のっぽの僕とメガネの王子

ハジメユキノ

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狡い男

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航が目を覚ますと、隣には准が寝ていた。安心した寝顔に愛おしい気持ちが溢れた。
「俺はずっと君が好きだったんだよ…」
こんなに近くで好きな人の顔を見ていられる事が、こんなに幸せなんだと初めて知った。准の軽く閉じられた唇にそっと口づけた。起こさないようにそっとベッドから降り、テーブルにメモを残して道場に向かった。

「ん…。航さん?」
僕の横には航はいなかった。そんなに眠り込んでしまったかと慌ててダイニングに行くと、テーブルの上にメモが残されていた。
『おはよう。よく寝てたから起こさなかった。俺は毎朝剣道の稽古があるからちょっと出ています。時間があるなら待ってて欲しい。6時半には戻ってくるから』
あと少しで帰ってくる…。

航が家のドアを開けると、温かい空気と美味しそうな匂い、お湯の沸く音がしていた。
ダイニングのドアを開けると、キッチンに立つ准がいた。
「あっ!おはようございます(笑)」
「おはよう。准…」
「勝手にキッチン使ってごめんなさい。昨日ごちそうになったから、せめて朝ごはんくらいって思って…」
航は荷物を放り出して准に抱きついた。
「ありがと…。嬉しいよ」
「おかえりなさい。あの…ごはん食べますか?」
「ん…。准がいいな♡」
ちょっと航さん!甘すぎる!!
困った顔の准を見て吹き出した。
「うそうそ。可愛くてからかった」
「💢」
「眉間にしわ寄せないで(笑)」

テーブルにはオムレツとサラダ、チーズトーストとコーヒーが出てきた。
「美味しそう!いただきます」
両手を合わせていただきますの挨拶をする行儀の良い航を見て、准は不思議な気持ちになった。あまりにも自然で緊張していない自分に驚いていた。
「幸せです。僕の作った朝ごはんを航さんが食べてくれてる…」
「ありがとね。まだ寝ててもよかったのに…」
「だって…朝起きたら居なかったから。びっくりして起きちゃいました(笑)僕、絶対寝過ぎたんだって思って…」
「いいのに寝過ぎても…。体辛くない?」
「えっ?」
「無理しなくてもいいんだよ?可愛い寝顔見て、寝込みを襲おうと思ってたのに(笑)」
も~!からかいすぎ!
航は、ぷりぷりする僕を笑いながら宥めていた。

「僕、いったん家に帰って着替えてから仕事行きますね」
「俺もそろそろ出ないと」
准が玄関でしゃがんで靴を履いていると、航が後ろから抱きしめてきた。
「また連絡するね」
僕の耳許で囁いた。
「は、はい!」
「また顔赤くして…」
僕の顔を自分の方に向けさせて、航は口づけた。僕の髪に手を入れて深くて気持ちの良いキスをしばらくしていた。
「帰したくないな…」
「航さん…」
「なんかあったら言うんだよ?」
心配なのかな…。僕は胸が熱くなった。
「はい…。僕はもう…」
「ん?」
「王子様のものなので…」
「なっ!何言ってんの!俺はそんなじゃないから!」
「行ってきます(笑)」
頭を抱える航を置いて、僕は自分のアパートに帰った。

准がアパートに帰ると、建物の前に立っている男がいた。
「よお!准…。朝帰りかよ。待ってたのに」
祐貴が立っていた。
「帰って下さい」
「准。この前は可愛かったな…」
「僕は祐貴のものじゃない。帰って」
「どうしたんだよ!俺の事あんなに好きだったくせに」
僕は祐貴が伸ばした手を振り払った。
「これから仕事なんだ。祐貴も帰って。仕事でしょ?」
「いいよ、休むから。なぁ、この前は黙って帰って悪かったよ。なっ?家に入れてくれよ」
「僕は仕事に行かなくちゃいけない。それに、僕には恋人がいるから」
「えっ?」
「さよなら」
祐貴が呆然と立ち尽くしていた。僕の事なんて人肌が恋しい時だけのパートタイムラバーくらいにしか思っていなかったくせに…。
僕は自分の部屋に帰った。祐貴はしばらく僕の部屋を見ていた。

「いらっしゃいませ…。あっ…」
「予約してないんですが、空いてますか?」
祐貴だった。どこまで僕の邪魔をするつもりなんだ。
「申し訳ありません…。今日は空いてないんです」
「あっそ。じゃあ予約お願いします」
「…。自分の所で切ってもらえばいいじゃないですか…」
「あんたは客を追い返すのか?感じ悪いな」
店長が見かねてカウンターにやって来た。
「君、荒木さんとこの子だよね。自分の所でやってもらってくれないかな?准くん困ってるの分かるでしょ」
「ん…。分かったよ…。」
祐貴は僕をにらむと、
「准、俺は認めないからな」
と言った。
「祐貴には関係ない」
僕の拒絶に祐貴は仕方なく帰っていった。
店長は僕が震えているのを見て、肩に手を乗せた。
「大丈夫?何があったの。昔付き合ってたのって…あの子?」
僕は頷いた。
「はい…。すみません。ご迷惑おかけして…」
「イヤそんなことはいいんだよ、気にしなくても」
「僕、時々気まぐれに帰ってくる祐貴のこと拒めなくて…」
「イヤなんでしょ?さやかと話してたのってその事?」
「はい…。でももう本当に断ったんです。付き合ってる人がいるので…」
「ふ~ん…。増田さん?」
ズバリ当てられて僕はびっくりした。
「准くんはわかりやすい(笑)」
僕ってそんなにわかりやすいんですか…。
「准くん良かったね。増田さんね、この前…多分准くんがあの子に何かされて元気なかった時、俺に言ったんだよ。自分の担当じゃないのに、准くん大丈夫なの?って。心配してたんだよ」
「…すみません」
下を向いて震える僕に店長は言った。
「俺も准くんが増田さんとそうなって良かったって思うよ。あの人優しいからね」
「はい…。ありがとうございます」
「さやかも言ってたけど、俺も准くんには幸せになってもらいたいと思うよ」
「え?」
「准くん。君はもっと自信持っていいよ。腕がいいだけじゃない。君の優しさはみんな分かってる。みんなに愛されてるんだよ?それはどんなに腕を磨いても手に入るものじゃないんだから」
「店長…」
「ね?増田さん」
えっ…。振り返ると制服姿の航が立っていた。
「こんにちは(笑)」
「こ、増田さん…」
「増田さん?」
「でも…」
「うそうそ。大丈夫?准くん」
右えくぼをへこませて笑う航を見て、僕は涙腺が緩みそうで困った。仕事中に泣いてる場合じゃない!
「今日准くんは何時にあがれそうですか?」
「ウ~ン…予約の状況からみて8時かな…。遅くてごめんね、増田さん(笑)」
「じゃあその頃また来ます。准くんのことよろしくお願いします、店長(笑)」
「お預かりします(笑)」
やだ、二人して…。真っ赤な准を二人でからかうように笑って航はパトロールに戻っていった。
…………………………………………………………………
祐貴はまだ帰っていなかった。向かいの建物の影で店の中を見ていた。
「あいつが准の男なのか…」
笑っている3人を見て、祐貴は歯ぎしりをしていた。自分でも何でこんなに悔しい気持ちになるのか分からなかった。
「俺の方がいいに決まってる。あんなチビより…」
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