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しおりを挟む映画は小説を実写にした邦画を選んだ。ミステリーを軸に少しだけ恋愛要素が入ったそれは、朱莉は面白いと思って最後まで飽きずに見ていたが、秋生は途中で寝てしまった。それが分かったのが、繋いでいた手から力が抜けたから、というのが恋人っぽくてそれだけでもにやけてしまうのだが、ちらりと覗いた秋生の寝顔は、少し幼くて可愛いと思えた。
それだけでも、今日は来てよかったと思える。無防備な秋生の姿はとても貴重だ。
そして今、テーブルの向こう側に座っている秋生の謝る姿も同じくらい貴重だと思う。
「ホント、ごめん……面白くなかったわけじゃないんだ」
「気にしないでくださいって、さっきも言いましたよ。それに、寝るだろうなって予想はしてました」
医師なんてハードな仕事だ。秋生は、手術もしないから楽な方だよ、とは言っているが、命に関わる仕事は一瞬だって気を抜けないだろう。休日に、自分の隣で安らいでくれたのならそれはそれで幸せな事だ。
「今度、ちゃんと観ておく。その時、感想話そう? そしてお詫びに、ここは奢らせて」
映画の後向かったのはイタリアンダイニングだった。ここのクラシックカルボナーラが美味しいんだ、と秋生が連れてきてくれた店で、雰囲気もオシャレなその一角のボックス席で少し早い夕飯をとることにした。おすすめされたカルボナーラも本当に生クリームを使っていないのかと思うほどなめらかで美味しいし、ピザもサクサクした生地は朱莉の好みだ。
「お詫びって程のことじゃないですよ。でも秋生さんが観た後で感想を話すのは賛成です。今ぼくが話しちゃうと真相が分かっちゃうし」
「あ、それは言わないで。途中、女の子が誘拐されたところまでは覚えてるんだ。その後は気になるけど、今はだめ」
秋生が両手で耳を塞ぐ。その姿が可愛らしくて朱莉が思わず笑った。それを見た秋生も笑顔になる。
「また、朱莉くんのことをひとつ知れて嬉しいよ。こうやって知るたびに好きになってくんだろうな」
秋生が耳から手を離し、朱莉の頬に触れる。耳に髪をかけ、離れていく指がなんだか寂しくて朱莉は秋生のその手を掴んだ。当然のように秋生が不思議そうな顔をしてこちらを見やる。
「あの……そろそろ、出ません、か……?」
時間はまだ十九時を越えたばかりだ。帰るには少し早い。ただ、この時間にこの言葉を言うと、これまで会ってきた男性は、じゃあ二人きりで静かに過ごせるところに、と言って朱莉を自分のものにしようと企む。
これまでは、その時点で、ごちそうさまでした、と軽やかに帰ってしまうのが朱莉のいつものパターンなのだが、今日は違う。本当に『次の場所』へ連れて行って欲しいのだ。
「あ、確かに店も混んできたし、そろそろ出ようか」
朱莉の言葉を聞いてあたりを見回した秋生が席を立つ。それに倣い、朱莉も立ち上がった。
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