百合原くんは本気の『好き』を捧げたい

藤吉めぐみ

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「日曜日、ですか……ていうか、ぼくがお付き合いしてる人なんて、知らないですよね?」
 秋生とはまだ付き合い始めて日も浅いし、週末に出掛けたのが初めての外でのデートだ。誰かに見られるなんてほとんどないはずだ。
 ただ日曜日は秋生とは会っていないから、不安は残っている。
「いや、前に見たことあるよ。ホテルに入るところを見たから、そういう関係の相手だろう?」
 その言葉に朱莉は益々首を傾げてしまう。秋生とはホテルなんて入ったことがない。というか、そんなことになっているなら、朱莉だって手を出してもらえないなんて悩んでいない。
「それ、人違いじゃないですか?」
「好きな人を間違えるなんて、あるわけないでしょ」
 はっきりと返されたので、きっとそれは朱莉で間違いないのだろう。だとしたら、相手が違うのだ。ここ最近でホテルへ向かったのは、目の前の人と、朱莉の傷を気持ち悪いと言ったあの人しかいない。
「それ……随分前ですよね。あの人とはお付き合いしてません。というか、その人とお付き合いしてたなら、あなたと会うことなんかしないですよね」
「で、でも……朱莉くんは、すぐ抱けるって噂もあったから、奔放なんだと思ってたし……だからこそ俺のものにして閉じ込めたかった」
「……とにかく、ぼくのお付き合いしてる方は、別の方なので、話すことはもうないです」
 秋生に関する話ではなかったと思い、朱莉はほっとして椅子から立ち上がった。もうここにいる意味はない。
「花、店頭で待ってます」
 朱莉がそう告げて作業場を出ようとした、その時だった。目の前の扉が閉められ、朱莉が驚いて顔をあげる。そこにはドアノブを後ろ手に握りしめている貴伸が居た。作業台を越えてここまで慌てて来たのだろう。少し息が上がっている。
「出さない。君をここに呼んだのは、このまま君を俺のものにするためだ。本当はまた慰めて今度は優しくしようと思ってたけど……ここまで来たら手段は選ばない」
 その言葉に背筋が震える。店頭で済ませるつもりだったなんて、初めから嘘だったのかもしれない。こうして奥へと閉じ込めて朱莉が付き合うことを承諾するまでは出さないつもりだったのだろう。そしてそれを今まさに遂行しようとしている。
「ぼくには、今お付き合いしている人がいます。だから何をされても、あなたのものにはなりません」
 たとえ、ここで体を奪われることがあったとしても、秋生以外のものになるつもりはない。強い覚悟で貴伸を見上げると、険しい表情で見つめ返された。
「そう言ってられるのも最初だけだよ。店にはもう誰も戻ってこないし、明日は定休日だ。ずっと、俺と一緒だよ。その間に心変わりさせてあげる」
 貴伸がにたりと音がしそうなほど粘着質な笑顔を向ける。すべて計算づくだったということか。用意周到に仕掛けられていた罠に朱莉が嵌ったということなのだろうか。
「……帰ります。帰してください」
 通用するとは思っていなかったが、言わずにはいられなかった。これで、いいよ、と言われることはもちろんなくて、貴伸がそっと朱莉の頬に手を伸ばす。
「店を閉めてくるから待ってて。大人しく待っててくれたら、嫌なことはしないから」
 貴伸に頬を撫でられ、胸を軽く押される。たたらを踏んだ隙に、貴伸は部屋のドアを開け、すぐに閉めた。外側から鍵のかかる音がする。
「閉じ込められた……?」
 朱莉はすぐにポケットに手を入れ、スマホを取り出した。秋生との通話がまだ繋がっていたら助けを求めればいい、そう思って画面を見たが、既に通話は切れていた。それどころか電源も入っていない。どうやら充電が切れたらしい。急なことだったからスマホの充電も十分にしてきたとは言えないが、まさかこんな数十分の通話で切れるとは思っていなかった。
 だったら自力で出るしかない。とりあえず現状を確認しようと、朱莉は貴伸が出て行ったドアにぴたりと耳をつけた。かすかに店内の音が聞こえる。
『……急ぎですか? ええ、花束でよければお受けしますが……』
 店を閉めようとしたら、客が来たのだろう。対応する貴伸の声が聞こえる。ということはまだ時間はある。ただ、今いるこの部屋には窓がなかった。ほかにドアもないようで、ここを開けるしかない。貴伸が戻ってきた瞬間に飛び出すのが唯一の手段だろう。朱莉はそのタイミングを窺おうとさらに耳を澄ませた。
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