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「こんにちは、いつものお花、取りに伺いました」
ドアの近くにいた店員に声をかけると朱莉に気づいた店員が、副店長呼びますね、と店の奥に向かう。すると、店先に貴伸が顔を出した。
「朱莉くん、ごめん。まだ出来てないからこっち来て待っててもらえないかな?」
いつもなら約束の時間より前に花束は完成していて、ガラスケースの中に入っている。朱莉と話をするために呼んだのだと分かったので、朱莉はそれに頷いた。ただ、店頭で少し話すだけだと思っていたので少し予想外で緊張する。
「じゃあ、失礼します」
店員に案内され店の奥へと入ると、そこは作業場のようで、壁際に大きなシンクと中央には広い作業台があった。緑のいい香りがする。
「じゃあ、おれ、配達の時間なので行きます。店頭誰もいないので、よろしくお願いします」
案内してくれた店員の言葉に朱莉は、え、と声を出しそうになった。この時間に呼んだのは、他に店員がいる安心な場所だったからではないのか。
「ああ、了解。気を付けて行ってきて」
店員を笑顔で送り出す貴伸に対し、もしかして騙されたのか、と怪訝な表情で朱莉が視線を送ると、違うんだ、と貴伸が焦ったように口を開いた。
「急な配達が入ってしまって。ホントは二人になる予定じゃなかったんだ。花だって、完成してる予定で、店頭で少し話せたらと思ってたのは、本当なんだ。ごめんね、こんな雑然としたところに呼んで。とりあえずその辺の椅子、座って」
貴伸はすぐに作業台の前に立ち、花をまとめる作業に入った。どうやら言い訳ではなく、本当に花の準備が出来ていないようだ。朱莉は近くにあった木製のスツールに腰かけてから、あの、と口を開いた。
「話って……?」
貴伸の思惑と変わってしまったのなら仕方ない。だったら早く話を切り上げてさっさと店を出ていくだけだ。朱莉が促すように聞くと、貴伸は、うん、と頷いてから少し黙って、あの時はごめん、と告げた。
「君が欲しくて、どうしても自分のものにしてしまいたくて、でもそれを拒まれてあんなことを言ってしまったけど……本当に欲しいのは、体じゃないんだ」
朱莉を抱くために金を使ったとまで言った口で、そんなことを言われても、もう朱莉の心には響くものはない。
「もう、あの時のことはいいです。お金も返さなくていいので、こうして会うことはもうしないでください。ぼくも、ここには来ません」
「そんなこと言わないで欲しい。俺、あの後すごく反省したんだ。あんな言い方したら、金で買ったみたいな意味にとられるよなって……でも、本当はただ、君が俺に興味をもってくれたことが嬉しくて、どうしても逃したくなかっただけなんだ。ずっと、好きだったから」
ずっと好きだった人に、あんな暴言吐けるだろうか。以前の朱莉なら、その言葉に心を動かされたかもしれない。でも、人を好きになる気持ちを知っている今の朱莉には、それは理解出来なかった。相手に拒まれたら、落ち込みこそすれ、暴言なんて吐きたくならない。
週末の朱莉がまさにそれだったから、余計にそれを実感する。
「気持ちは嬉しいですが、今はお付き合いしている人がいるので」
朱莉が真摯に答えると、それなんだけど、と貴伸が眉を下げてこちらを見つめた。朱莉はそれに首を傾げる。
「日曜日、女性と歩いてるところ見たよ。仲良さそうにバーに入っていった」
ドアの近くにいた店員に声をかけると朱莉に気づいた店員が、副店長呼びますね、と店の奥に向かう。すると、店先に貴伸が顔を出した。
「朱莉くん、ごめん。まだ出来てないからこっち来て待っててもらえないかな?」
いつもなら約束の時間より前に花束は完成していて、ガラスケースの中に入っている。朱莉と話をするために呼んだのだと分かったので、朱莉はそれに頷いた。ただ、店頭で少し話すだけだと思っていたので少し予想外で緊張する。
「じゃあ、失礼します」
店員に案内され店の奥へと入ると、そこは作業場のようで、壁際に大きなシンクと中央には広い作業台があった。緑のいい香りがする。
「じゃあ、おれ、配達の時間なので行きます。店頭誰もいないので、よろしくお願いします」
案内してくれた店員の言葉に朱莉は、え、と声を出しそうになった。この時間に呼んだのは、他に店員がいる安心な場所だったからではないのか。
「ああ、了解。気を付けて行ってきて」
店員を笑顔で送り出す貴伸に対し、もしかして騙されたのか、と怪訝な表情で朱莉が視線を送ると、違うんだ、と貴伸が焦ったように口を開いた。
「急な配達が入ってしまって。ホントは二人になる予定じゃなかったんだ。花だって、完成してる予定で、店頭で少し話せたらと思ってたのは、本当なんだ。ごめんね、こんな雑然としたところに呼んで。とりあえずその辺の椅子、座って」
貴伸はすぐに作業台の前に立ち、花をまとめる作業に入った。どうやら言い訳ではなく、本当に花の準備が出来ていないようだ。朱莉は近くにあった木製のスツールに腰かけてから、あの、と口を開いた。
「話って……?」
貴伸の思惑と変わってしまったのなら仕方ない。だったら早く話を切り上げてさっさと店を出ていくだけだ。朱莉が促すように聞くと、貴伸は、うん、と頷いてから少し黙って、あの時はごめん、と告げた。
「君が欲しくて、どうしても自分のものにしてしまいたくて、でもそれを拒まれてあんなことを言ってしまったけど……本当に欲しいのは、体じゃないんだ」
朱莉を抱くために金を使ったとまで言った口で、そんなことを言われても、もう朱莉の心には響くものはない。
「もう、あの時のことはいいです。お金も返さなくていいので、こうして会うことはもうしないでください。ぼくも、ここには来ません」
「そんなこと言わないで欲しい。俺、あの後すごく反省したんだ。あんな言い方したら、金で買ったみたいな意味にとられるよなって……でも、本当はただ、君が俺に興味をもってくれたことが嬉しくて、どうしても逃したくなかっただけなんだ。ずっと、好きだったから」
ずっと好きだった人に、あんな暴言吐けるだろうか。以前の朱莉なら、その言葉に心を動かされたかもしれない。でも、人を好きになる気持ちを知っている今の朱莉には、それは理解出来なかった。相手に拒まれたら、落ち込みこそすれ、暴言なんて吐きたくならない。
週末の朱莉がまさにそれだったから、余計にそれを実感する。
「気持ちは嬉しいですが、今はお付き合いしている人がいるので」
朱莉が真摯に答えると、それなんだけど、と貴伸が眉を下げてこちらを見つめた。朱莉はそれに首を傾げる。
「日曜日、女性と歩いてるところ見たよ。仲良さそうにバーに入っていった」
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