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いざ、合戦
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糸の家の玄関に二人組の警官の姿があった。一人はすっきりした体型で制服を着こなしていたが、片方は制服のサイズがあってないようで、ぱつぱつでみっともない。
「アニキ…。これ、サイズ小っさくないっすか?」
「もう、アニキって呼ぶな。お前、太ったな」
「だって、サイズが…」
「我慢しろ。行くぞ」
ドアフォンに指を乗せた。
カスっとした感触で音がしない。
「ん?電池切れか?」
もう一度押してみる。が、しかし音がしない。
「ノックします?」
「そうだな…」
二人は玄関の前に長いこと留め置かれていた。
家の中では糸と伊織が息を殺していた…。訳でもなく、キッチンでお茶を飲んでいた。
「玄関先が騒がしいわね(笑)」
「そうですね」
ドアをノックする音が聞こえていた。普通なら怯えたりしそうなものだと思ったが、伊織には糸がワクワクしているように見えた。
「使うことが無いといいんだけど、玄関に向けて配置しましょう。二個あるから、目くらましくらいにはなるわね」
「はい。ピンを抜いて握る。でいいですか?」
「バッチリよ(笑)」
その時、拓馬から電話がかかってきた。
「はい、着いたのね?」
「あそこの公園にこの前家に来た宅配業者が乗ってた車があったよ。さっき110番した。実家の前に不審な二人組の警官の格好をした人達がいるんですってね」
「そう…。警察が到着する前にやりたいことがあるんだけど…」
拓馬は糸が何か企んでいる気がして、嫌な予感しかしなかった。
「何をしようって?」
「だってこのままだと、伊織くんを狙ってる事が証明出来ないじゃない!だから」
「だから?」
「迎え入れちゃう?」
はぁ…。たまに訳分かんない事言い出すんだよな。
「絶対にダメ!」
「ですよね…」
糸のあからさまに演技!と思われるため息が電話の向こうから聞こえた。
「がっかりするの、おかしいでしょ!伊織がケガしたらどうするんです!」
「過保護」
「えっ?過保護じゃないです!俺がまともなの!」
「昔、喧嘩ばっかりしてたくせに…」
「今関係ないでしょ!」
「はいはい。それより、二人組が逃げないようにちゃんと見てるのよ」
「もう警察来たよ。そっちも気を付けて」
「分かった。拓馬も気を付けて。ケガしないようにね」
覆面パトが静かに止まった。玄関ドアの前で、ドアフォンを押したり、ノックしたり、何とかドアを開けさせようとしていた二人は、静かに近づいてくる人影に気付くのが遅れた。
アニキと呼ばれていた男の肩が誰かにトントンと叩かれた。
「何だよ、なんか用かよ!」
忙しいんだよと振り返らない。
また、トントンと叩いてくる。
「だから、何のよ…」
「警察です。それは本物の制服ですか?」
「!」
二人は慌てて逃げようとしたが、逃げ道も無いほどぐるりと囲まれていた。
「いや、その…。仮装ですよ、仮装!」
「通報によると、同じ車に乗って、宅配業者のふりをして家に来た人が、今度実家に警察官の格好でやって来たとおっしゃっているんですがね」
「いや、身に覚えが無いんですけど…」
「今はね、防犯カメラとスマホがつながってて、映像を見せて頂いてるんですよね。今のカメラは性能がいいですからね…」
本物の警察官に詰め寄られ、だんだんしどろもどろになっていった。
「あとは署で聞かせて頂きましょうか?」
二人は両脇をがっちりつかまれ、身動きの取れない状態で警察署へ連れて行かれた。
「伊織!無事か?」
玄関に飛び込んできた拓馬を伊織が嬉しそうに迎えた。
「あっ!拓馬さん!お帰りなさい」
にっこりと花が咲いたような美しい笑顔を向けられ、たまらず抱きしめようとした。
「もう!デレデレね…」
そういえば、母さんがいたんだった!
「私の存在忘れてたでしょ💢」
玄関には、消火器が二台こちらを向いていた。拓馬は糸が何をしようとしていたのか、はっきりと分かった。
「これで迎え撃つつもりだったの?」
「そうよ!まぁ、目くらましくらいにはなるでしょう?あとは私がバシバシッとね(笑)」
竹刀を手にし、にんまりと微笑んだ。
「俺と爽がいれば別だけど、母さん一人で男二人はさすがに無理だよ…」
「あら、母さんが剣道の有段者だって事はご存じないのかしら?」
「知ってますよ…」
伊織が糸と拓馬を嬉しそうに見ていた。この家族ってみんな仲が良くて強いんだ…と、うらやましく思えた。僕の家は…。
「伊織?どうした?」
「え?いや、その…。僕の家と違って仲が良くてうらやましいなって…」
拓馬は糸を見た。
「母さん!伊織、記憶が…」
「そうよ。思い出したのよ。あなたと出会った時の写真のおかげでね♡」
「そうなのか?伊織」
伊織はちゃんと拓馬を覚えていた。拓馬が伊織を見初めたとき、同時に伊織は拓馬に恋をしていた。拓馬が囁いた言葉も、伊織は忘れずに覚えていた。と言うより、忘れることが出来ないでいた。
「はい。僕はあの時、拓馬さんが僕の花束を綺麗だねって言ってくれたことを…」
「ん?言ってくれたことを?」
伊織は恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながらこう言った。
「花束じゃなくて、僕に言ってくれたような気がして…。忘れられなかったんです…」
ああ!言っちゃった!と恥ずかしくてほんとに穴があったら入りたいと思った。
見ると、拓馬が真っ赤な顔をしていた。
「拓馬?あなた、ほんとに伊織くんに綺麗だねってって言ってたんでしょ!」
拓馬はそっぽを向いたが、耳から首まで真っ赤になっていた。
「聞こえてないと思ってた…」
糸は呆れた顔で、
「キザね~(笑)」
と、鼻で笑った。
…………………………………………………………………
一頃の騒ぎが収まり、住宅街にいつもの平穏が戻ったように見えた。けれど、糸の家を鋭い眼差しで見つめる一人の若い男の姿があった。
「俺は、父をないがしろにしたあの家が許せない…。伊織にも父さんと同じ絶望を味わわせてやる…」
男のポケットには、小刀が入っていた。どこを傷つければ指が動かなくなるか…。そんなことを思いながら、家の中にいるはずの伊織を見つめていた。
「アニキ…。これ、サイズ小っさくないっすか?」
「もう、アニキって呼ぶな。お前、太ったな」
「だって、サイズが…」
「我慢しろ。行くぞ」
ドアフォンに指を乗せた。
カスっとした感触で音がしない。
「ん?電池切れか?」
もう一度押してみる。が、しかし音がしない。
「ノックします?」
「そうだな…」
二人は玄関の前に長いこと留め置かれていた。
家の中では糸と伊織が息を殺していた…。訳でもなく、キッチンでお茶を飲んでいた。
「玄関先が騒がしいわね(笑)」
「そうですね」
ドアをノックする音が聞こえていた。普通なら怯えたりしそうなものだと思ったが、伊織には糸がワクワクしているように見えた。
「使うことが無いといいんだけど、玄関に向けて配置しましょう。二個あるから、目くらましくらいにはなるわね」
「はい。ピンを抜いて握る。でいいですか?」
「バッチリよ(笑)」
その時、拓馬から電話がかかってきた。
「はい、着いたのね?」
「あそこの公園にこの前家に来た宅配業者が乗ってた車があったよ。さっき110番した。実家の前に不審な二人組の警官の格好をした人達がいるんですってね」
「そう…。警察が到着する前にやりたいことがあるんだけど…」
拓馬は糸が何か企んでいる気がして、嫌な予感しかしなかった。
「何をしようって?」
「だってこのままだと、伊織くんを狙ってる事が証明出来ないじゃない!だから」
「だから?」
「迎え入れちゃう?」
はぁ…。たまに訳分かんない事言い出すんだよな。
「絶対にダメ!」
「ですよね…」
糸のあからさまに演技!と思われるため息が電話の向こうから聞こえた。
「がっかりするの、おかしいでしょ!伊織がケガしたらどうするんです!」
「過保護」
「えっ?過保護じゃないです!俺がまともなの!」
「昔、喧嘩ばっかりしてたくせに…」
「今関係ないでしょ!」
「はいはい。それより、二人組が逃げないようにちゃんと見てるのよ」
「もう警察来たよ。そっちも気を付けて」
「分かった。拓馬も気を付けて。ケガしないようにね」
覆面パトが静かに止まった。玄関ドアの前で、ドアフォンを押したり、ノックしたり、何とかドアを開けさせようとしていた二人は、静かに近づいてくる人影に気付くのが遅れた。
アニキと呼ばれていた男の肩が誰かにトントンと叩かれた。
「何だよ、なんか用かよ!」
忙しいんだよと振り返らない。
また、トントンと叩いてくる。
「だから、何のよ…」
「警察です。それは本物の制服ですか?」
「!」
二人は慌てて逃げようとしたが、逃げ道も無いほどぐるりと囲まれていた。
「いや、その…。仮装ですよ、仮装!」
「通報によると、同じ車に乗って、宅配業者のふりをして家に来た人が、今度実家に警察官の格好でやって来たとおっしゃっているんですがね」
「いや、身に覚えが無いんですけど…」
「今はね、防犯カメラとスマホがつながってて、映像を見せて頂いてるんですよね。今のカメラは性能がいいですからね…」
本物の警察官に詰め寄られ、だんだんしどろもどろになっていった。
「あとは署で聞かせて頂きましょうか?」
二人は両脇をがっちりつかまれ、身動きの取れない状態で警察署へ連れて行かれた。
「伊織!無事か?」
玄関に飛び込んできた拓馬を伊織が嬉しそうに迎えた。
「あっ!拓馬さん!お帰りなさい」
にっこりと花が咲いたような美しい笑顔を向けられ、たまらず抱きしめようとした。
「もう!デレデレね…」
そういえば、母さんがいたんだった!
「私の存在忘れてたでしょ💢」
玄関には、消火器が二台こちらを向いていた。拓馬は糸が何をしようとしていたのか、はっきりと分かった。
「これで迎え撃つつもりだったの?」
「そうよ!まぁ、目くらましくらいにはなるでしょう?あとは私がバシバシッとね(笑)」
竹刀を手にし、にんまりと微笑んだ。
「俺と爽がいれば別だけど、母さん一人で男二人はさすがに無理だよ…」
「あら、母さんが剣道の有段者だって事はご存じないのかしら?」
「知ってますよ…」
伊織が糸と拓馬を嬉しそうに見ていた。この家族ってみんな仲が良くて強いんだ…と、うらやましく思えた。僕の家は…。
「伊織?どうした?」
「え?いや、その…。僕の家と違って仲が良くてうらやましいなって…」
拓馬は糸を見た。
「母さん!伊織、記憶が…」
「そうよ。思い出したのよ。あなたと出会った時の写真のおかげでね♡」
「そうなのか?伊織」
伊織はちゃんと拓馬を覚えていた。拓馬が伊織を見初めたとき、同時に伊織は拓馬に恋をしていた。拓馬が囁いた言葉も、伊織は忘れずに覚えていた。と言うより、忘れることが出来ないでいた。
「はい。僕はあの時、拓馬さんが僕の花束を綺麗だねって言ってくれたことを…」
「ん?言ってくれたことを?」
伊織は恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながらこう言った。
「花束じゃなくて、僕に言ってくれたような気がして…。忘れられなかったんです…」
ああ!言っちゃった!と恥ずかしくてほんとに穴があったら入りたいと思った。
見ると、拓馬が真っ赤な顔をしていた。
「拓馬?あなた、ほんとに伊織くんに綺麗だねってって言ってたんでしょ!」
拓馬はそっぽを向いたが、耳から首まで真っ赤になっていた。
「聞こえてないと思ってた…」
糸は呆れた顔で、
「キザね~(笑)」
と、鼻で笑った。
…………………………………………………………………
一頃の騒ぎが収まり、住宅街にいつもの平穏が戻ったように見えた。けれど、糸の家を鋭い眼差しで見つめる一人の若い男の姿があった。
「俺は、父をないがしろにしたあの家が許せない…。伊織にも父さんと同じ絶望を味わわせてやる…」
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