百合原くんは本気の『好き』を捧げたい

藤吉めぐみ

文字の大きさ
39 / 55

14-3

しおりを挟む
「近くに車とめてあるから、そこまで歩いていい?」
「あ、はい。秋生さん車だったんですね」
 それで、朱莉にワインを勧めたのに、自分はアルコールを入れていなかったのかと納得する。以前、酔った勢いでキスをしてしまった。その次に会った時は同じ間違いを繰り返さないようにアルコールを抜いたのだと思っていたのだが、朱莉が彼女と間違えたのだと勘違いしていただけで、あのキスだって秋生が朱莉にしたいと思ってしてくれたものなのだから、もう一緒にお酒を飲んでもいいのに、むしろ酔ってキスをしてくれるならその方がいいのにと思っていたのだ。
「うん。帰りはやっぱり送ってあげたくて」
 店を出た秋生が朱莉の手を掴む。歩く時は必ず手を繋いでくれるのが嬉しかった。肩や腰を抱き寄せて歩く人もいたし、腕を組むように言う人もいたけれど、どちらも結局朱莉を『自分のもの』と周りに言いたいだけのアピールで必要以上にくっつかせていたんだと思う。こうやって、対等に、でも朱莉が利き手を預けられるくらいの信頼で繋ぐ手は、朱莉にとってとても嬉しいものだった。
「ありがとうございます、秋生さん」
「全然。僕が心配なだけだから……せっかくだから少し遠回りして帰ろうか」
 ちょっとだけドライブってどうかな? と聞かれ、朱莉がそれに頷いた。まだ時間は早いし、秋生の隣でするドライブはきっと楽しいだろう。嬉しくて微笑むと、秋生がぎゅっと手を握ってこちらを優しい目で見つめていた。それだけで心臓が跳ねる。
 ベッドでこんな目で見下ろされたらドキドキしすぎて気絶しちゃうかも、なんて思いながら朱莉は秋生の手を握り返した。


 秋生の運転する車で海の方へと向かい、途中でコーヒーを買って少しだけ散歩をしてから、再び車に乗り込み、ぐるりと一周するように遠回りドライブを二時間ほどした。海沿いの公園を散歩するのも楽しかったし、車窓から見える夜景もすごくきれいだったし、なにより運転中の秋生の横顔はすごくカッコよかった。
 きっとこれからもっとカッコいい秋生を見ることができるのだろうと、その時の朱莉はわくわくしていた。
「じゃあ、今日はここで。一日ありがとう、お疲れ様」
 けれど、朱莉が住むアパートの前で、こんなふうに言われるとは思っていなくて、朱莉は思わず助手席に座ったまま、え、と聞き返してしまった。
 ドライブは雰囲気作りと時間稼ぎで、これからがデートのメインなのではないか。
「一日連れ出しちゃったから疲れたでしょ。ゆっくり休んで。また、連絡するよ」
 朱莉の反応には気にも留めず、秋生は優しく言うと、朱莉の頬を撫でてこちらに近づいた。そのまま額にキスをして離れる。
「おやすみ、朱莉くん」
 そこまで言われてしまってはもう車を降りるしかない。
「おやすみなさい、秋生さん……」
 朱莉が助手席のドアを開け、車を降りる。ドアを閉めると、窓が開いて、秋生がこちらに微笑んだ。
「ちゃんと暖かくしてね」
「はい……あ、あの……また、会えますか……?」
 こんなにあっさりと車を降ろされて少し不安になった朱莉が車の傍に寄り、秋生を見つめる。秋生は優しく笑って、当たり前でしょ、と朱莉を見つめた。
「……好きだよ、朱莉くん。また、近いうちにデートしよう。電話もする」
「はい……ぼくも、好き、です……」
 朱莉がそう言って車から離れると、秋生は窓を閉め、ゆっくりと車を走らせた。テールライトが次第に遠くなり、朱莉は小さくため息を吐く。
 こんなところで終わるデートだとは思っていなかった。これまでは、朱莉が『帰る』と言わない限り、ベッドに入るまで離してもらえなさそうな感じのものばかりで、向こうからこんなふうに送ってくれて別れるなんて滅多にない。
 秋生は好きだと言ってくれたけど、それも優しさのうちだとしたら……そんなことを考え始めてしまう自分を否定するように頭を振った朱莉はとぼとぼと部屋へと戻っていった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。 これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。 無自覚両片想いの勇者×親友。 読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される

八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。 蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。 リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。 ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい…… スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

処理中です...