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憧れ
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私はこの人の何を見ていたんだろう…。
鴨川さんと尚美さん、黒木さんと話した。限られた時間の中で、三人が受けた傷を包み隠さず晒してくれた。
初めはとても信じられなかった。私の前ではとても紳士的な人だったから。
私が好きだというのは、社長も分かっているようだった。マネージャーを先に帰し、ホテルのバーで一日の疲れを労ってくれた彼はとても優しかった。そのまま部屋を取るのかと少し期待していたけれど、さすがに商品に手をつけるわけにいかないのか、タクシーに乗せられ、そのままマンションまで送ってくれた。
「あの…。お疲れさまでした」
「ゆっくり休んで。明日も早いからね」
じゃあまた明日と、マンションに入るまで見守り帰って行った。
「あなたは千聖さんの時と同じように、社長が付きっきりで育てられているわね」
「はい。でも、何もされてません」
「そう…。あなたは社長を、男性として好意を持ってる?」
「…」
「あなたはまだ若い。これからの未来の方が長いわ」
尚美さんは特に止めることもしなかった。人の気持ちまでは変えられないから…?
「あの…社長。千聖さんは…。最近お仕事でお見かけしませんが…」
「ああ。ちょっとね、体調を崩して休んでいるんだよ」
社長は復帰できない千聖さんのことを、何となく誤魔化そうとしているのかな…。
「そうなんですか…」
「禮は千聖に憧れてこの世界に入ったんだったね」
「はい、昔からファンで…。この世界に入ろうと思ったきっかけも、千聖さんの映画を観たからなんです」
「今、千聖はだいぶ弱っているから…。面会謝絶なんだよ。実は…」
「えっ?」
禮は知らないふりを通すことにした。ショックを受けているように見えるだろうか…。
「だから、私が様子を見に行った時に伝えておくよ」
「はい…」
残念そうに振る舞った。実際会えそうもない事を残念に思ったが、この人は嘘はついていない。肝心な事は口にしないけれど…。
「そろそろレッスンの時間だね。頑張って」
頭に大きな手を乗せられた。まるで子供扱い…。
私は30も上のこの人に憧れ、好意を抱いていた。そして、この人が千聖さんを愛していることも分かってしまっていた。
「何も覚えていないのか…。ある意味幸せかもしれないな」
千聖を見舞っていた伊能は、千聖を海の見える芝生まで連れてきていた。
「いつもここで海を見ているんですよ。よほど気に入ったんでしょうね」
千聖に付いている看護師が言っていた。
そうだろうか。崖の上に建つこの診療所からの眺めは抜群だった。だが一歩手すりを乗り越えたら、死体も上がらない断崖絶壁だった。
「千聖?お前…全てを思い出したら、ここから飛ぼうとするんじゃないのか?」
遠くの海と空の境目が分からないほど、海は美しい紺碧に輝いていた。きっとあそこに飛び込めば、もっと美しい景色に出会えそうな気がする。
「お前は美しいな。俺はお前を見ているのが好きだった」
演技をしていてカットがかかってふと我に返る瞬間、現場で見守る俺を見つけて駆け寄ってきた。あの頃が懐かしい…。
「俺が懐かしむなんて、年を取ったんだな(笑)」
独り笑う俺を見て、千聖は無垢な笑顔を寄越す。手を伸ばしてきて俺の手を握り、俺の顔を覗き込む。
「俺は…。お前を愛していたのかな…?」
何を言っているのかはもう理解していないはずなのに、嬉しそうに俺を見て笑う千聖は幼い子供のようだった。
「もう傷つく事もないね。これで良かったのかもしれないな」
千聖は気が済むまで海を見ていた。俺の手を握ったままで…。
鴨川さんと尚美さん、黒木さんと話した。限られた時間の中で、三人が受けた傷を包み隠さず晒してくれた。
初めはとても信じられなかった。私の前ではとても紳士的な人だったから。
私が好きだというのは、社長も分かっているようだった。マネージャーを先に帰し、ホテルのバーで一日の疲れを労ってくれた彼はとても優しかった。そのまま部屋を取るのかと少し期待していたけれど、さすがに商品に手をつけるわけにいかないのか、タクシーに乗せられ、そのままマンションまで送ってくれた。
「あの…。お疲れさまでした」
「ゆっくり休んで。明日も早いからね」
じゃあまた明日と、マンションに入るまで見守り帰って行った。
「あなたは千聖さんの時と同じように、社長が付きっきりで育てられているわね」
「はい。でも、何もされてません」
「そう…。あなたは社長を、男性として好意を持ってる?」
「…」
「あなたはまだ若い。これからの未来の方が長いわ」
尚美さんは特に止めることもしなかった。人の気持ちまでは変えられないから…?
「あの…社長。千聖さんは…。最近お仕事でお見かけしませんが…」
「ああ。ちょっとね、体調を崩して休んでいるんだよ」
社長は復帰できない千聖さんのことを、何となく誤魔化そうとしているのかな…。
「そうなんですか…」
「禮は千聖に憧れてこの世界に入ったんだったね」
「はい、昔からファンで…。この世界に入ろうと思ったきっかけも、千聖さんの映画を観たからなんです」
「今、千聖はだいぶ弱っているから…。面会謝絶なんだよ。実は…」
「えっ?」
禮は知らないふりを通すことにした。ショックを受けているように見えるだろうか…。
「だから、私が様子を見に行った時に伝えておくよ」
「はい…」
残念そうに振る舞った。実際会えそうもない事を残念に思ったが、この人は嘘はついていない。肝心な事は口にしないけれど…。
「そろそろレッスンの時間だね。頑張って」
頭に大きな手を乗せられた。まるで子供扱い…。
私は30も上のこの人に憧れ、好意を抱いていた。そして、この人が千聖さんを愛していることも分かってしまっていた。
「何も覚えていないのか…。ある意味幸せかもしれないな」
千聖を見舞っていた伊能は、千聖を海の見える芝生まで連れてきていた。
「いつもここで海を見ているんですよ。よほど気に入ったんでしょうね」
千聖に付いている看護師が言っていた。
そうだろうか。崖の上に建つこの診療所からの眺めは抜群だった。だが一歩手すりを乗り越えたら、死体も上がらない断崖絶壁だった。
「千聖?お前…全てを思い出したら、ここから飛ぼうとするんじゃないのか?」
遠くの海と空の境目が分からないほど、海は美しい紺碧に輝いていた。きっとあそこに飛び込めば、もっと美しい景色に出会えそうな気がする。
「お前は美しいな。俺はお前を見ているのが好きだった」
演技をしていてカットがかかってふと我に返る瞬間、現場で見守る俺を見つけて駆け寄ってきた。あの頃が懐かしい…。
「俺が懐かしむなんて、年を取ったんだな(笑)」
独り笑う俺を見て、千聖は無垢な笑顔を寄越す。手を伸ばしてきて俺の手を握り、俺の顔を覗き込む。
「俺は…。お前を愛していたのかな…?」
何を言っているのかはもう理解していないはずなのに、嬉しそうに俺を見て笑う千聖は幼い子供のようだった。
「もう傷つく事もないね。これで良かったのかもしれないな」
千聖は気が済むまで海を見ていた。俺の手を握ったままで…。
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