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優しい気持ち
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香月が飛び出して行ってしまったが、加東は追いかけなかった。自分が口から発した言葉を理解するのに時間がかかったからだ。
ソファに崩れ落ちるように座り、頭を抱えていた。
「俺は何をしてるんだ…」
香月の依頼を請けるにあたって、一応身辺を洗っていたのだが、職場、取引先、果ては近所の住人、ありとあらゆる人間が彼女の外見ではない内面を好んでいた。知れば知るほど興味が尽きなかった。
「なんで旦那の尻ぬぐいまで…」
彼女を苦しめた女の嘘の妊娠まで心配するなんて。お人好しにも程がある。
「何が不満なんだ。あの野郎」
香月は最終的には別れられればいいなんて、また旦那を許すんだろう。せめて、お金では癒やせないかもしれないが、とれるものは取らせてやらないと…。
香月は事務所の近くにあった公園で、息を整えていた。
「何で…何の得があるの。私の依頼なんて、離婚できたら終わるのに」
自分の損になると分かっていて行動しようとしている男が不思議だった。私のためになんて…。
とにかくやめさせないと。そんな危ない橋を渡らせる訳にはいかない。
次の日、香月はまた加東を訪ねた。事務所は鍵がかかっていて、御用の方はこちらへと電話番号が書いた札がさがっていた。電話をしようと携帯を取り出していると加東が帰ってきた。
「あっ!すみません…。ずいぶん待ちましたか?」
「いえ…。アポイントも取らずに押しかけてすみません…」
事務所に通された香月は、
「私の依頼は忘れて下さい」
と告げた。加東は黙って香月を見つめていた。
「私の依頼を請けなければ、何を頼まれたのか分かりませんが、今からでも断れるはずです。危ない事はしないで下さい!」
加東は何も言わなかった。
「何故黙っているんですか!違法な事をしてまで私の依頼を請けたってたいしたお金にもならないし、自分の経歴にも傷が付くかもしれないんですよ!分かってるん…」
最後まで言えなかった。加東が香月を抱きしめていた。
「いいんです。俺は捕まったところで、誰も悲しむ人なんていない。それに、その前にちゃんと手を引きますよ。そうやって生きてきたんですから…」
香月は男の言葉に孤独を感じた。そんなの哀しすぎる…。
加東は自分の腕の中の香月が泣いているのに気付いた。
「何故あなたが泣くんです?あなたは何も知らなくていい。これは俺が勝手にやってることなんですから」
香月は泣きながらも加東の腕の中でダメだと首を振り続けた。
こんな胡散臭い一匹狼の探偵のために涙を流すこの人が愛しいと、初めて自分の気持ちに気付いた。思わず口をついて出た言葉ではなく、心の奥底にあった自分でも驚くほどあたたかい気持ちに…。
そっと肩に手をかけ、泣き続けている香月に優しいキスをした。この人の優しさなのか、黙って俺の唇を受けてくれた。
ソファに崩れ落ちるように座り、頭を抱えていた。
「俺は何をしてるんだ…」
香月の依頼を請けるにあたって、一応身辺を洗っていたのだが、職場、取引先、果ては近所の住人、ありとあらゆる人間が彼女の外見ではない内面を好んでいた。知れば知るほど興味が尽きなかった。
「なんで旦那の尻ぬぐいまで…」
彼女を苦しめた女の嘘の妊娠まで心配するなんて。お人好しにも程がある。
「何が不満なんだ。あの野郎」
香月は最終的には別れられればいいなんて、また旦那を許すんだろう。せめて、お金では癒やせないかもしれないが、とれるものは取らせてやらないと…。
香月は事務所の近くにあった公園で、息を整えていた。
「何で…何の得があるの。私の依頼なんて、離婚できたら終わるのに」
自分の損になると分かっていて行動しようとしている男が不思議だった。私のためになんて…。
とにかくやめさせないと。そんな危ない橋を渡らせる訳にはいかない。
次の日、香月はまた加東を訪ねた。事務所は鍵がかかっていて、御用の方はこちらへと電話番号が書いた札がさがっていた。電話をしようと携帯を取り出していると加東が帰ってきた。
「あっ!すみません…。ずいぶん待ちましたか?」
「いえ…。アポイントも取らずに押しかけてすみません…」
事務所に通された香月は、
「私の依頼は忘れて下さい」
と告げた。加東は黙って香月を見つめていた。
「私の依頼を請けなければ、何を頼まれたのか分かりませんが、今からでも断れるはずです。危ない事はしないで下さい!」
加東は何も言わなかった。
「何故黙っているんですか!違法な事をしてまで私の依頼を請けたってたいしたお金にもならないし、自分の経歴にも傷が付くかもしれないんですよ!分かってるん…」
最後まで言えなかった。加東が香月を抱きしめていた。
「いいんです。俺は捕まったところで、誰も悲しむ人なんていない。それに、その前にちゃんと手を引きますよ。そうやって生きてきたんですから…」
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加東は自分の腕の中の香月が泣いているのに気付いた。
「何故あなたが泣くんです?あなたは何も知らなくていい。これは俺が勝手にやってることなんですから」
香月は泣きながらも加東の腕の中でダメだと首を振り続けた。
こんな胡散臭い一匹狼の探偵のために涙を流すこの人が愛しいと、初めて自分の気持ちに気付いた。思わず口をついて出た言葉ではなく、心の奥底にあった自分でも驚くほどあたたかい気持ちに…。
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