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パパラッチと女優の卵
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撮った写真に扇情的な見出し。
大手芸能事務所社長が売春斡旋か?!
春をひさいでいたのは社長に脅されていた女性達。社長の手口は卑劣そのものだった。
恋人として付き合っていた時に無断で行為中の写真を撮り、それをネタに脅していた。売られる先は大物政治家や大企業幹部など。内部情報が流出し、取材した人数は数十人。現政権を揺るがす大スキャンダルとなった…。
「社長は今、どこにいるんだ?」
「雲隠れしているらしいよ」
「所属していた人はどうするんだ?」
「優作…。その人達の力になってくれないか?」
「いいよ。俺の知ってる奴にも声かけるよ。これ以上スキャンダルの餌食にならないようにしてやりたいよな」
内部情報を芹にもたらしたのは禮だった。
「これ…。尚美さんや黒木さん達を助けるのに役に立つと思います」
禮が差し出したのは、小さなUSBメモリー。
「何が入っているんです?」
「社長の部屋のパソコンの…。中を見たら、名簿でした。あと、契約書…。個人的に呼び出さないようにとか、他言無用とか色々…。」
それによると、新規の客は紹介のみで、どちらかが契約を破ったら両方契約破棄。もし、マスコミに嗅ぎつけられても一切関与しない。
厳しい条件でもこれだけの顧客を抱えられたのは、それだけ上玉が揃ってるからなのか?
「社長のパソコンのパスワード。何だったか分かります?」
パスワード破って手に入れたのか…。
「私、もしかしたら私の誕生日だったらいいなって思ってました。そしたら、データを抜き取るのはやめようって(笑)」
いたずらっ子のように目尻を下げた。
「でも、やっぱり違いました」
「パスワードなんてなかなか分かんないし、ロックかかったらバレる。よくロックかからないで済んだね?」
禮は微笑んだ。つい最近まで蕾だった少女は、いつの間にこんなに大人な美しい笑顔を見せるようになったのか…。
「あの人に聞いたんです。千聖さんのこと。そうしたら、嘘はつかなかったけれど肝心な事は何も教えてくれませんでした」
終わった恋を思い出す女の顔をした。
「あの人は千聖さんを愛してる。心の中には千聖さんしか居なかったんです」
「でも…。あの人は千聖を売った…。」
「鴨川さんを愛したからなんじゃないんですか?」
「えっ?」
「千聖さんが自分以外の男を愛したから、許せなかったんじゃないんですか?」
そうなんだろうか?俺はそんなに千聖に非道いことをしていたのか…。
「パスワード。千聖さんの生年月日でした。解除したとき、私の中で何かが終わったんです…」
「あの人は今、どこに居るんだ?」
「さぁ…。でも、会いたい人は千聖さん…だけじゃないのかな?」
この子は知らなくていいことを知ってしまったがために、急速に大人になっていた。大人にならなければ、ぬるま湯のような温かさだけでは、もう我慢できなかったんだろう…。あの人に手を伸ばしてもらいたかった。熱く抱き締められて、全てを奪ってもらいたかった。
「私…。信じたかったんです。私の目の前に居るあの人を。私の目に映る姿が真実の姿だと思いたかった…」
禮は俺に頭を下げた。下を向いた時、アスファルトに丸いシミが一つ出来た。
「人は一面だけを見ても分からない…。でも、自分が見たい物しか見えないのは、別に悪いことじゃない」
「でも、私は一度もそういう風にならなかった…」
「それは、本当に君を大事だと思ったからこそ、手を出せなかったんじゃないかって思う」
禮は俺の目をまっすぐに見つめた。そして可笑しそうに笑った。
「鴨川さんって…。パパラッチらしくない(笑)」
「え?」
「意外と…ロマンチックなこと言うんですね(笑)」
意外とは余計だ。
「ごめんなさい。私…。いつか鴨川さんの被写体になれるように頑張ります。…。パパラッチ…なんてお辞めになったらいかがですか?」
ペコッと頭を下げると、一度も振り返ることなく人混みに消えていった。俺はその奇跡のような美しい背中が堂々とこの世界の真ん中を歩いていくのが見えたような気がした。
…………………………………………………………
「千聖…。もうこれで最後だ。もう会いに来られなくなったんだ」
「…?」
薄暗い病室で伊能は千聖に別れを告げに来ていた。
「お前を売った時から、こういう日がいつかは来ると思っていたんだ」
こんなあくどい商売。カネにはなるが、続くわけないと思っていた。世間にバレる日が必ず来る。バカな男達は自業自得だがな。俺も含めて。
「千聖。最後だから言っておくよ。…俺はお前を愛してた。多分、お前だけが特別だったんだ…。人を愛するって事が俺には分からなかった。お前を失って怒りが治まらなくなった時、気付けばよかった。他の男を愛してる千聖を許せなかったのは、俺のプライドを傷つけられたからじゃなく、ただ、失うのが怖かったからだったんだ…」
千聖は俺の手を握った。いつものふわりと優しい握り方ではなく、絶対に離さないという意思のこもった力強い握り方。
「千聖?」
千聖は俺の顔をまっすぐ見つめていた。その目には怒りが込められているように見える。
「ちさ?お前…」
「さいご…?」
ずっと言葉を発してなかったからか、声の出し方を忘れてしまったようで、掠れた囁きが聞こえた。
「ゆるさない…」
「ちさ?思い出したのか?」
「こう…すけ?」
俺の名前を呼んだ千聖は、はっきりとした意思を取り戻していた。
「こうすけ…」
「なに?」
「ひとりで…どこにいくの…?」
「ああ。…静かな所に。誰も来ない、誰にも見つからない所」
千聖はゆるさないと言ったその口で、俺が欲しかった言葉をくれた。
「こうすけ…。あいしてた」
「うん」
「きらいだったけど…あいしてたの」
伊能は千聖を抱き締めていた。その体はかつての柔らかさを失い、薄く骨張った心許ない感触だった。少し力を込めたら折れそうだ。
「済まなかった。もっと大切にしたかった。…俺はお前だけが特別だって気付けなかった。いろんな女に手を出して、お前を傷つけた。お前をよその男に抱かせてしまった…。そんなこと…。ホントはしたくなかった。俺だけのものにしておけばよかった…」
「あなたは…わたしをあいしてたの?」
「そうだ。愛してた」
「とくべつ?」
「特別だ。お前だけを愛してた」
千聖は俺の背中のシャツをきゅっと掴んだ。
「わたしも…つれていって?」
「分かってるのか?」
「もう…はなれるのはイヤなの」
伊能は千聖の痩せた体に力を込めた。
大手芸能事務所社長が売春斡旋か?!
春をひさいでいたのは社長に脅されていた女性達。社長の手口は卑劣そのものだった。
恋人として付き合っていた時に無断で行為中の写真を撮り、それをネタに脅していた。売られる先は大物政治家や大企業幹部など。内部情報が流出し、取材した人数は数十人。現政権を揺るがす大スキャンダルとなった…。
「社長は今、どこにいるんだ?」
「雲隠れしているらしいよ」
「所属していた人はどうするんだ?」
「優作…。その人達の力になってくれないか?」
「いいよ。俺の知ってる奴にも声かけるよ。これ以上スキャンダルの餌食にならないようにしてやりたいよな」
内部情報を芹にもたらしたのは禮だった。
「これ…。尚美さんや黒木さん達を助けるのに役に立つと思います」
禮が差し出したのは、小さなUSBメモリー。
「何が入っているんです?」
「社長の部屋のパソコンの…。中を見たら、名簿でした。あと、契約書…。個人的に呼び出さないようにとか、他言無用とか色々…。」
それによると、新規の客は紹介のみで、どちらかが契約を破ったら両方契約破棄。もし、マスコミに嗅ぎつけられても一切関与しない。
厳しい条件でもこれだけの顧客を抱えられたのは、それだけ上玉が揃ってるからなのか?
「社長のパソコンのパスワード。何だったか分かります?」
パスワード破って手に入れたのか…。
「私、もしかしたら私の誕生日だったらいいなって思ってました。そしたら、データを抜き取るのはやめようって(笑)」
いたずらっ子のように目尻を下げた。
「でも、やっぱり違いました」
「パスワードなんてなかなか分かんないし、ロックかかったらバレる。よくロックかからないで済んだね?」
禮は微笑んだ。つい最近まで蕾だった少女は、いつの間にこんなに大人な美しい笑顔を見せるようになったのか…。
「あの人に聞いたんです。千聖さんのこと。そうしたら、嘘はつかなかったけれど肝心な事は何も教えてくれませんでした」
終わった恋を思い出す女の顔をした。
「あの人は千聖さんを愛してる。心の中には千聖さんしか居なかったんです」
「でも…。あの人は千聖を売った…。」
「鴨川さんを愛したからなんじゃないんですか?」
「えっ?」
「千聖さんが自分以外の男を愛したから、許せなかったんじゃないんですか?」
そうなんだろうか?俺はそんなに千聖に非道いことをしていたのか…。
「パスワード。千聖さんの生年月日でした。解除したとき、私の中で何かが終わったんです…」
「あの人は今、どこに居るんだ?」
「さぁ…。でも、会いたい人は千聖さん…だけじゃないのかな?」
この子は知らなくていいことを知ってしまったがために、急速に大人になっていた。大人にならなければ、ぬるま湯のような温かさだけでは、もう我慢できなかったんだろう…。あの人に手を伸ばしてもらいたかった。熱く抱き締められて、全てを奪ってもらいたかった。
「私…。信じたかったんです。私の目の前に居るあの人を。私の目に映る姿が真実の姿だと思いたかった…」
禮は俺に頭を下げた。下を向いた時、アスファルトに丸いシミが一つ出来た。
「人は一面だけを見ても分からない…。でも、自分が見たい物しか見えないのは、別に悪いことじゃない」
「でも、私は一度もそういう風にならなかった…」
「それは、本当に君を大事だと思ったからこそ、手を出せなかったんじゃないかって思う」
禮は俺の目をまっすぐに見つめた。そして可笑しそうに笑った。
「鴨川さんって…。パパラッチらしくない(笑)」
「え?」
「意外と…ロマンチックなこと言うんですね(笑)」
意外とは余計だ。
「ごめんなさい。私…。いつか鴨川さんの被写体になれるように頑張ります。…。パパラッチ…なんてお辞めになったらいかがですか?」
ペコッと頭を下げると、一度も振り返ることなく人混みに消えていった。俺はその奇跡のような美しい背中が堂々とこの世界の真ん中を歩いていくのが見えたような気がした。
…………………………………………………………
「千聖…。もうこれで最後だ。もう会いに来られなくなったんだ」
「…?」
薄暗い病室で伊能は千聖に別れを告げに来ていた。
「お前を売った時から、こういう日がいつかは来ると思っていたんだ」
こんなあくどい商売。カネにはなるが、続くわけないと思っていた。世間にバレる日が必ず来る。バカな男達は自業自得だがな。俺も含めて。
「千聖。最後だから言っておくよ。…俺はお前を愛してた。多分、お前だけが特別だったんだ…。人を愛するって事が俺には分からなかった。お前を失って怒りが治まらなくなった時、気付けばよかった。他の男を愛してる千聖を許せなかったのは、俺のプライドを傷つけられたからじゃなく、ただ、失うのが怖かったからだったんだ…」
千聖は俺の手を握った。いつものふわりと優しい握り方ではなく、絶対に離さないという意思のこもった力強い握り方。
「千聖?」
千聖は俺の顔をまっすぐ見つめていた。その目には怒りが込められているように見える。
「ちさ?お前…」
「さいご…?」
ずっと言葉を発してなかったからか、声の出し方を忘れてしまったようで、掠れた囁きが聞こえた。
「ゆるさない…」
「ちさ?思い出したのか?」
「こう…すけ?」
俺の名前を呼んだ千聖は、はっきりとした意思を取り戻していた。
「こうすけ…」
「なに?」
「ひとりで…どこにいくの…?」
「ああ。…静かな所に。誰も来ない、誰にも見つからない所」
千聖はゆるさないと言ったその口で、俺が欲しかった言葉をくれた。
「こうすけ…。あいしてた」
「うん」
「きらいだったけど…あいしてたの」
伊能は千聖を抱き締めていた。その体はかつての柔らかさを失い、薄く骨張った心許ない感触だった。少し力を込めたら折れそうだ。
「済まなかった。もっと大切にしたかった。…俺はお前だけが特別だって気付けなかった。いろんな女に手を出して、お前を傷つけた。お前をよその男に抱かせてしまった…。そんなこと…。ホントはしたくなかった。俺だけのものにしておけばよかった…」
「あなたは…わたしをあいしてたの?」
「そうだ。愛してた」
「とくべつ?」
「特別だ。お前だけを愛してた」
千聖は俺の背中のシャツをきゅっと掴んだ。
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