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門出
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「おはよ、芹。ごはん出来てるぞ」
いつまでも寝室から出てこない芹を優作が呼びに来た。
「目が開かない…」
「そりゃそうだろ。あんだけ泣いたら(笑)」
芹の顔を見て、優作は思わず吹き出した。
「ぷっ」
「何だよ」
「鏡見てこいよ。腫れまくってる(笑)」
「笑うことないだろ!」
「すまんすまん(笑)」
「全くもう…」
バスルームに行った芹がタオルで目を抑えて出て来た。
「すごかった(笑)」
「だろ?」
「笑うのも…しゃーないな(笑)」
不細工な顔で笑う芹に、優作は冷たくしたタオルを渡した。
「その顔だったら…手出さなかったよ(笑)」
「ひでーな!」
「嘘だよ(笑)。ほら、飯!食べよう」
「相変わらずマメだな」
レタスとハム、フワフワの厚焼き玉子が挟まったサンドイッチに、野菜たっぷりのミネストローネ、マグカップになみなみと淹れられたコーヒー付き。
「喫茶店のモーニングみたい(笑)」
「なんか、パンの気分だったんだよな(笑)」
「コーヒー嬉しいよ。飲みたかったんだ(笑)」
両手でカップを大事そうに抱えて、コーヒーの香りを鼻の奥まで吸い込む芹を見て、優作は内心ホッとしていた。昨日の様子だと、今朝は元気がないだろうなと思っていた。でも、案外元気そうだ。
「芹、大丈夫か?」
心配そうに顔を覗き込む優作に、芹は笑った。
「ホントにドSの人でなしはどこに行ったんだよ(笑)」
「まだどっかにいるよ(笑)」
「嘘だぁ!元々人でなしなんかじゃないだろ?」
「うーん…」
「あはははは(笑)」
ムリをしてる様子はなさそうだ。優作は芹の髪に手を差し込み、クシャッと可愛がるように撫でた。
「おなかすいたろ?昨日あんまり食べてなかったみたいだし」
「うん!めっちゃ腹減ってる(笑)」
芹は嬉しそうに優作の作ったサンドイッチを頬張っている。勢いよく食べ過ぎて喉に詰まらせ、けほけほしている芹の背中を優作は優しく叩きながら、
「ゆっくり食べなさい(笑)」
と呆れていた。
「美味しいんだもん」
「俺のも食べる?」
「お前もちゃんと食べないと…。力出ないぞ(笑)」
「はいはい(笑)」
芹が笑ってるだけで幸せだと思った。普通の朝の光景が、こんなに愛おしいものだとは知らなかったな。
「なぁ、優作の方も始まるんだろ?」
「ああ」
永山大毅はきっと検察に戻る。俺がその手助けをするんだ。あんな奴のパワハラ…。二度と手出し出来なくしないと。
「証言は集まったの?」
「ああ。もちろん。しっかり準備して、あいつにぎゃふんと言わせる!」
検事を辞めて弁護士として働いている人、未だに病気療養中の人、会ってくれる人にはアポを取らせて貰って全員会ってきた。記録していた日記や録音など、提供してもらえるのは全部の集めて整理した。
『あの子は半人前なんでしょうか…?』
永山の母親の顔が浮かんだ。
「半人前なんてとんでもない。優秀だよ。辞めるなんて…検察にとっての損害だ」
……………………………………………………
「どういう事です?私はパワハラなんてしていませんよ(笑)」
自覚がないって言うのは、タチが悪い。
「実際問題、あなたの言動で追い詰められて療養中だったんです」
「ですから、私は上司として指導していただけであって」
相手側の弁護士も口を出してきた。
「パワハラというのは、どのような証拠に基づいて仰ってるんです?出来の悪い人間にちょっと強く言ったらパワハラ?そんなことばかり言われたら、上司として指導なんて出来ませんよ」
俺はどこまでも自分を正当化するこの男に呆れていた。お前のは指導なんかじゃなかった。ただの難癖だ。
「そこまで仰るのなら、こちらもそろそろ本気を出して…宜しいですか?」
ニヤッと笑う俺の顔に、相手側の目が少しだけ泳いだのが分かった。
まずは手帳に記された言葉の数々。
『5月17日、報告書を突き返される。すぐ上の人には大丈夫だと印をもらえたが、なんだこの書類は!いつまでこんな書き方してるんだ!と皆の前で叱責。先輩に教えてもらって、これなら大丈夫だと言われるまで直したのに。先輩もおかしいなと言っていた。だってこのやり方、部署共通だし、前回はこれで通ったのに…。僕にも分からない。虫の居所が悪かったのか?』
『5月19日。一昨日の書類は通った。さして直してはいないが、先輩が口添えしてくれたら何も言われずスルー。ホッとしたけど、何が悪かったんだ?』
『5月23日。まただ。僕だけ怒られる。先輩はお前は特に悪くないんだけどなと言ってくれた。嫌われてるのかな?』
『5月30日。資料室の整理をしろと缶詰。時々、先輩や課長が見に来てくれた。でも、必要なのか?もうデータベース化されてるものを並べる仕事なんて。そもそもそんなに乱れてもいない資料を、中身を確認して分類しろだなんて…。自分の仕事も終わってない。これ必要?』
『電話の話し方がなってないと急に怒鳴られた。何を言われているのか分からなかった。親の躾がなってないと言われた。小学校からやり直したらどうだ?なんて。僕だってビジネスマナーは学んでる。周りの人に聞いてみた。そんなにダメでしたか?、と。そんなことないよと慰められた。でも、僕はなってないのかな…。電話を取るのが怖い』
「まだまだありますけど。そもそもそんな叱責が必要なレベルだったんでしょうか?ちゃんと他の人にみてもらった上で提出した書類です。あなたの下の方は印を押した。問題ないレベルの書類を皆の前で叱責する。資料室の整理させる。紙で書類を読むこと自体が少なくなってる今、データベース化されたものを敢えて並べ替えさせる。電話の取り方、取り次ぎ方をまた皆の前で叱責…。何かをやろうとする度に、あなたの顔色を窺うようになったと仰ってました。」
「書類は誤字脱字が多かったんだ!資料室の整理は、勉強になると思ったし、電話の出方はホントになってなかった!」
「じゃあ…。これ、聞いてもらえます?結構キツいですよ?」
相手側の弁護士にも、
「こういうモノの言い方は…。人権侵害行為に…。なりそうですが?」
ICレコーダから聞こえてきたのは、ただ虫の居所が悪い男が、言い返せない少し気の弱い人に対しての罵詈雑言だった。
「私は検察官になるのに必要な努力を知っています。私自身、一度は検察官を目指し、実際検察官になった」
まだ認めようとしないプライドの高そうな男の目をじっと見つめた。
「あなたは覚えていないかもしれない。同じように追い詰められて命を絶ってしまった男を」
「えっ?」
「私は、その男と一緒に検察官を目指し、夢を叶えた。あいつは…。半人前なんかじゃなかった。少なくとも俺より優秀だった。でも、あなたに連日心ない言葉を浴びせられ、過剰な残業をさせられた。どんどん疲弊していったあいつは…。ある日自分の住んでいたマンションで首をくくってしまった…」
男の顔から色が失われていった。隣にいた弁護士がついに止めに入った。
「あの!今はその話。関係ないですよね?永山大毅さんの件で話し合いを…」
「永山さんが病気になるまで追い詰められたのには、今までの蓄積があるんですよ。どうやら自覚されていないようなので…」
俺はリストを見せた。この男が追い詰めた人達のリストを。
「覚えていないとか…。言いませんよね?この方達は、検察をお辞めになったり、未だに病気療養中の方もいらっしゃいます。あなたの下で働いていた。あなたの言動で追い詰められて、傷ついてしまった人達です。全部まとめてありますけど…。お時間ありますか?全部…相手が悪いと仰いますか?出来の悪い人間だったと仰いますか?」
「俺は…」
「俺は?なんです?良いですよ。聞きましょう。延長しても構いませんよ?料金は発生しません。サービスしますから(笑)」
…………………………………………
話し合いは相手側の弁護士が示談を申し出てきた。それを受けるかどうかは相手側の出方次第。こちらはお金よりも、職場環境の是正が目的だと返してやった。
奴は話し合いの場に現れなかった。弁護士同士の話し合い。汚いよな。てめえのケツはてめえで拭きやがれ!
「で、そちらは…。永山さんが復帰した際、また同じような態度で改めないようでしたら…。こちらも傷つく覚悟で戦います。そのようにお伝え願えますか?」
弁護士は苦笑いしていた。
「だいぶ反省しているようですよ。確かにモノには言い方があります。言動を慎まれないと…。私も厳しいです」
反省だと?子供の使いみたいに弁護士に言わせてるクセに。
「反省…?口では何とでも言えます(笑)。子供の使いじゃないんですから…。誓約書でも…。書いてもらいましょうか?」
「いや、それは…。」
「冗談ですよ(笑)。でも…。同じような事がもし、また起きるようでしたら…。私は本気で戦ってみせますよ。本気でね」
「勘弁して下さいよ。私もあなたを本気で敵に回したくはありません」
「では…。この辺で」
…………………………………………
永山さんの病室に行った。手の震えはどうだろう?
「こんにちは、永山さん」
「あぁ、五代先生。どうでしたか?」
「示談を申し出てきましたよ。こちらはお金より、職場環境の是正が目的だと返しました」
「僕は…。戻れますか?」
永山さんの手はもう震えていなかった。
「ええ。もちろんです」
俺は永山さんの目を見て笑った。
「あなたを失うことは、検察にとっての損害ですから」
永山さんが笑った。
「そんな大げさな(笑)」
「大げさではありません。少なくとも私は…、私だけじゃありませんよ。周りの人達はそう思っています」
永山さんは微笑んだ。少しだけその目が光った。
「泣きそうです(笑)」
「感動して?」
「ええ(笑)」
俺達はお互いの目を見た。心からの尊敬を持って。
「期待してますよ。法廷で私と戦うときは…。手加減して下さい(笑)」
「ダメですよ(笑)」
「冗談ですよ。そんなことされなくても勝ちますから(笑)」
「負けませんよ(笑)」
俺達は握手を交わした。その手はもう震えることなく力強さを取り戻していた。
いつまでも寝室から出てこない芹を優作が呼びに来た。
「目が開かない…」
「そりゃそうだろ。あんだけ泣いたら(笑)」
芹の顔を見て、優作は思わず吹き出した。
「ぷっ」
「何だよ」
「鏡見てこいよ。腫れまくってる(笑)」
「笑うことないだろ!」
「すまんすまん(笑)」
「全くもう…」
バスルームに行った芹がタオルで目を抑えて出て来た。
「すごかった(笑)」
「だろ?」
「笑うのも…しゃーないな(笑)」
不細工な顔で笑う芹に、優作は冷たくしたタオルを渡した。
「その顔だったら…手出さなかったよ(笑)」
「ひでーな!」
「嘘だよ(笑)。ほら、飯!食べよう」
「相変わらずマメだな」
レタスとハム、フワフワの厚焼き玉子が挟まったサンドイッチに、野菜たっぷりのミネストローネ、マグカップになみなみと淹れられたコーヒー付き。
「喫茶店のモーニングみたい(笑)」
「なんか、パンの気分だったんだよな(笑)」
「コーヒー嬉しいよ。飲みたかったんだ(笑)」
両手でカップを大事そうに抱えて、コーヒーの香りを鼻の奥まで吸い込む芹を見て、優作は内心ホッとしていた。昨日の様子だと、今朝は元気がないだろうなと思っていた。でも、案外元気そうだ。
「芹、大丈夫か?」
心配そうに顔を覗き込む優作に、芹は笑った。
「ホントにドSの人でなしはどこに行ったんだよ(笑)」
「まだどっかにいるよ(笑)」
「嘘だぁ!元々人でなしなんかじゃないだろ?」
「うーん…」
「あはははは(笑)」
ムリをしてる様子はなさそうだ。優作は芹の髪に手を差し込み、クシャッと可愛がるように撫でた。
「おなかすいたろ?昨日あんまり食べてなかったみたいだし」
「うん!めっちゃ腹減ってる(笑)」
芹は嬉しそうに優作の作ったサンドイッチを頬張っている。勢いよく食べ過ぎて喉に詰まらせ、けほけほしている芹の背中を優作は優しく叩きながら、
「ゆっくり食べなさい(笑)」
と呆れていた。
「美味しいんだもん」
「俺のも食べる?」
「お前もちゃんと食べないと…。力出ないぞ(笑)」
「はいはい(笑)」
芹が笑ってるだけで幸せだと思った。普通の朝の光景が、こんなに愛おしいものだとは知らなかったな。
「なぁ、優作の方も始まるんだろ?」
「ああ」
永山大毅はきっと検察に戻る。俺がその手助けをするんだ。あんな奴のパワハラ…。二度と手出し出来なくしないと。
「証言は集まったの?」
「ああ。もちろん。しっかり準備して、あいつにぎゃふんと言わせる!」
検事を辞めて弁護士として働いている人、未だに病気療養中の人、会ってくれる人にはアポを取らせて貰って全員会ってきた。記録していた日記や録音など、提供してもらえるのは全部の集めて整理した。
『あの子は半人前なんでしょうか…?』
永山の母親の顔が浮かんだ。
「半人前なんてとんでもない。優秀だよ。辞めるなんて…検察にとっての損害だ」
……………………………………………………
「どういう事です?私はパワハラなんてしていませんよ(笑)」
自覚がないって言うのは、タチが悪い。
「実際問題、あなたの言動で追い詰められて療養中だったんです」
「ですから、私は上司として指導していただけであって」
相手側の弁護士も口を出してきた。
「パワハラというのは、どのような証拠に基づいて仰ってるんです?出来の悪い人間にちょっと強く言ったらパワハラ?そんなことばかり言われたら、上司として指導なんて出来ませんよ」
俺はどこまでも自分を正当化するこの男に呆れていた。お前のは指導なんかじゃなかった。ただの難癖だ。
「そこまで仰るのなら、こちらもそろそろ本気を出して…宜しいですか?」
ニヤッと笑う俺の顔に、相手側の目が少しだけ泳いだのが分かった。
まずは手帳に記された言葉の数々。
『5月17日、報告書を突き返される。すぐ上の人には大丈夫だと印をもらえたが、なんだこの書類は!いつまでこんな書き方してるんだ!と皆の前で叱責。先輩に教えてもらって、これなら大丈夫だと言われるまで直したのに。先輩もおかしいなと言っていた。だってこのやり方、部署共通だし、前回はこれで通ったのに…。僕にも分からない。虫の居所が悪かったのか?』
『5月19日。一昨日の書類は通った。さして直してはいないが、先輩が口添えしてくれたら何も言われずスルー。ホッとしたけど、何が悪かったんだ?』
『5月23日。まただ。僕だけ怒られる。先輩はお前は特に悪くないんだけどなと言ってくれた。嫌われてるのかな?』
『5月30日。資料室の整理をしろと缶詰。時々、先輩や課長が見に来てくれた。でも、必要なのか?もうデータベース化されてるものを並べる仕事なんて。そもそもそんなに乱れてもいない資料を、中身を確認して分類しろだなんて…。自分の仕事も終わってない。これ必要?』
『電話の話し方がなってないと急に怒鳴られた。何を言われているのか分からなかった。親の躾がなってないと言われた。小学校からやり直したらどうだ?なんて。僕だってビジネスマナーは学んでる。周りの人に聞いてみた。そんなにダメでしたか?、と。そんなことないよと慰められた。でも、僕はなってないのかな…。電話を取るのが怖い』
「まだまだありますけど。そもそもそんな叱責が必要なレベルだったんでしょうか?ちゃんと他の人にみてもらった上で提出した書類です。あなたの下の方は印を押した。問題ないレベルの書類を皆の前で叱責する。資料室の整理させる。紙で書類を読むこと自体が少なくなってる今、データベース化されたものを敢えて並べ替えさせる。電話の取り方、取り次ぎ方をまた皆の前で叱責…。何かをやろうとする度に、あなたの顔色を窺うようになったと仰ってました。」
「書類は誤字脱字が多かったんだ!資料室の整理は、勉強になると思ったし、電話の出方はホントになってなかった!」
「じゃあ…。これ、聞いてもらえます?結構キツいですよ?」
相手側の弁護士にも、
「こういうモノの言い方は…。人権侵害行為に…。なりそうですが?」
ICレコーダから聞こえてきたのは、ただ虫の居所が悪い男が、言い返せない少し気の弱い人に対しての罵詈雑言だった。
「私は検察官になるのに必要な努力を知っています。私自身、一度は検察官を目指し、実際検察官になった」
まだ認めようとしないプライドの高そうな男の目をじっと見つめた。
「あなたは覚えていないかもしれない。同じように追い詰められて命を絶ってしまった男を」
「えっ?」
「私は、その男と一緒に検察官を目指し、夢を叶えた。あいつは…。半人前なんかじゃなかった。少なくとも俺より優秀だった。でも、あなたに連日心ない言葉を浴びせられ、過剰な残業をさせられた。どんどん疲弊していったあいつは…。ある日自分の住んでいたマンションで首をくくってしまった…」
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「永山さんが病気になるまで追い詰められたのには、今までの蓄積があるんですよ。どうやら自覚されていないようなので…」
俺はリストを見せた。この男が追い詰めた人達のリストを。
「覚えていないとか…。言いませんよね?この方達は、検察をお辞めになったり、未だに病気療養中の方もいらっしゃいます。あなたの下で働いていた。あなたの言動で追い詰められて、傷ついてしまった人達です。全部まとめてありますけど…。お時間ありますか?全部…相手が悪いと仰いますか?出来の悪い人間だったと仰いますか?」
「俺は…」
「俺は?なんです?良いですよ。聞きましょう。延長しても構いませんよ?料金は発生しません。サービスしますから(笑)」
…………………………………………
話し合いは相手側の弁護士が示談を申し出てきた。それを受けるかどうかは相手側の出方次第。こちらはお金よりも、職場環境の是正が目的だと返してやった。
奴は話し合いの場に現れなかった。弁護士同士の話し合い。汚いよな。てめえのケツはてめえで拭きやがれ!
「で、そちらは…。永山さんが復帰した際、また同じような態度で改めないようでしたら…。こちらも傷つく覚悟で戦います。そのようにお伝え願えますか?」
弁護士は苦笑いしていた。
「だいぶ反省しているようですよ。確かにモノには言い方があります。言動を慎まれないと…。私も厳しいです」
反省だと?子供の使いみたいに弁護士に言わせてるクセに。
「反省…?口では何とでも言えます(笑)。子供の使いじゃないんですから…。誓約書でも…。書いてもらいましょうか?」
「いや、それは…。」
「冗談ですよ(笑)。でも…。同じような事がもし、また起きるようでしたら…。私は本気で戦ってみせますよ。本気でね」
「勘弁して下さいよ。私もあなたを本気で敵に回したくはありません」
「では…。この辺で」
…………………………………………
永山さんの病室に行った。手の震えはどうだろう?
「こんにちは、永山さん」
「あぁ、五代先生。どうでしたか?」
「示談を申し出てきましたよ。こちらはお金より、職場環境の是正が目的だと返しました」
「僕は…。戻れますか?」
永山さんの手はもう震えていなかった。
「ええ。もちろんです」
俺は永山さんの目を見て笑った。
「あなたを失うことは、検察にとっての損害ですから」
永山さんが笑った。
「そんな大げさな(笑)」
「大げさではありません。少なくとも私は…、私だけじゃありませんよ。周りの人達はそう思っています」
永山さんは微笑んだ。少しだけその目が光った。
「泣きそうです(笑)」
「感動して?」
「ええ(笑)」
俺達はお互いの目を見た。心からの尊敬を持って。
「期待してますよ。法廷で私と戦うときは…。手加減して下さい(笑)」
「ダメですよ(笑)」
「冗談ですよ。そんなことされなくても勝ちますから(笑)」
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俺達は握手を交わした。その手はもう震えることなく力強さを取り戻していた。
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