百合原くんは本気の『好き』を捧げたい

藤吉めぐみ

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「朱莉くん? 大丈夫?」
 ベッドから落ちたと思ったらしい秋生が慌てて朱莉の体を支える。それから朱莉の腕を見て、眉を下げた。
「点滴、逆流しちゃってるから、一度外そうか」
 さっき引っ張ってしまったからか、確かにチューブの中に少し血液が混ざっているように見える。秋生は手早く点滴を止めて、朱莉の腕から針を抜いた。
「……ありがとう、ございます……ぼく、このまま帰ります」
 ふらりと立ち上がった朱莉に秋生が驚いて、え、と聞き返す。
「帰るって、もう遅いし、このまま入院か、それが嫌なら僕の部屋で休んで欲しい」
 入院となると、きっと秋生の恋人が担当医としてつくことになるのだろう。それは嫌だったし、秋生の部屋に泊るなんて彼女が許さないはずだ。
 朱莉はちらりと秋生の背後に立っていた女性に目を向けた。すらりとした細身の彼女は、白いパンツとドクターコートがよく似合う美人だった。やっぱり以前病院で秋生と一緒にいた人で間違いないだろう。
 その彼女と目が合ってしまい、朱莉が咄嗟に顔を伏せた。
「担当医としては、このまま入院して欲しいところだけど、東條くんが責任もってくれるなら、東條くんの家でもいいわ。ただ、一人暮らしの家に帰ることは許可しません」
 いつ痛みがぶり返すか分からないから、とはっきり言われ、朱莉は唇を噛み締めた。
 なんて強い人なのだろうと思った。
 さっきまでデートの話をして楽しそうにしていたのに、患者である朱莉のためなら恋人の家に置いてもいいと言っているのだ。嫉妬だってするはずなのに、それを微塵も見せない。
 こんな人に敵うはずがない。
 そう思うと、朱莉の目から涙が零れてきた。
「朱莉、くん? どこか痛む?」
 突然泣き出した朱莉を見て、秋生が心配そうにこちらを覗き込む。朱莉は頭を振って、違う、と短く答えた。
「……も、どうなってもいい、から……帰して、ください……」
 一人になりたい。この、優しくて強い二人の前から消えたい。こんな醜い感情しか持ってない自分を晒しているのが恥ずかしかった。できることなら二度と会いたくない。これ以上会ってしまったら、秋生が好きだ、この人が欲しいと訴えてしまいそうだった。
「どうなってもって……それは僕が困るからだめ。ここが嫌ならうちに帰ろう」
 秋生が珍しく厳しい表情を見せ、朱莉の体を掬い上げた。あっという間に抱きかかえられ、朱莉が驚いて目を見開く。
「え、あ、秋生さん!」
「ごめん、明日必ずまた連れてくるから」
「了解。後で予約入れておく」
 秋生は朱莉の訴えも聞かず、彼女に告げると処置室を後にした。廊下はすでに暗くなっていて、人はいない。
「あの、降ろしてください」
「だめ。まだ調子戻ってないでしょう?」
「でも……これはさすがに怒るんじゃないですか?」
「え? 誰が?」
 朱莉の言葉を聞いて秋生が訝し気な顔をする。朱莉はその顔を見つめながら、彼女さん、と小さく伝えた。
「……彼女はいない、けど?」
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