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肝っ玉母さん
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拓馬の実家に着いたのは、一時間ほど後。すっかり明るくなり、街全体が起き始めていた。
「あっ!伊織君ね。やっと会えたわね(笑)待ってたのよ~!私は糸です。変わった名前でしょう?」
「伊織です。よろしくお願い致します。糸さん!」
「お母さんでいいわよ(笑)」
「お、お母さん。よろしくお願いします」
伊織は丁寧に挨拶した。伊織にとっては自然なお辞儀だったが、糸はその美しさを眩しく感じていた。
娘の横にも安田がいるのに気付き、安田にも挨拶した。
「安田君!久しぶりね(笑)いつも爽に振り回されてるんじゃない?」
「ちょっとお母さん!それ、どういう意味よ!」
「あなたね、安田君に甘えすぎなのよ!」
「甘えてなんかないもん!」
安田は自覚なしと首をうなだれた。
「とにかくみんなお腹空いてるでしょ?朝ごはんあるから食べてって!」
有無を言わせずテーブルにつかされた。
「拓馬、爽。手伝ってちょうだい」
「あっ、あの僕もお手伝いします!」
「俺も運びます!」
糸は自分の子供達に、それぞれ素敵な相手がいることに一人微笑んだ。二人ともいい人に出会えてる。
「じゃあ、甘えちゃおうかな?安田君、テーブル拭いてきて。伊織君は拓馬がご飯よそってくれるから、運んでね♡」
糸の綺麗なウィンクを浴びて、伊織は拓馬があんなに優しくて強いのはこのお母さんが育てたからなんだなと妙に納得してしまった。
朝ご飯は豪勢だった。厚焼き玉子にシラスおろし。ホウレンソウのごま和え、鮭の西京焼き。大根と人参、キュウリの糠漬け…。お味噌汁は白菜に大根、人参、ジャガイモにお豆腐、シメジと具沢山で野菜の甘味が出ていて、だしと相まってすごく美味しかった!
「あったまる~!」
「爽は具沢山お味噌汁好きだもんね」
「よく食べるなぁ…」
安田は感心したように爽を見ていた。
「だって美味しいんだもん」
「爽も案外料理上手なのよ。安田君、爽お嫁にもらってよ」
「なっ!何言ってんの!」
「え~…。お母さん、安田君なら息子にほしいわ」
「今ならお買い得です(笑)」
「そうよね~」
糸は以前から安田の気持ちに気付いていて、会うたびに援護射撃をしてくれる。ありがたいなぁ…。
爽は真っ赤になって、無言でごはんを食べていた。
「伊織君、美味しい?」
「はい!僕、厚焼き玉子大好きなんです!」
ほんとに美味しそうに食べる姿を拓馬が嬉しそうに見ていた。
「拓馬。見過ぎ(笑)」
からからと明るく笑う糸に突っ込まれていた。
「しょうがないじゃん。六年越しの想いが叶ったんだから」
ねっ!と拓馬の糸譲りの綺麗なウィンクを浴び、伊織は真っ赤になっていた。
「それにしてもそんじょそこらの女子では敵わない可愛さね~…」
糸はしみじみと感心していた。伊織は恥ずかしくてますます赤くなってしまった。
「それにしても記憶が無いのは困るわよね?」
糸に問いかけられて、伊織はそんな大事な事を忘れていた自分に気付いた。
「不謹慎だと思われるかもしれませんが、このまま記憶が戻らなくてもいいかなって思っています…」
「どうして?」
「…。僕は家を継ぐことにそんなにこだわってなかったんじゃないかなと思うんです。それに、もっと大切な事があるから…」
「それは、拓馬のこと?」
首まで赤くして頷いた。
「抱きしめていい?」
「拓馬…。とりあえず目につかない所でやって」
糸はそれでも、ちゃんと思い出した状態で拓馬と一緒にいるのが一番だと思っていた。今まで拓馬に散々思いの丈を聞かされてきた糸は、そうは言っても相手は男の子でしょう?と伊織がどんな子なのか秘かに雑誌や新聞記事を集めて調べていた。あら探しとかではなく、純粋にどんな子なのかなと興味があって…。
「私、今なら本家本元の伊織君より情報持ってるのよ♡お母さんに任せてよ!」
「それを言うなら私だってたくさん取材してるもん!」
そりゃそうだろうと安田は心の中で突っ込んだ。俺らは本職だよ?
「とにかく、俺達が取材した限りでも、家元の権限を握りたい人間は結構いるって事です。一番の有力候補の伊織君を邪魔に思ってる人間の中に、ちょっとヤバい筋に依頼した人物がいるらしい事も漏れ聞こえてきてます」
「何を依頼したって言うの?」
「その美しい作品を作り出す手を…」
「卑怯じゃない!」
爽がキレた。人一倍正義感が強い爽には我慢出来ない事だった。
「そんなことしても、自分に素質がなければ何にもならないでしょう?」
爽の言い分ももっともだが、糸はもっと現実的な話をした。
「伊織君が突出して才能があるから、そこが無くなればあとは似たり寄ったりの才能の持ち主だったら、どうにかなるって思ってるんじゃない?」
「そんなの美を生業としている人間の考える事じゃ無いわね」
爽は憤懣やるかたないといった様子で、誰よりもぷりぷり怒っていた。
「とにかく、母さん。明日は俺、勤務があるから伊織のことお願いします」
「任せてよ!ついでに拓馬の武勇伝吹き込んでおくから(笑)」
「何!武勇伝って!」
「結構やんちゃだったでしょう?」
「昔のことです!変なこと伊織の耳に入れないでよ!」
拓馬の慌てぶりから見て、やんちゃはほぼ確定。伊織も糸と一緒に笑っていた。
「あっ!伊織君ね。やっと会えたわね(笑)待ってたのよ~!私は糸です。変わった名前でしょう?」
「伊織です。よろしくお願い致します。糸さん!」
「お母さんでいいわよ(笑)」
「お、お母さん。よろしくお願いします」
伊織は丁寧に挨拶した。伊織にとっては自然なお辞儀だったが、糸はその美しさを眩しく感じていた。
娘の横にも安田がいるのに気付き、安田にも挨拶した。
「安田君!久しぶりね(笑)いつも爽に振り回されてるんじゃない?」
「ちょっとお母さん!それ、どういう意味よ!」
「あなたね、安田君に甘えすぎなのよ!」
「甘えてなんかないもん!」
安田は自覚なしと首をうなだれた。
「とにかくみんなお腹空いてるでしょ?朝ごはんあるから食べてって!」
有無を言わせずテーブルにつかされた。
「拓馬、爽。手伝ってちょうだい」
「あっ、あの僕もお手伝いします!」
「俺も運びます!」
糸は自分の子供達に、それぞれ素敵な相手がいることに一人微笑んだ。二人ともいい人に出会えてる。
「じゃあ、甘えちゃおうかな?安田君、テーブル拭いてきて。伊織君は拓馬がご飯よそってくれるから、運んでね♡」
糸の綺麗なウィンクを浴びて、伊織は拓馬があんなに優しくて強いのはこのお母さんが育てたからなんだなと妙に納得してしまった。
朝ご飯は豪勢だった。厚焼き玉子にシラスおろし。ホウレンソウのごま和え、鮭の西京焼き。大根と人参、キュウリの糠漬け…。お味噌汁は白菜に大根、人参、ジャガイモにお豆腐、シメジと具沢山で野菜の甘味が出ていて、だしと相まってすごく美味しかった!
「あったまる~!」
「爽は具沢山お味噌汁好きだもんね」
「よく食べるなぁ…」
安田は感心したように爽を見ていた。
「だって美味しいんだもん」
「爽も案外料理上手なのよ。安田君、爽お嫁にもらってよ」
「なっ!何言ってんの!」
「え~…。お母さん、安田君なら息子にほしいわ」
「今ならお買い得です(笑)」
「そうよね~」
糸は以前から安田の気持ちに気付いていて、会うたびに援護射撃をしてくれる。ありがたいなぁ…。
爽は真っ赤になって、無言でごはんを食べていた。
「伊織君、美味しい?」
「はい!僕、厚焼き玉子大好きなんです!」
ほんとに美味しそうに食べる姿を拓馬が嬉しそうに見ていた。
「拓馬。見過ぎ(笑)」
からからと明るく笑う糸に突っ込まれていた。
「しょうがないじゃん。六年越しの想いが叶ったんだから」
ねっ!と拓馬の糸譲りの綺麗なウィンクを浴び、伊織は真っ赤になっていた。
「それにしてもそんじょそこらの女子では敵わない可愛さね~…」
糸はしみじみと感心していた。伊織は恥ずかしくてますます赤くなってしまった。
「それにしても記憶が無いのは困るわよね?」
糸に問いかけられて、伊織はそんな大事な事を忘れていた自分に気付いた。
「不謹慎だと思われるかもしれませんが、このまま記憶が戻らなくてもいいかなって思っています…」
「どうして?」
「…。僕は家を継ぐことにそんなにこだわってなかったんじゃないかなと思うんです。それに、もっと大切な事があるから…」
「それは、拓馬のこと?」
首まで赤くして頷いた。
「抱きしめていい?」
「拓馬…。とりあえず目につかない所でやって」
糸はそれでも、ちゃんと思い出した状態で拓馬と一緒にいるのが一番だと思っていた。今まで拓馬に散々思いの丈を聞かされてきた糸は、そうは言っても相手は男の子でしょう?と伊織がどんな子なのか秘かに雑誌や新聞記事を集めて調べていた。あら探しとかではなく、純粋にどんな子なのかなと興味があって…。
「私、今なら本家本元の伊織君より情報持ってるのよ♡お母さんに任せてよ!」
「それを言うなら私だってたくさん取材してるもん!」
そりゃそうだろうと安田は心の中で突っ込んだ。俺らは本職だよ?
「とにかく、俺達が取材した限りでも、家元の権限を握りたい人間は結構いるって事です。一番の有力候補の伊織君を邪魔に思ってる人間の中に、ちょっとヤバい筋に依頼した人物がいるらしい事も漏れ聞こえてきてます」
「何を依頼したって言うの?」
「その美しい作品を作り出す手を…」
「卑怯じゃない!」
爽がキレた。人一倍正義感が強い爽には我慢出来ない事だった。
「そんなことしても、自分に素質がなければ何にもならないでしょう?」
爽の言い分ももっともだが、糸はもっと現実的な話をした。
「伊織君が突出して才能があるから、そこが無くなればあとは似たり寄ったりの才能の持ち主だったら、どうにかなるって思ってるんじゃない?」
「そんなの美を生業としている人間の考える事じゃ無いわね」
爽は憤懣やるかたないといった様子で、誰よりもぷりぷり怒っていた。
「とにかく、母さん。明日は俺、勤務があるから伊織のことお願いします」
「任せてよ!ついでに拓馬の武勇伝吹き込んでおくから(笑)」
「何!武勇伝って!」
「結構やんちゃだったでしょう?」
「昔のことです!変なこと伊織の耳に入れないでよ!」
拓馬の慌てぶりから見て、やんちゃはほぼ確定。伊織も糸と一緒に笑っていた。
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