用心棒な家政夫

ハジメユキノ

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危機迫る

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拓馬と爽、安田が帰った後、糸はお茶を入れて伊織を誘った。
「お家の事やる前に、少し話しない?」
「はい!」
糸は拓馬が伊織を連れてくると電話してきてから、押し入れの中にしまっていた伊織が載っている雑誌や新聞記事をまとめたスクラップブックを探し出していた。ついでに拓馬の赤ちゃんからずっと小中高校時代、大学時代のアルバムも用意していた。
「拓馬のアルバム見る?」
「はい!」
伊織は目を輝かせていた。
「可愛い!」
伊織は拓馬の赤ちゃん時代、幼稚園、小学校とほんとに嬉しそうに写真を見つめていた。
「伊織くんはほんとに拓馬の事好きでいてくれてるのね」
糸にしみじみと言われ、夢中でアルバムを見ていた自分に気付いた。
「あ、すみません…」
「いいのよ。私、あなたをずっといろんな記事で見てきて、実際本人を目の前にしたとき、拓馬の見る目は凄いなって思ったの」
「えっ?」
「だって、男とか女とか超越して、人としてその人を見られる人間になったんだなって…。自分の息子ながら見る目があるわと感心したの」
「そ、そうですか…」
「確かに息子が結婚しないって宣言したときは、さすがの私もちょっと待って!と思ったわよ。でも、私と拓馬は別人格だし、幸せはそれぞれ違うじゃない?いいんじゃない?って思ったわけよ(笑)」
伊織は糸のぶれない強さと優しさが素敵だと思った。
「僕、糸さん尊敬します!」
「えっ?尊敬されちゃった?あはは(笑)」

二人がお茶をしながら楽しく話している間に、ひたひたと追跡者は確実に伊織に近づいていた。

「伊織くん、こっちが伊織くんをまとめたスクラップブックよ」
自分の歴史が、自分の知らないところで大事に取っておかれていた事に伊織は感動していた。
「凄い!これ全部僕の?」
「そうよ!あなたがどれだけ素晴らしい作品を作ってきたのか分かるわよ」
糸が作ったスクラップブックは、何度も見返されてきたのか、端っこの方が丸まっていたが、丁寧に扱われていたのがよく分かって伊織は心がじーんと暖かかった。
「どれもいろんな賞を取った作品よ。私、実際に見に行ったこともあるの」
「えっ、嬉しいです!」
「伊織くん本人には会えなかったんだけれど、あなたが活けた花はとても美しかったの。こんなに美しい作品を作れる人はきっと心も綺麗なんだろうなって思っていたのよ(笑)」
そして、糸は拓馬が伊織を見初めた時の記事を指差した。
「ここから始まったのよ」
中学校の体育館で、舞台の上に着物を着て花束を持った伊織とレスキュー隊の制服を着た拓馬が向かい合っていた。伊織は自分が憧れの眼差しで拓馬を見つめていたことに気付いた。そして、その光景が霞んだ記憶の底から湧き上がってくるのを感じた。
「あっ」
「伊織くん?」
「僕、この光景、覚えてます…」
瞬間、伊織は中学校の体育館にいた。目の前に現れた人は制服の下に逞しい体を持つ、凄く格好いい人だった。顔が赤くなるのをこらえて、すましたふりで花束を渡す。受け取ったその人は、琥珀色の瞳が優しく輝いた。他の人には聞こえないくらいの小さな声で、
「ありがとう…。綺麗だね」
その言葉がまるで花束の事じゃなく、自分に向けられたような気がして忘れられなかった。僕はこの瞬間、目の前のレスキュー隊員に恋をしていた。
「伊織くん?大丈夫?」
糸は伊織の様子が変わったことに気付いた。
「ねぇ、伊織くん。あなた、思い出したの?」
「僕、昔拓馬さんに会ってます。僕はその時、拓馬さんに…」
「恋をした?」
「…。はい」
はにかみながらも嬉しそうに答える伊織を、糸は微笑ましく感じた。
「あなたたちは会うべくして会ったのね…」
拓馬と同じ、琥珀色の瞳が優しく光った。僕はなんて幸せ者なんだろうとしみじみ感じていた。

……………………………………………………………
男は拓馬の家の玄関に盗聴器を仕掛けていた。宅配に失敗した時、あっ!これは気付かれたなと分かった。次はもう、抜かるわけにはいかない。金が入らなくなる…。
郵便物の一部を少しだけカットし、豆粒ほどの盗聴器を入れ込んだ。
「伊織の居場所が分かればこっちのもんだ。人手が必要だな…」
盗聴器はうまい具合に室内に落ちた。拓馬にとっては不運だった。掃除が終わった後だったため、郵便物から転がり落ちた小さな盗聴器の存在に丸一日気づけなかったのだ。
明け方、ガタゴト音がした。女が出入りする声、男が三人、計四人がこの家からクルマに乗って出て行った。俺は五十嵐と言う男の身辺はくまなく調査していた。慌てずとも行き先は分かっていた。郊外の五十嵐の実家だ。
「あっ!もしもし?俺です。伊織の居場所が分かりました…」

………………………………………………
その頃、爽と安田は伊織の家である手嶌家に来ていた。デスクに特ダネがあるので行かせて下さいと進言したところ、やっとOKが出た。爽一人ではダメだったが、安田が口添えしてくれたから行けることになったのだ。
「俺に感謝しろよ~」
安田がふざけて言うと、爽は珍しく素直にお礼を言った。
「ありがとう…」
「どうした?やけに素直だけど?」
「いけない?素直にありがとうって言ったら💢」
少し様子がおかしい爽に安田はこう言った。
「お前だけだと暴走するから、心配だから俺について行けってさ」
とデスクとのやり取りをばらした。
「暴走なんて…」
「あのな。お前が女だからとかじゃないからな!お前の能力はちゃんと評価されてる。この件は危険がありそうだから俺について行ってやれっていうデスクの温情だよ」
そして、爽の頭に手を置いた。
「俺ならお前を守ってやれるからな」
優しくポンポンっと叩くと、ぷいっと顔を背けて先を行ってしまった。爽は安田の背中をぽーっと見ていた。
「ほら!行くぞ!」
安田は少しだけ照れた顔をしていた。
「あ…。はい!」
珍しくはい!と素直に返事をしていた事に、爽自身は気付かなかったが、安田は爽が少しだけ変わってきた事に気付いていた。
「俺が報われる日が来そうですよ!お兄さん!」
一人小さく呟いた。
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