21 / 30
嫌味な男
しおりを挟む
優作は本人に会いに行った。
「永山さんですね?初めまして。弁護士の五代と申します」
「五代さん。よろしくお願いします。永山大毅と申します」
病院のベッドの上で俺を迎えてくれた永山さんは、ほっそりとした優しい感じの男性だった。
「お加減はいかがですか?」
「ええ。だいぶ落ち着いています」
笑顔は見せたが、少し手が震えている。これが治らないと復帰は難しいだろうな…。
「恥ずかしいですよね。手が震えちゃって…。これじゃ、相手になめられちゃいますね(笑)」
俺の表情を読んだのか、永山さんは頭を掻きながら照れたように笑った。俺には、その笑った顔が泣いているようにしか見えなかった。
「あなたはいい検事になれる」
「えっ?」
唐突に言った俺の言葉に、永山さんは自分の耳がおかしくなったのかと聞き返してきた。
「いや、私もね、ご存じだと思いますが検事だったんです」
「えっ?そうなんですか…」
「私が辞めた原因。それはあなたにも関係あることなんですよ」
この人はさっきから何を言ってるのか…。自分がヤメ検で、しかも辞めた原因が僕に関係する?
「混乱させてしまいましたね。ご家族があなたを職場に復帰させてあげたいと仰っていました」
「でも、僕は…。ダメな検事なんです。出来が悪くて半人前なんです…」
すっかり自信を無くして背中を丸めていた。
「あなたは半人前なんかではありませんよ」
永山さんは俺が何も知らないくせに適当に慰めようとしているのかと訝っていた。
「私は安易な慰めなど言いませんよ(笑)」
「でも…。僕はあなたに今日初めて会ったんですよ?」
「私が何の準備もせずに依頼人に会いに来ると思いますか?」
「?」
「こいつはさっきから何を言ってるんだ?とお思いですね(笑)」
「いえ…。そんなことは」
「いいんですよ。でもですね、あなたが自分で仰っているような事はないんです。あなたはいい検事になれる人です」
「だから!」
永山さんは自分の言うことをことごとく否定され、さすがに頭にきたらしく、食ってかかってきた。
「俺はダメな人間なんだよ!こんな病気になって、仕事も出来ない…。死ぬしかないんだ!」
「そんなことはありません」
「俺の何を知ってるって言うんだ!俺は…」
「私はここに来るまでにあなたの周りの方に話を聞いてきました。あなたは半人前なんかではありません。私の同期があなたを知っていました。よく出来る人だと言っていました。なんであんなに責められるのか分からないと言っていたんです」
俺は初めて自分の気持ちを吐き出した永山さんとやっと向き合えると思った。
「一人の人間があなたを半人前といったかもしれない。でも、それが真実だとは限らない。偏った考え方をする人間に言われたことを鵜呑みにしちゃいけません!」
「…。」
「死のうとするなんてもったいない。お願いです。生きて下さい…」
俺はこんな人間だったんだろうか?永山さんの姿が弘樹と重なった。弘樹が俺に笑いかけていた。
「あの…。なんで…?」
俺は涙を零していた。人前で泣いたのは…芹のせいだな(笑)
「俺が検事だったって最初に言いましたよね?辞めた理由があなたと関係あると」
「ええ」
俺は弘樹に謝った。お前のこと、この人に話してもいいかな?
「俺の一番大切な友人が自殺してしまったんですよ。あなたと同じように追い詰められて」
「えっ?」
俺は永山さんにヤメ検になったいきさつを話した。
「それじゃ…。私と同じような人が他にも?」
「ええ。あなたや私の友人のように実行に移すまでの人は多くはないけれど、それでも普通に戻るまで時間がかかったという方はいます。私は証言を集めているんですよ」
同期のつてを辿って、ひとりひとり探して会いに行った。大体が似たような経緯を辿っていた。自分に刃向かわない、真面目で出来のいい人。会った中で、半人前と思われるような人は居なかった。もったいないと言われるような人間性を持った人が、理不尽なパワハラの犠牲になっていた。
「声が大きくて、うまく立ち回れる人間が偉くなるなんて、おかしな話だと私は思います」
永山さんの目に少し力が戻ったのは気のせいだろうか?
「あなたはいい検事になれると私は思います。あなたの使っていた手帳やファイルを見せて頂きました。常に勉強し、向学心に溢れている。あなたの周りの人はあなたは正義感が強く、高潔な精神を持った人だと言っていました。今は確かに弱っているかもしれない。でも、この経験はあなたをより一層深くしてくれると思います」
永山さんはフウッと深く息を吐いた。何か悪い物を吐き出すように…。
「今は少し休憩が必要だったんです。入ったばかりで、うまく育ててくれる人間に恵まれなかった。でも、あなたはこの休憩が終わったら、一回り大きな人間になって、あの職場に戻るはずです」
永山さんの顔に少し生気が戻ってきたように見えた。
「五代さんは…。本当にそう思っているんですか?」
「ええ。私は忖度などするような人間じゃないです」
俺はそんなに人の気持ちを推し量ったりしない。いや、しなかった…と言った方がいいかな?
「思ったことをそのまま言ったまでです(笑)」
「失礼なこと、言うようですが…。あなたは結構有名な弁護士ですよね?」
「ええ。金にならないことはしない…」
「この案件、そんなに儲からないですよ(笑)」
「ええ。他で稼ぐからいいんですよ(笑)」
永山さんが可笑しそうに笑った。少し目が潤むほど。
「笑うと元気になりますね(笑)」
「ええ。顔つきが変わっていい感じですよ(笑)」
永山さんは、口角をキュッと上に上げて俺を見た。その目は力強さを取り戻していた。
「もう、僕のような思いをする人が出ないように…。」
「はい。私もそう思います」
この瞬間、俺達は一緒に戦う同志になった。
「永山さんですね?初めまして。弁護士の五代と申します」
「五代さん。よろしくお願いします。永山大毅と申します」
病院のベッドの上で俺を迎えてくれた永山さんは、ほっそりとした優しい感じの男性だった。
「お加減はいかがですか?」
「ええ。だいぶ落ち着いています」
笑顔は見せたが、少し手が震えている。これが治らないと復帰は難しいだろうな…。
「恥ずかしいですよね。手が震えちゃって…。これじゃ、相手になめられちゃいますね(笑)」
俺の表情を読んだのか、永山さんは頭を掻きながら照れたように笑った。俺には、その笑った顔が泣いているようにしか見えなかった。
「あなたはいい検事になれる」
「えっ?」
唐突に言った俺の言葉に、永山さんは自分の耳がおかしくなったのかと聞き返してきた。
「いや、私もね、ご存じだと思いますが検事だったんです」
「えっ?そうなんですか…」
「私が辞めた原因。それはあなたにも関係あることなんですよ」
この人はさっきから何を言ってるのか…。自分がヤメ検で、しかも辞めた原因が僕に関係する?
「混乱させてしまいましたね。ご家族があなたを職場に復帰させてあげたいと仰っていました」
「でも、僕は…。ダメな検事なんです。出来が悪くて半人前なんです…」
すっかり自信を無くして背中を丸めていた。
「あなたは半人前なんかではありませんよ」
永山さんは俺が何も知らないくせに適当に慰めようとしているのかと訝っていた。
「私は安易な慰めなど言いませんよ(笑)」
「でも…。僕はあなたに今日初めて会ったんですよ?」
「私が何の準備もせずに依頼人に会いに来ると思いますか?」
「?」
「こいつはさっきから何を言ってるんだ?とお思いですね(笑)」
「いえ…。そんなことは」
「いいんですよ。でもですね、あなたが自分で仰っているような事はないんです。あなたはいい検事になれる人です」
「だから!」
永山さんは自分の言うことをことごとく否定され、さすがに頭にきたらしく、食ってかかってきた。
「俺はダメな人間なんだよ!こんな病気になって、仕事も出来ない…。死ぬしかないんだ!」
「そんなことはありません」
「俺の何を知ってるって言うんだ!俺は…」
「私はここに来るまでにあなたの周りの方に話を聞いてきました。あなたは半人前なんかではありません。私の同期があなたを知っていました。よく出来る人だと言っていました。なんであんなに責められるのか分からないと言っていたんです」
俺は初めて自分の気持ちを吐き出した永山さんとやっと向き合えると思った。
「一人の人間があなたを半人前といったかもしれない。でも、それが真実だとは限らない。偏った考え方をする人間に言われたことを鵜呑みにしちゃいけません!」
「…。」
「死のうとするなんてもったいない。お願いです。生きて下さい…」
俺はこんな人間だったんだろうか?永山さんの姿が弘樹と重なった。弘樹が俺に笑いかけていた。
「あの…。なんで…?」
俺は涙を零していた。人前で泣いたのは…芹のせいだな(笑)
「俺が検事だったって最初に言いましたよね?辞めた理由があなたと関係あると」
「ええ」
俺は弘樹に謝った。お前のこと、この人に話してもいいかな?
「俺の一番大切な友人が自殺してしまったんですよ。あなたと同じように追い詰められて」
「えっ?」
俺は永山さんにヤメ検になったいきさつを話した。
「それじゃ…。私と同じような人が他にも?」
「ええ。あなたや私の友人のように実行に移すまでの人は多くはないけれど、それでも普通に戻るまで時間がかかったという方はいます。私は証言を集めているんですよ」
同期のつてを辿って、ひとりひとり探して会いに行った。大体が似たような経緯を辿っていた。自分に刃向かわない、真面目で出来のいい人。会った中で、半人前と思われるような人は居なかった。もったいないと言われるような人間性を持った人が、理不尽なパワハラの犠牲になっていた。
「声が大きくて、うまく立ち回れる人間が偉くなるなんて、おかしな話だと私は思います」
永山さんの目に少し力が戻ったのは気のせいだろうか?
「あなたはいい検事になれると私は思います。あなたの使っていた手帳やファイルを見せて頂きました。常に勉強し、向学心に溢れている。あなたの周りの人はあなたは正義感が強く、高潔な精神を持った人だと言っていました。今は確かに弱っているかもしれない。でも、この経験はあなたをより一層深くしてくれると思います」
永山さんはフウッと深く息を吐いた。何か悪い物を吐き出すように…。
「今は少し休憩が必要だったんです。入ったばかりで、うまく育ててくれる人間に恵まれなかった。でも、あなたはこの休憩が終わったら、一回り大きな人間になって、あの職場に戻るはずです」
永山さんの顔に少し生気が戻ってきたように見えた。
「五代さんは…。本当にそう思っているんですか?」
「ええ。私は忖度などするような人間じゃないです」
俺はそんなに人の気持ちを推し量ったりしない。いや、しなかった…と言った方がいいかな?
「思ったことをそのまま言ったまでです(笑)」
「失礼なこと、言うようですが…。あなたは結構有名な弁護士ですよね?」
「ええ。金にならないことはしない…」
「この案件、そんなに儲からないですよ(笑)」
「ええ。他で稼ぐからいいんですよ(笑)」
永山さんが可笑しそうに笑った。少し目が潤むほど。
「笑うと元気になりますね(笑)」
「ええ。顔つきが変わっていい感じですよ(笑)」
永山さんは、口角をキュッと上に上げて俺を見た。その目は力強さを取り戻していた。
「もう、僕のような思いをする人が出ないように…。」
「はい。私もそう思います」
この瞬間、俺達は一緒に戦う同志になった。
0
あなたにおすすめの小説
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる