百合原くんは本気の『好き』を捧げたい

藤吉めぐみ

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 今日は仕事は休んで病院に行くよ、と朝一番に秋生に言われた朱莉は会社に欠勤の連絡を入れてからベッドを出た。
 昨日はあの後抱かれるのかなと思っていたのだが、秋生はリビングで寝るから、とすぐに寝室を出ていってしまい、結局朱莉はひとりでぐっすりと眠ってしまった。
 少し残念な気もしたのだが、体調を崩している相手をどうこうしようだなんて思わなかったのだろう。まして、秋生は医者なのだから、当然といえば当然だ。
「昨日、食べ損ねたオムライス温めたんだけど、食べられるかな? あと、着替え、僕のでよければ出しておいたから」
 既にスーツを着ている秋生が寝室から出てきた朱莉の傍に慌てて寄る。不安そうな顔をしているので、ふらついたら支えるつもりで近づいてくれているのだろうが、朱莉はそんな秋生の手を取って引き寄せた。
「おはようございます、秋生さん」
 朱莉が微笑むと、それを見た秋生が少し表情を柔らかくして、おはよう、と軽く朱莉を抱き寄せた。
「痛みはない? どこか調子悪いところは?」
 ゆっくりと朱莉を離し、秋生が優しく聞く。朱莉はそれに首を振った。
「もう平気みたいです」
「そっか。でも、診察は受けてもらうよ」
 途中で放置するのが一番いけないんだ、と少し表情を厳しくする秋生に、朱莉が笑う。
「さすがお医者さん」
「だから、お医者さんの言うことはちゃんと聞いてね」
 秋生が朱莉の髪にキスをする。
 こんなに甘い朝を迎えたのは何年ぶりだろう。悠馬と居た時も、最後の方はほとんど放っておかれていたから、一人で過ごす時間が多かった。
 こんなに幸せで優しくて温かな日を過ごせるなんて思っていなかったから、全てが愛しく思えた。
 朱莉は秋生に抱きつくと、分かりました、と頷いた。

 二人で朝ごはんを食べて、朱莉は秋生が貸してくれたコットンパンツとスウェットに着替えてから家を出た。
「やっぱり少し大きいね、それ」
 電車でも大丈夫と言ったのだが、秋生が大事を取ろうと言ってタクシーで移動することになった。その車内で、秋生が大分余っている朱莉の袖を見て笑う。ちなみにパンツの方も何度か折り返して履いている。
「そりゃ、秋生さんの方が大きいですから」
 身長も体格もやっぱり朱莉の方が小さいし華奢だ。こうやって秋生の服を着るとそれが如実に分かってしまって、ちょっと悔しいなと思うところもあるが、それよりも秋生の服を着ていると彼に包まれているような気がして少し嬉しかったりもする。
「そりゃそうだろうけど……今、すごく自分の服を朱莉くんに着せたことを後悔してるよ」
 そんなことを言われ、朱莉は眉を下げた。
 本当は朱莉に貸したくなかったということだろうか。着せてみたらやっぱり他人に自分のものが着られているのは嫌だと気づいたのかもしれない。
「あ、あの、同じ物買って返します」
 朱莉が言うと秋生は慌てて、そうじゃなくて、と袖から少しだけ出ている朱莉の指先を掴まえ、こちらに体を寄せた。
「余計に朱莉くんが可愛く見えるから、他の人に見せたくないなと思って」
 秋生が小声でささやくように朱莉の耳元で告げる。それを聞いた朱莉は、恥ずかしくて、ささやきの余韻でぞわぞわする耳を押さえて秋生を見上げた。見えなくても頬が紅潮しているのは自分でも分かる。
「そう見えるのは、きっと秋生さんだけです……」
「だといいけどね」
 秋生は、ふふ、と小さく笑って、もうすぐ着くね、と窓の外に視線を向けた。
 朱莉の赤くなった指先は、秋生に握られたままで、益々体が熱くなるのを感じて朱莉はただ顔を伏せていた。
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