後にした。廊下はすでに暗くなっていて、人はいない。
「あの、降ろしてください」
「だめ。まだ調子戻ってないでしょう?」
「でも……これはさすがに怒るんじゃないですか?」
「え? 誰が?」
朱莉の言葉を聞いて秋生が訝し気な顔をする。朱莉はその顔を見つめながら、彼女さん、と小さく伝えた。
「……彼女はいない、けど?」
43
あなたにおすすめの小説
平凡高校生の俺にイケメンアイドルが365回告白してくる理由
スノウマン(ユッキー)
BL
高校三年生の橘颯真はイケメンアイドル星宮光に毎日欠かさず告白されている。男同士とのこともあり、毎回断る颯真だが、一年という時間が彼らの関係を少しずつ変えていく。
どうして星宮は颯真に毎日告白するのか、そして彼らの恋の行方は?
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。
これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。
無自覚両片想いの勇者×親友。
読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる